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消える前の母1
サイラは家を出る前に実家、もしかしたら領地の方に行くかもしれないと言って、ユーリに頼まれたミランス・オーリーの墓参りに行っていた。
ユーリから渡された墓地の場所は、オーリー男爵領だった。
目的だけで先走って、一人で行こうと思っていたが、医院で会ったクレア・マクシス伯爵夫人が、一人では危ないと馬車と護衛まで用意してくださった。
宿に泊まりながら、三日かけてようやく辿り着いた。とても自然豊かでいい領地だった。グラーフ伯爵領も豊かではあるが、夫・アレクスは王都が好きで、領地には一年に一度行く程度で、家令に任せている。
墓地に着くと名前を伝えて、案内して貰った。
「御親戚ですか?」
「いえ、娘がお世話になったものですから」
「そうでしたか…いい青年でしたからね」
「はい、そう聞いています」
ユーリはミランス様を私にはないものしか持っていない人だと、前向きで優しく、明るい人だと言っていた。
私も一度しか会っていないが、いい青年だと思った。これでユーリが家を出て幸せになってくれると、信じていた。
トスター侯爵家からオーランドとの結婚を持ち込まれた時、メルベールが嫁ぐなら、わざわざ嫁がせなくてもいいじゃないかと、その時点で既に婚約は決定していたようなものだったが、サイラは反対した。
元々、アレクスがトスター侯爵家と縁続きになりたいと思っていることは分かっていた。夫妻と双子同士で結婚させたら面白いという言葉を、アレクスが嬉しそうにしていたのを見ている。
私は同意を求められて、その場を乱さぬように同調していたが、本気では思っていなかった。だが、アレクスは本気だったのだろう。
「あなたが勝手に進めたの?」
「オーランドくんが丁度いいと言ってくれているんだ。あいつにこれ以上の縁談があると思っているのか?伯爵家だぞ?」
「ユーリはオーリー様と婚約したいと」
「男爵家など価値はない、断れば終いだ」
「私は反対です!」
「お前の意見など聞いていない。当主が良いとしているのだ、メルベールも喜んでいる。断って、機嫌を損ねて、メルベールの縁談もなくなったらどうするんだ!そんなことも分からないのか!」
私が何を言っても当主たちで婚約は決まってしまい、何も出来なかった。ユーリは諦めた様子で、結婚式ですら、何も意見を言わなかった。
ただオーランドは「大事にします、傷付けません」と言ってくれた。丁度いいという言葉が気に入っていたアレクスは不満そうな顔をしていたが、夫のユーリへの態度に気付いているのだと思った。
それだけは救いだと思ったが、それも間違いだった…。
こちらですと言われた、ミランス様の墓もまだ新しさを残して、輝いていた。ご両親も私の様に辛かっただろう。来る前に買った花を置き、祈った。
ミランス様がユーリをどう思っていたかは分からない。でもユーリはきっと彼の未来を願っていただろう。亡くなったと知ったら、悲しむだろうか。
もしあの世があるのなら、二人を出会わせて欲しい。
「あの…」
女性の声がして、目を開けると、同じ年くらいの女性だった。母親だろうか?会うつもりなどはなかった。案内した者が知らせたのかもしれない。
「申し訳ありません、勝手に」
「いえ、息子のお知り合いでしょうか」
「あの…私は、不快かもしれませんが、グラーフ伯爵家のサイラと申します。ユーリの母です」
縁談が簡単になくなったことを考えると、男爵家に夫が圧力を掛けている可能性があるため、名乗りたくはなかったが、名乗らないのも失礼だと思った。
「まあ、そうでしたか、わざわざありがとうございます。私はマイカ・オーリーと申します」
「いえ、勝手に参らせてもらい、申し訳ありません」
「いいえ、息子も有難いと思っていると思います」
伯爵家と聞けばそう言うしかないだろうと思い、心苦しかった。
ユーリから渡された墓地の場所は、オーリー男爵領だった。
目的だけで先走って、一人で行こうと思っていたが、医院で会ったクレア・マクシス伯爵夫人が、一人では危ないと馬車と護衛まで用意してくださった。
宿に泊まりながら、三日かけてようやく辿り着いた。とても自然豊かでいい領地だった。グラーフ伯爵領も豊かではあるが、夫・アレクスは王都が好きで、領地には一年に一度行く程度で、家令に任せている。
墓地に着くと名前を伝えて、案内して貰った。
「御親戚ですか?」
「いえ、娘がお世話になったものですから」
「そうでしたか…いい青年でしたからね」
「はい、そう聞いています」
ユーリはミランス様を私にはないものしか持っていない人だと、前向きで優しく、明るい人だと言っていた。
私も一度しか会っていないが、いい青年だと思った。これでユーリが家を出て幸せになってくれると、信じていた。
トスター侯爵家からオーランドとの結婚を持ち込まれた時、メルベールが嫁ぐなら、わざわざ嫁がせなくてもいいじゃないかと、その時点で既に婚約は決定していたようなものだったが、サイラは反対した。
元々、アレクスがトスター侯爵家と縁続きになりたいと思っていることは分かっていた。夫妻と双子同士で結婚させたら面白いという言葉を、アレクスが嬉しそうにしていたのを見ている。
私は同意を求められて、その場を乱さぬように同調していたが、本気では思っていなかった。だが、アレクスは本気だったのだろう。
「あなたが勝手に進めたの?」
「オーランドくんが丁度いいと言ってくれているんだ。あいつにこれ以上の縁談があると思っているのか?伯爵家だぞ?」
「ユーリはオーリー様と婚約したいと」
「男爵家など価値はない、断れば終いだ」
「私は反対です!」
「お前の意見など聞いていない。当主が良いとしているのだ、メルベールも喜んでいる。断って、機嫌を損ねて、メルベールの縁談もなくなったらどうするんだ!そんなことも分からないのか!」
私が何を言っても当主たちで婚約は決まってしまい、何も出来なかった。ユーリは諦めた様子で、結婚式ですら、何も意見を言わなかった。
ただオーランドは「大事にします、傷付けません」と言ってくれた。丁度いいという言葉が気に入っていたアレクスは不満そうな顔をしていたが、夫のユーリへの態度に気付いているのだと思った。
それだけは救いだと思ったが、それも間違いだった…。
こちらですと言われた、ミランス様の墓もまだ新しさを残して、輝いていた。ご両親も私の様に辛かっただろう。来る前に買った花を置き、祈った。
ミランス様がユーリをどう思っていたかは分からない。でもユーリはきっと彼の未来を願っていただろう。亡くなったと知ったら、悲しむだろうか。
もしあの世があるのなら、二人を出会わせて欲しい。
「あの…」
女性の声がして、目を開けると、同じ年くらいの女性だった。母親だろうか?会うつもりなどはなかった。案内した者が知らせたのかもしれない。
「申し訳ありません、勝手に」
「いえ、息子のお知り合いでしょうか」
「あの…私は、不快かもしれませんが、グラーフ伯爵家のサイラと申します。ユーリの母です」
縁談が簡単になくなったことを考えると、男爵家に夫が圧力を掛けている可能性があるため、名乗りたくはなかったが、名乗らないのも失礼だと思った。
「まあ、そうでしたか、わざわざありがとうございます。私はマイカ・オーリーと申します」
「いえ、勝手に参らせてもらい、申し訳ありません」
「いいえ、息子も有難いと思っていると思います」
伯爵家と聞けばそう言うしかないだろうと思い、心苦しかった。
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