私のバラ色ではない人生

野村にれ

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エミアンローズの手紙4

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「だったら、待っていなさい」
「はい。ろあんすらーこうしゃく、ふじん、おさわがせしました。しつれいします」

 不服ではありながら、揚げ芋にはあり付けることから、嬉しそうに去って行った。騒がせた謝罪が出来るようになっただけ、成長したというものである。

「ごめんなさいね」
「大人顔負けですね」
「利発で驚きました」

 サイラスとマーニーは、ケイトがソアリスと同じで上品な顔つきのまま、揚げ芋についての言葉がポンポンと出ることを驚きながらも、微笑ましく見ていた。

「ええ…」
「とても優秀だと聞いています」
「ええ、勉強はね。でも、聞いたでしょう?食べることへの執着がとどまることを知らないのよ」
「王妃陛下によく似ている」
「あそこまで酷かったかしら?」
「子どもの頃は、全部食べていいの?が口癖だったな」

 サイラスの記憶の中のソアリスは、よく食べていた。だからこそ、ララシャに食べ過ぎだと言われてしまったのだが、その点も正反対の姉妹であった。

 だが、今となってはララシャも食べているので、食べる潜在能力を持っていたのだろう。

「ええ…だって、一つなのか、全部なのか聞いて置かないと」

 ソアリスも何度も言った身に覚えがあり、ケイトに聞かれなくて良かったとすら思っていた。

「王妃陛下!機械というのはどういうものなのでしょうか?」
「興味があるの?」
「はい…私も揚げ芋が好きで」

 この前の茶会でも、揚げ芋が出ていたが、さすがに言えなかった。だが、ケイトとの話を興味深く聞いていた。

「あら!ギザギザの波型にスライス出来る機械を見付けたのよ」
「そんなものがあるのですか?」
「ご紹介しましょうか?」
「よろしいのですか?」
「ええ」
「欲しいのか?」

 揚げ芋が好きなのは分かっていたが、それこそソアリスではないが、太るからと控えていることも知っていた。

「はい…」
「お兄様、そのくらい買ってあげなさいよ」
「ああ、勿論だよ」

 ソアリスは金物店の名前を書いて、マーニーに渡した。

「そうだわ、ちょっと待ってね」

 ソアリスは置いてあった袋から、ごそごそと瓶を取り出した。その中には、粉が入っていた。

「スパイスなのだけど、揚げ芋に掛けると、美味しいのよ。差し上げるわ」

 粉は様々なスパイス調合されたもので、肉などに掛けることが多いが、ソアリスは最近、揚げ芋に掛けており、昨日もスパイスのお店にも寄っていた。

「よろしいのですか?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます!」

 マーニーは嬉しそうに、赤子のようにスパイスの瓶を抱えており、サイラスも微笑ましい気持ちであった。

「ありがとう」
「ただ沢山食べてしまうから、母にはあげないでね。父は少し食べた方がいいかもしれないくらいだけど」
「ああ」
「しょぼくれじいさんまっしぐらよね」
「王妃陛下から貰ったと言えば、食べるかもしれぬな」

 ソアリスは率先して食べて欲しいわけではないが、あまりにしょぼくれた父なら、与えてもいいかと思っていた。

「手紙は少し考えてみるわ、時間があれば私が目で確かめたいのだけど」
「わざわざ行かなくとも」
「うーん、でも理解させないとならないでしょう?結婚祝いにも、憂いなく思って欲しいのよね」

 エミアンローズに頑張った報いに、応えてあげたい気持ちもあった。

「こちらに来させるか?」
「でも、面倒じゃない?帰らないと言い出すわよ」
「それはこちらでどうにでもなるさ、父上と母上にどうにかして貰えばいい」
「今、立て込んでいるし、少し考えるわ」
「分かった、要望があればすぐに連絡してくれ」
「ええ、よろしくお願いするわ」

 マーニーはスパイスを赤子のように抱えたまま帰って行き、帰り道に金物屋にも行って、芋を切る機械を購入した。

 そして、王宮では試食会が行われることになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本日もお読みいただきありがとうございます。

実は先週の16日で、連載1年になっておりまして、
気付いたのは過ぎた後でした…すみません。

ですので遅れましたが、
本日は一周年記念に、1日2話、投稿させていただきます。
17時に、もう1話投稿します。

終わりは見えているのですが、
まだ終わらないという状況になっております。

もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。
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