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妹の縁談
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マスタール侯爵はビオ公爵邸に招かれ、ビオ公爵と対峙していた。ビオ公爵は話の分からない方ではないが、納得して、穏便に縁談を断らなくてはならない。
「その顔はお断りでしょうか?他に縁談があったのでしょうか」
「いえ、アイレットは幼い頃から修道女になりたいと言っておりまして」
「そうでしたか」
ビオ侯爵は嫌な顔はせず、なるほどといった顔で頷いている。
「お疑いでしたら、毎週礼拝にも通っておりますので、事実だと分かっていただけると思います」
「いえ、疑ってはおりません。私も息子にもまだ話していないんですよ」
「そ、そうでしたか」
息子の強い希望というわけではなかったのなら、良かったのかもしれない。正直、いくら賢くとも、アイレットは貴族の妻、特に高位貴族の妻が似合うような者ではないことは分かるだろう。
「ええ、息子が頭痛で保健室で休んでいた際に、偶然聞いたお嬢さんの言葉に感激したそうでね、嬉しそうに話すものですから、会わせてみてはどうかと思いましてね。私の勝手な縁談だったのです」
「そうでしたか」
しかし、アイレットは何を言ったのだろうか、あの子が家族はおろか他人にペラペラ話す姿が想像できない。
「娘は、何を言ったのでしょうか。実は…家でも無口な子であまり私共には話してくれませんで」
「無口だとは聞いております。孤高の才女と言われているとも聞いています」
「そのように言われているのですか、はは」
孤高とは、余程ひとりでいるのだろう。そして周りも本人もおそらく問題ないとされている。友人をつくらせようとしたこともあったが、私といても皆つまらないだろうからと、友人も出来なかった。
「ずっと1位を独走ですから、才女は外せませんでしょう」
「恐れ入ります」
父もさすがに学園に確認を取った、間違いなくずっと1位だったそうだ。上の3人なら絶対1位だったと言って来ただろう。褒美をと願われたかもしれない、そして願われていたら与えていただろう。
だが、アイレットは言わない、今まで知らなかったと言い、さらには勉強は1位を取るためなのかと言い、何も反論できなかった。私も妻も、3人もいい成績を取る、順位が高い方が誇らしいと思って生きて来た。
「正義のマスタール侯爵に話すのも気が引けますが」
「是非とも、教えてください」
「学園では嫌がらせ、揉め事が起こるそうなんです。まあ高位貴族に言って来る者はおりませんが。お嬢さんは嫌がらせがあっても仲裁はせず、観察して、その後で傷を負ったであろう方を、毎回保健室に連れて行くのはご存知ですか」
「いっえ、知りません」
他人に興味のなさそうなあの子がそんなことをしていたのか、意外だった。
「そこで息子が偶然聞いたそうなんですが、その子はどうも怪我というものはしていなかったそうなんです。ですが、お嬢さんは『心の傷も、学園であれば保健室ではないですか』と、そう言ったそうです。息子はその言葉に感激したそうです。いい教育をされていますね、さすがマスタール家です」
「あっ、ありがとうございます」
兄や姉とは違うが、ちゃんとあの子にマスタールの正義は伝わっていたということだろう。放置していた兄や姉とは違って、ちゃんとフォローもしている。
「お嬢さんは彼女の担任を聞き、話をしに行ったそうです。彼女と、そして彼女に嫌がらせをしていた者たちにもカウンセリングを受けるようにと」
「カウンセリング?そうですか、カウンセリングですか」
「ええ、お嬢さんはその時を見ただけですから、何があったかは分からない、もしかしたら、やり返されただけかもしれませんからね。その場では傷付いた方を助けはしましたが、双方にカウンセリングを受けさせるようにと。おかげでなくなったわけではないが、嫌がらせは減ったように思うと息子が言っておりました。心の傷は見えませんが、負った方は辛いでしょうからね」
「はい…その通りです」
「その顔はお断りでしょうか?他に縁談があったのでしょうか」
「いえ、アイレットは幼い頃から修道女になりたいと言っておりまして」
「そうでしたか」
ビオ侯爵は嫌な顔はせず、なるほどといった顔で頷いている。
「お疑いでしたら、毎週礼拝にも通っておりますので、事実だと分かっていただけると思います」
「いえ、疑ってはおりません。私も息子にもまだ話していないんですよ」
「そ、そうでしたか」
息子の強い希望というわけではなかったのなら、良かったのかもしれない。正直、いくら賢くとも、アイレットは貴族の妻、特に高位貴族の妻が似合うような者ではないことは分かるだろう。
「ええ、息子が頭痛で保健室で休んでいた際に、偶然聞いたお嬢さんの言葉に感激したそうでね、嬉しそうに話すものですから、会わせてみてはどうかと思いましてね。私の勝手な縁談だったのです」
「そうでしたか」
しかし、アイレットは何を言ったのだろうか、あの子が家族はおろか他人にペラペラ話す姿が想像できない。
「娘は、何を言ったのでしょうか。実は…家でも無口な子であまり私共には話してくれませんで」
「無口だとは聞いております。孤高の才女と言われているとも聞いています」
「そのように言われているのですか、はは」
孤高とは、余程ひとりでいるのだろう。そして周りも本人もおそらく問題ないとされている。友人をつくらせようとしたこともあったが、私といても皆つまらないだろうからと、友人も出来なかった。
「ずっと1位を独走ですから、才女は外せませんでしょう」
「恐れ入ります」
父もさすがに学園に確認を取った、間違いなくずっと1位だったそうだ。上の3人なら絶対1位だったと言って来ただろう。褒美をと願われたかもしれない、そして願われていたら与えていただろう。
だが、アイレットは言わない、今まで知らなかったと言い、さらには勉強は1位を取るためなのかと言い、何も反論できなかった。私も妻も、3人もいい成績を取る、順位が高い方が誇らしいと思って生きて来た。
「正義のマスタール侯爵に話すのも気が引けますが」
「是非とも、教えてください」
「学園では嫌がらせ、揉め事が起こるそうなんです。まあ高位貴族に言って来る者はおりませんが。お嬢さんは嫌がらせがあっても仲裁はせず、観察して、その後で傷を負ったであろう方を、毎回保健室に連れて行くのはご存知ですか」
「いっえ、知りません」
他人に興味のなさそうなあの子がそんなことをしていたのか、意外だった。
「そこで息子が偶然聞いたそうなんですが、その子はどうも怪我というものはしていなかったそうなんです。ですが、お嬢さんは『心の傷も、学園であれば保健室ではないですか』と、そう言ったそうです。息子はその言葉に感激したそうです。いい教育をされていますね、さすがマスタール家です」
「あっ、ありがとうございます」
兄や姉とは違うが、ちゃんとあの子にマスタールの正義は伝わっていたということだろう。放置していた兄や姉とは違って、ちゃんとフォローもしている。
「お嬢さんは彼女の担任を聞き、話をしに行ったそうです。彼女と、そして彼女に嫌がらせをしていた者たちにもカウンセリングを受けるようにと」
「カウンセリング?そうですか、カウンセリングですか」
「ええ、お嬢さんはその時を見ただけですから、何があったかは分からない、もしかしたら、やり返されただけかもしれませんからね。その場では傷付いた方を助けはしましたが、双方にカウンセリングを受けさせるようにと。おかげでなくなったわけではないが、嫌がらせは減ったように思うと息子が言っておりました。心の傷は見えませんが、負った方は辛いでしょうからね」
「はい…その通りです」
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