私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
807 / 861

経緯1

「あっ、すみません。いいのですか?」
「お使いください」
「すみっ、ません……ありがとうございます。何だか、目では理解していたのですが、やっと実感が湧いて来て……」

 ソアリスはガッシリと抱きしめてやりたい気持ちだったが、驚かせてしまうだろうと我慢した。

「あなたのペースで、ゆっくりでいいわ。後、美味しいジュースを用意しましたの。どの味がいいかしら?」

 ポーリアがアップル、オレンジ、グレープ、グレープフルーツ、トマトのジュースをワゴンを運んで来て、答えを待った。

「はい、ではアップルをお願いします」
「分かりました。ソアリス様はいかがしますか?」
「私はオレンジにするわ」
「承知いたしました」

 ポーリアはオレンジジュースをソアリスの前に、アップルジュースをマリーの前に置いた。

「召し上がれ」

 ソアリスはそう言って、オレンジを豪快にグビグビと一気飲みして見せ、「美味しい、もう一杯」と声を上げた。ポーリアはすかさず追加で注いだ。

「マリーさんはゆっくり飲んで頂戴ね。私、喉が渇いていたみたい。失礼しました」
「いえ……ありがとうございます」

 マリーもアップルジュースを一口、美味しかったのか、もう一口と飲んだ。

 相手が口を付けやすいように、おかわりもしやすいように、褒められたマナーではないが、ソアリス流の和ませる雰囲気作りである。

「実はね、あなたがいなくなったと、美味しい肉串屋の奥さんから聞いたの。とても心配してらしたわ」
「っえ、奥さんが……?」

 セザンアース侯爵家のこともあるが、どう思っているかはまだ分からないために、控えることにした。

「そう、私も常連なの。とってもお肉がジューシーで美味しいわよね」
「はいっ」

 マリーは涙を拭っていたが、肉串屋のことを思い出し、酷く懐かしく感じた。

「奥さんが……そうだったんですね、ありがとうございます」
「元気な姿を見せてあげるといいわ」
「はい……あの、話を聞いてください」
「ええ」
「でもどこから話したらいいか……すみません」

 話をしたい、話を聞いて欲しいと思う気持ちばかりが先走ってしまい、どこから切り出せばいいのか分からなかった。

「では、私が知る限りになるけど、質問をして答えてくれる?何か話したいことがあったら、その都度、話をするのはどう?」
「はい、お願いいたします」
「では、まずピデム王国からクロンデール王国に来たのは、8月30日よね?」
「はい、そうです」

 マリーはその言葉に本当に調べてくれて、探してくれていたのだと、実感した。

「王都に来たのは?」
「9月9日です、アディエンシスホテルに泊まっていました」
「荷物はこちらで預かっているから、心配しないで」
「あっ、ありがとうございます。ずっと気になっていたんです」
「そうよね、貴重品はあの家に?」
「そ、そうです」

 コンパル伯爵家ではなく、あの家と表現したが、それでもマリーの方がビクリとし、ソアリスはなるべく穏やかに問い掛けた。

 こういった時だけは、ソアリスの容姿が苛烈な悪い口を持っているとは思えない特徴が役に立つ。

「どこにあるか分かる?鞄の形とかでもいいわ」
「どこかのクローゼットにあると思います。キャメル色の小さめの鞄です」
「ありがとう。メディナ、伝えて来てくれる?」
「はい、承知いたしました」
「すみません」

 メディナはマリーに微笑み、バーセム公爵に伝えるためにに部屋を出て行った。

「他にもいる物は運び出しているはずだから、落ち着いたら確認するといいわ」
「はい」
「王都に来るまではどこにいたの?細かいところは言いたくなかったら言わなくていいから」
「いえ、言えないことはありません。船で来たので移動と、トレアン子爵領に」
「トレアン子爵領には何か目的があったの?」

 思いがけない家の名前が出たが、ソアリスは驚くことなく、淡々と続けた。

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

真実の愛の裏側

藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。 男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――? ※ 他サイトにも投稿しています。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

【結婚式当日に捨てられました】身代わりの役目は不要だと姉を選んだ王子は、隣国皇帝が私を国ごと奪いに来てから後悔しても手遅れです。

唯崎りいち
恋愛
結婚式当日、私は“替え玉”として捨てられた。 本物の姉が戻ってきたから、もう必要ないのだと。 けれど—— 私こそが、誰も知らなかった“本物の価値”を持っていた。 世界でただ一人、すべてを癒す力。 そして、その価値を知るただ一人の人が、皇帝となって私を迎えに来る。 これは、すべてを失った少女が、本当に必要とされる場所へ辿り着く物語。

姉の婚約者と結婚しました。

黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。 式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。 今さら式を中止にするとは言えない。 そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか! 姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。 これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。 それどころか指一本触れてこない。 「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」 ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。 2022/4/8 番外編完結