小悪魔ノート

ことは

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15 再び敦也のノート

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「おばさん、こんにちは」

 リビングにいた敦也のお母さんに声をかけ、颯太は勝手に2階に上がっていった。

「颯太君、ゆっくりしていってね」

 声だけ、リビングから追いかけてくる。

 幼稚園からの幼なじみだから、お母さんもちっとも気に留めない。と思ったら、お母さんが追いかけてきた。

「颯太君も、敦也と一緒に塾に行かない?」
と、塾のパンフレットを差し出してきた。

 思わぬところで、足止めされてしまった。

 敦也と同じ、愛嬌のあるサル顔。

 何かと断りにくい笑顔だ。いや、断る勇気。

「悪いけど、おれ、興味ないです」

 差し出されたパンフレットを、押し返す。

「そっか。敦也、颯太君がいないと寂しそうだから。一緒にどうかなって思ったんだけど」

 だったら塾をやめて、おれと遊べばいい。

 だが、それは口にしなかった。

 お母さんに言われたにしても、やっぱりこれは、敦也が選んだ道なのだ。颯太が口出しすることじゃない。

 自分の夢が見つからないからといって、敦也まで自分と同じラインに並ばせるつもりはなかった。

「入るぞー」

 返事を待たずに、敦也の部屋に入る。

 マンガやゲームがあちこちに散らかっていて、歩ける場所が少ない。それらをよけながら、敦也の方へ行く。

 敦也は、机に向かっている。

 机の上には一応、塾の参考書みたいなものが平積みされていた。

 颯太はそれを見て、やっぱりちょっと寂しい気持ちになる。塾に敦也を取られたような気分だ。

 一瞬、勉強でもしているかのように見えてドキッとしたが、そうではなかった。

 敦也はちょうどノートに、願いを書き終わったところのようだった。

「おれの部屋散らかってるから、ノート探すの大変だったぜ」

 敦也は立ち上がると颯太に、ジャーンとノートを見せた。

 赤い表紙が目に入る。

「書いちゃったぜー。恋の願いですよ。颯太ちゃん、教えてくれてありがとな」

 颯太はノートを受け取り、パラパラとめくった。

「そっちには、何も書いてないぜ」

 白いページをめくり続ける颯太に、敦也が不思議そうな顔をする。

「ごめん。もう1回、最初からめくってみて」

 ライアが言う。

 颯太は、もう一度ノートを最初からめくりなおす。

「なにやってんの、颯太?」

 敦也もノートをのぞきこむ。

 ライアがノートから顔をあげて、ゆっくりと言った。

「いないわ、このノートにも。クロアゲハ」

「よかった」

 ささやくように言った颯太に、敦也が、
「何が?」
と顔をあげた。

「敦也が変わってなくて、よかったってことだよ」

「何、言ってるの? おれ、ちょっとは変わったぜ。だって、勉強やる気になったしな」

 敦也が、胸を張って言う。

「塾、行きはじめたから?」

「はぁ? 塾は関係ないよ。そりゃぁ、美恵ちゃんにいいとこ見せるために決まってるだろ」

 敦也は、ドーンと自分の胸を叩いた。

「やっぱり変わってねー」

 颯太は、笑いながら敦也の肩を叩いた。

 ライアが、颯太の袖をひっぱる。

 颯太は、なに? と声は出さずに口だけ動かし、首をかしげた。

「小悪魔ノートの持ち主、決まったわね」

 へ? と、颯太は間の抜けた顔をする。

 敦也のノートが違ったことで、気が抜けてしまっていた。

 ライアが誰のことを言っているのか、まるでわからない。

「小悪魔ノートを持っているのは、亜美ちゃんよ」

 颯太の心臓が、痛いほどにドクンとなる。

 願いはまだ叶っていないと、亜美は言っていた。それは、これから叶う可能性があるということだ。

 そして、亜美はノートを見せることをかたくなに拒んでいた。今考えれば、なぜ、あんなにもノートを見せるのを嫌がったのだろう。

 ノートの秘密に、亜美は気づいていたのだろうか。

 クロアゲハの存在に。

「悪い、敦也。おれ、帰るわ」

「ちょっと、颯太。今日塾ないから、おれ、暇だぜー」

 敦也の声が聞こえたが、颯太は一気に階段を駆け下りた。
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