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父の言葉
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何てことだ、正義とは何か分かっていたのはアイレットの方だったのではないか。悪を罰することことばかりに固執してはいけないと、父によく言われていた。
『目の前の悪を見逃すことも罪だが、罰して終わりではない。そして罰することだけが正義ではない。一方しか見ていないと、いつか必ず過ちを犯す』
それなのに、私も、3人の子どもたちも目の前の悪を憎むことが正義だと思う方が強くなっているのではないか。子どもたちが仲裁した嫌がらせのことも、助けを求めてくれれば良かったのにと思っていたが、下級貴族が無暗に侯爵家の人間に近付くことは出来ない。
近付けば、常識がない、助けてもらったからといい気になっていると言われる可能性もある。子どもたちも正義のマスタールが止めたのだから、もう起こらないと驕り、思い込んでいたのではないか。『大丈夫』だと言われれば、そのまま受け取っていたのではないか。
助けたことによってより悪質になり、一番逆らえない部分で脅して、隠されていたのではないか。調べてくれたメディコ伯爵家に感謝しなければならない。
あくまで中立にカウンセリングを受けさせて、事実を確認し、第三者が入ることで冷静になることもある。プロに任せることも良いことだっただろう。万が一、続く場合でも、侯爵家と違って、カウンセラーに話をする機会は作れるはずだ。あとは脅されていたとしても話す勇気の問題となる。
それがアイレットという孤高の存在ならば、誰もが権力や嫌がらせではないことは信じられる。一番、正義のマスタールの正しい使い方ではないだろうか。
マスタールの教えではなく、アイレットの勉強と、聖書と礼拝の賜物なのか。
「修道女ですか、合っているかもしれませんね。私も話を聞いて欲しいと思います。もし、息子と話をしてくれる気になったら、相手をしてやって欲しい、親としてはそのくらいの気持ちですから。縁談のことは元からなかったことにしましょう」
「お気遣いいただきありがとうございます」
こうして縁談はなかったことになった。
ただアデリーナがどうしてホリスト公爵家との縁談を口走るようなことになったのか、アデリーナには気付かせずに、侍女・ディールを呼ぶことにした。
「アデリーナが縁談があるような素振りがあったか」
「はい、ございました」
「誰かや、どのようなことがあったか聞かせて貰えないか」
「どなたかは分かりませんが、3ヶ月前くらいから機嫌がよくなりました。その頃、何かあったのではないかと思います。顔合わせが楽しみだわとおっしゃったり、ドレスも新調されて、そのまま着られておりません」
3ヶ月前と言えば、アイレットの縁談があった頃だったが、秘密裏に話を付けたため、洩れている可能性はない。相手がビオ公爵家、洩らすわけにもいかなければ、洩らすはずもない。
アデリーナもビオ公爵家の名前は出さなかった、アイレットの縁談などと言ったら、またに怒り向けるだろうことは想像出来る。
「どこかで親しくなった者がいたのだろうか」
「そこまでは分かりません、お相手も教えてはいただけませんでしたから」
「誰かと会っているような素振りはあったか?」
「いえ、元々知り合いのご友人くらいでしょうか。その場にどなたかがいたのならば、付き添っていない場合、私には分かりません」
「手紙のやり取りなどもか」
「はい、今まで交流のなかった方はおりませんでした」
ホリスト公爵家とも、婚約者がいるような男性とやり取りをしていたわけではないのか。問い詰めたところで、傷を抉るだけだろう。
「縁談はタイミングが悪くなくなったのだ、もしかしたら荒れるかもしれないが、そっとして置いてやって欲しい。君に当たるようなことがあれば執事に言いなさい」
「はい、承知いたしました」
『目の前の悪を見逃すことも罪だが、罰して終わりではない。そして罰することだけが正義ではない。一方しか見ていないと、いつか必ず過ちを犯す』
それなのに、私も、3人の子どもたちも目の前の悪を憎むことが正義だと思う方が強くなっているのではないか。子どもたちが仲裁した嫌がらせのことも、助けを求めてくれれば良かったのにと思っていたが、下級貴族が無暗に侯爵家の人間に近付くことは出来ない。
近付けば、常識がない、助けてもらったからといい気になっていると言われる可能性もある。子どもたちも正義のマスタールが止めたのだから、もう起こらないと驕り、思い込んでいたのではないか。『大丈夫』だと言われれば、そのまま受け取っていたのではないか。
助けたことによってより悪質になり、一番逆らえない部分で脅して、隠されていたのではないか。調べてくれたメディコ伯爵家に感謝しなければならない。
あくまで中立にカウンセリングを受けさせて、事実を確認し、第三者が入ることで冷静になることもある。プロに任せることも良いことだっただろう。万が一、続く場合でも、侯爵家と違って、カウンセラーに話をする機会は作れるはずだ。あとは脅されていたとしても話す勇気の問題となる。
それがアイレットという孤高の存在ならば、誰もが権力や嫌がらせではないことは信じられる。一番、正義のマスタールの正しい使い方ではないだろうか。
マスタールの教えではなく、アイレットの勉強と、聖書と礼拝の賜物なのか。
「修道女ですか、合っているかもしれませんね。私も話を聞いて欲しいと思います。もし、息子と話をしてくれる気になったら、相手をしてやって欲しい、親としてはそのくらいの気持ちですから。縁談のことは元からなかったことにしましょう」
「お気遣いいただきありがとうございます」
こうして縁談はなかったことになった。
ただアデリーナがどうしてホリスト公爵家との縁談を口走るようなことになったのか、アデリーナには気付かせずに、侍女・ディールを呼ぶことにした。
「アデリーナが縁談があるような素振りがあったか」
「はい、ございました」
「誰かや、どのようなことがあったか聞かせて貰えないか」
「どなたかは分かりませんが、3ヶ月前くらいから機嫌がよくなりました。その頃、何かあったのではないかと思います。顔合わせが楽しみだわとおっしゃったり、ドレスも新調されて、そのまま着られておりません」
3ヶ月前と言えば、アイレットの縁談があった頃だったが、秘密裏に話を付けたため、洩れている可能性はない。相手がビオ公爵家、洩らすわけにもいかなければ、洩らすはずもない。
アデリーナもビオ公爵家の名前は出さなかった、アイレットの縁談などと言ったら、またに怒り向けるだろうことは想像出来る。
「どこかで親しくなった者がいたのだろうか」
「そこまでは分かりません、お相手も教えてはいただけませんでしたから」
「誰かと会っているような素振りはあったか?」
「いえ、元々知り合いのご友人くらいでしょうか。その場にどなたかがいたのならば、付き添っていない場合、私には分かりません」
「手紙のやり取りなどもか」
「はい、今まで交流のなかった方はおりませんでした」
ホリスト公爵家とも、婚約者がいるような男性とやり取りをしていたわけではないのか。問い詰めたところで、傷を抉るだけだろう。
「縁談はタイミングが悪くなくなったのだ、もしかしたら荒れるかもしれないが、そっとして置いてやって欲しい。君に当たるようなことがあれば執事に言いなさい」
「はい、承知いたしました」
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