【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ

文字の大きさ
62 / 67

牧師の言葉

しおりを挟む
 さらに三年が経ったある日、アイレットは大公閣下から届いた手紙を読んでいた。最近は、いつでも迎えに行くよが、さよならの代わりに使われている。どうしたものかと思っていた。

「アイレット、違う道を進むのも悪くはないよ」
「牧師様、どうしたんですか」

 声を掛けたのは、アイレットをクリスティアナ教会にスカウトしたシーラ牧師だった。もう二十年以上の付き合いになる。

「手紙の相手を知っている…」
「別に隠してはいませんよ、友人ですから。預言者みたいなことを言わないでくださいよ」
「ふふふ、結婚が幸せだなんて思っているんじゃないだろうね」
「牧師の台詞ですか」
「台詞ですよ、幸せになりますと結婚した人が、傷付いたのをどれだけ見たと思っているんですか」
「それは、そうですね」
「あなたは、結婚が幸せだと思っているから、結婚したくはないと思っているのではないですか?」
「そうですね、そう思って生きて来ました」

 幸せになどなってはいけないという思いから、結婚をする選択肢はなかった。

「あなたが何か抱えているのは知っています。誰かに話して、楽になりたい。そう思っていないことも」

 牧師は幼い頃から礼拝に通うアイレットをずっと見て来た。何か懺悔するように、一生懸命に祈っていた。何か償いたいことがある、そして通い続けることから、一時的なものではないことを察した。

 話して整理が出来ることもあると、訊ねたこともあるが、これは私だけの罪ですから牧師様には分けられませんと言った。

「…それは」
「償いならば、結婚も償いになるかもしれませんよ」
「結婚が?」
「そうです、結婚して苦労することも償いになるかもしれません」
「かもしれません?」
「そうです、預言者ではありませんから、かもしれないでいいのです。誰かのために生きてみるのも、償いですよ」

 償い方は人それぞれである。アイレットの場合は、ここではなくてもいい。そんな時期に来ていると思っている。

「追い出したいのですか?」
「まさか、アイレットの授業は評判がいいですよ」
「じゃあ、いいではありませんか」
「これはあなたをずっと見て来た私の希望です。私はあなたに人の想いを受け入れて欲しい、そう思っています」
「受け入れる…」

 私は前世の罪も、生まれ変わったことも、家族のことも、色んなことを受け入れてきたつもりだったが、そうではなかったのだろうか。

「そう、あなたは与えてばかり」
「寄付とか貰ってますけど」
「寄付は有難く、いただきます。受け取るのです、人の見えない思いを、どうですか。賢いあなたなら分かるでしょう?」
「意地悪な言い方ですね、でも言いたいことは、はい、分かります」

 アイレットという一人の人間として、見えない思いを受け入れろと言っているのだろう。シーラ牧師は軽口を言いながら、核心を突いて来る。敵わない。

「踏み出してみなさい。有難い牧師様の御言葉です」
「本当に預言者みたいになってますよ」

 アイレットは大公閣下に、では迎えに来てくださいとだけ書いて送った。大公閣下と修道女、どうなるのか分からないが、どうにかなるのだろうと思った。

 修道女だけでは償いになるわけではない、そんな理由にして、足りなかったとしても、受け取ってみようと、そう思った。

 仕事は?大公閣下でしょう?と言いたくなったが、二日後には本当に大公閣下は迎えに来た。

「会いたかった」

 私の会いたい人はもういないが、私に会いたいと言ってくれる人がいる。それはとても大事にしなければならなかったのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

諦めていた自由を手に入れた令嬢

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。 これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。 実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。 自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

処理中です...