【完結】悪意か、善意か、破滅か

覚悟１

「いい加減にしてください」
「お前に言う権利があるのか！」
「ないです！ですが、だからこそ対応を考えなくてはならないのです」
「対応？」
「不敬についてです！」

　何を聞いているのだと、ジェフは呆れるしかなかった。

「な！それなら、呆けているとでも言って置けばいいだろう」
「それは違うと言っているのですよ、母上が！」
「実はそうだったと言えばいいじゃないか」
「大公閣下夫人は、確認をされています。オルタナ王国のレオラッド大公家と、アジェル王国のマクローズ伯爵家、どちらを信用すると思いますか？」
「っ！」

　考えるまでもなく、どちらを切るかと言われれば、アジェル王国でもマクローズ伯爵家を選ぶだろう。

「国の問題にもなり兼ねませんから、王太子殿下に相談をさせていただきます」
「そんな大事にしなくても…」
「レオラッド大公閣下は容赦のない方だそうです。ですが、表立って非情なことは起きていないそうです。夫人が抑えているのかもしれません」

　ジェフはバトワスからレオラッド大公閣下に、容赦のない方だと聞き、戦々恐々としていたが、処刑や奴隷などは表立っては起きていないことから、エルム夫人が抑えている可能性を聞いていた。

「なら！」
「今回は母上は夫人に話をしています。何が起こるか分かりません」
「そ、それは…」
「父上も覚悟をして置いてください」

　ジェフは目を見開いたままのジョージを別邸に戻し、バトワスに連絡をして、翌日には時間を貰うことが出来た。

「申し訳ございません」

　王宮に赴いたジェフはバトワスに、深く頭を下げた。

「まず、大公閣下夫人が来ていたのか？」

　バトワスはジェフから連絡を貰い、エルム大公閣下夫人がアジェル王国に来ていたことに大変驚き、マクローズ前伯爵夫人の発言した内容に、なんてことを言っているのだと驚愕するしかなかった。

「はい、そのようです」
「それで、前伯爵夫人が不敬にあたることを言ったと」
「はい…申し訳ございません。両親とは同じ敷地にいるだけの関係になっており、大公閣下夫人のことは何も伝えておりませんでした」
「そうだったのか」
「ですが、聞いていても同じ行動をしたのではないかとすら思います」
「そ、そうか」

　マクローズ伯爵家の関係性が悪くなっていることも知らなかったが、大公閣下夫人だと聞いていても同じだったとは、ジェフのことではあるが、どれだけ面の皮が厚いのかと考えていた。

「私が勝手に謝罪を行ってもいいものなのか、失礼になるのではないかと、分かり兼ね、連絡をさせていただきました」
「そうだな、ジェフは入国禁止になっているからな。連絡してくれて良かった」

　ジェフに関しては手紙を送っただけでも、怒らせる可能性すらある。

「はい、お手を煩わせて申し訳ないのですが、罰も覚悟しております」
「ああ、こちらからレオラッド大公閣下に連絡をしてみよう」
「よろしくお願いいたします」
「なぜ、夫人がアジェル王国に来たかは聞いたか？」
「いいえ。ですが、アニバーサリーとフォンターナ家の跡地を見ていたようです」

　サラの話だと、ハイリーは一方的に要求を突き付けていたようで、何しに来たのかは言っていなかった。

「そうか、どうなっているか見に来たのだろうか」
「そうではないかと思います」
「そうか…ジェフは会っていないのだよな？」
「はい、母に付いていた侍女の話だと、眼鏡を掛けた美しい夫人だったと申しておりました」

　ジェフも眼鏡と聞き、当時のではあるが、エルムの姿がよみがえっていた。

「母は大公閣下夫人が戻ってくるのだと思い込み、一方的に自分の都合のいいことばかりを話していたようですから」
「戻って来るはずがないだろう」
「はい、その通りです」

　大公閣下夫人になっていなくとも、バトワスもジェフも戻ってくることなど、想像することも出来なくなっていた。