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16 クロアゲハはどこにいる
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丘の途中にある赤い屋根の可愛らしい家が、亜美の家だ。チャイムを鳴らすと、玄関先に亜美のお母さんが出て来た。
「あら~。久しぶりね、颯太君」
どうしてこうも、親子って似ているのだろう。顔だけでなく、ゆったりとしたしゃべり方も亜美と同じだ。
「亜美ちゃん、いますか?」
「亜美ね、今、ゆかりちゃんと出かけちゃっているの」
どこに行ったかはわからないという。
こうなったら、なんとか探し出すしかない。
「颯太君も、たまには亜美と遊んでね。この頃遊んでないみたいだから」
てきとうに返事をして、颯太はその場を後にした。
◇
とりあえず近くの公園と広場に行ってみたが、亜美とゆかりはいなかった。
あちこち走り回って、喉がカラカラだ。
だが、財布を持っていない颯太はジュースを買うこともできない。
亜美を探し出すまでは、家に帰ることもできない。
「女の子って、どこで遊ぶんだろうな」
颯太は、公園のベンチに腰をおろした。
「他に、小学生の女の子が行きそうなところはないの?」
「女の子のことなんか、わからないよ」
颯太は、グーッと伸びをした。
青い空に、ゆっくりと白い雲が流れている。
一息ついてみると、本当に亜美が小悪魔ノートを持っているのか、疑わしく思えてきた。
「本当に亜美ちゃんが、持っているのかなぁ」
颯太が弱音をはく。
「どうして? 亜美ちゃんしかいないじゃない。他のノートは全部調べたし」
ライアが、きっぱりと言う。
「でも、ノートを家に置いてきちゃったってヤツも二人いたよ」
「その二人は、そもそも願いが叶っていないでしょ?」
「じゃぁ、やっぱり亜美ちゃんを探しだすしかないかぁ」
そう言いながらも、颯太は何かひっかかるものがある気がした。
「亜美ちゃん、ノートにどんな願いを書いたんだろう」
颯太が首をかしげると、ライアが目の前に飛んできた。
「颯太には教えたくない願いだってことは確かね」
「胸にグサッとくること言うなよ」
ライアをつかまえようと、颯太は右手を振りかざした。
颯太の手の届かない位置まで、ライアがすばやく飛び上がる。
アッカンベーをするライアに、颯太はチェッと舌打ちした。
「やたらに亜美ちゃんを探しても見つからないし、ちょっと整理してみようよ」
空に浮いているライアに向かって、颯太は大きな声で言った。
「そうね。頭の中を整理するのは大事だわ。それに行きづまった時は、別の角度から物事を見てみると、なにかわかるかも。颯太にしてはめずらしいこと言うのね」
ライアもベンチに腰かけた。
「いつも、一言余分なんだよなー」
颯太は、横目でライアをジロッとにらんだ。
「いい? クラスメイトは35人」
気を取り直して、颯太は言った。
「35人中、願いが叶わなかったのは10人」
ライアが言うと、
「そのうち二人は、ノートを調べていないよね」
と、颯太が続けた。
「でも、願いが叶わなかった時点で、小悪魔ノートではないってことでいいんだよね?」
颯太が聞くと、ライアがうなずいた。
「本当に、その二人の分は調べる必要がない?」
颯太が聞くと、
「まったくしつこいわね」
と、ライアが冷たく言った。
「なんだよ、念には念を入れて……」
怒り出した颯太の言葉をさえぎって、ライアがきっぱりと言った。
「あの二人のノートは調べなくても大丈夫」
「まぁ、いいや。次にいこう」
颯太は不機嫌な声で言った。
「次に、敦也とゆかりちゃんを入れて7人の願いが叶った。一応、おれのノートもここに含める」
「でも、クロアゲハはいなかった」
ライアが、ベンチから飛び上がって言った。
「だから、小悪魔ノートではないわ」
「残りの18人は、今の時点では願いが叶ったかどうかわからないんだよな」
颯太が、ライアを見上げる。
「そのうち、ノートを調べた結果、クロアゲハがいなかったのが17人ね」
「残りの一人、ノートを調べてないのが亜美ちゃんかぁ」
颯太はため息をつくように言った。
「亜美ちゃんとゆかりちゃん、どこ行っちゃったんだろう」
颯太は拾った小枝で、地面に書いていった。
○小悪魔ノートではないもの。
10+7+17=34
○小悪魔ノートかもしれないもの。
35-34=1
文字で書いてみても、結果は同じだ。
「やっぱり、亜美ちゃんのノートしか残らないかぁ」
颯太が言うと、「あれ?」とライアがつぶやいた。
「なに?」
「ごめん。わたし、ちょっと勘違いしてたかも」
ベンチから見下ろしていたライアが、『35』の数字の上に降り立つ。
「颯太のクラスは35人。美恵先生は、35冊のノートをかごに入れたの」
うん、と颯太はうなずいた。
ライアが話を続ける。
「わたしは、そのかごにもう1冊ノートを入れた」
アッと颯太が、声を上げる。
「赤いノートは、36冊あるってこと?」
「そういうこと」
「それって、亜美ちゃんのノートが、小悪魔ノートじゃない可能性も出てくるってことだよね?」
ライアがうなずいた。
「じゃぁ、もう1冊のノートは誰が持っているんだろう?」
颯太は考えながら、視線を宙にさまよわせた。
バチッとライアと目があう。
「「美恵先生だ!」」
二人の声がそろった。
「そういえば帰りの会の時、様子が変だったよね。あの時はゆかりちゃんのことで頭がいっぱいで、気にとめなかったけど」
颯太が言うと、ライアが颯太の目の高さまで飛んできた。
「敦也君が、給食もあまり食べていなかったって言ってたわ」
「もしかして、食欲が小悪魔ノートに吸い取られちゃったってこと?」
颯太が、目を見開いて言った。
「大変! 先生が危ないわ」
「どうしよう、ライア」
颯太は、飛び上がるようにベンチから立ち上がった。
「もっと早くに気づけばよかった。ノートは全部、児童たちに配られたって思いこんだ、わたしのせいだわ」
ライアが、くやしそうに唇をかむ。
「美恵先生の家の場所、わかる?」
ライアがうなずいた。
「こっちよ」
一直線に公園の外に向かうライアを、颯太は全速力で追いかけた。
「あら~。久しぶりね、颯太君」
どうしてこうも、親子って似ているのだろう。顔だけでなく、ゆったりとしたしゃべり方も亜美と同じだ。
「亜美ちゃん、いますか?」
「亜美ね、今、ゆかりちゃんと出かけちゃっているの」
どこに行ったかはわからないという。
こうなったら、なんとか探し出すしかない。
「颯太君も、たまには亜美と遊んでね。この頃遊んでないみたいだから」
てきとうに返事をして、颯太はその場を後にした。
◇
とりあえず近くの公園と広場に行ってみたが、亜美とゆかりはいなかった。
あちこち走り回って、喉がカラカラだ。
だが、財布を持っていない颯太はジュースを買うこともできない。
亜美を探し出すまでは、家に帰ることもできない。
「女の子って、どこで遊ぶんだろうな」
颯太は、公園のベンチに腰をおろした。
「他に、小学生の女の子が行きそうなところはないの?」
「女の子のことなんか、わからないよ」
颯太は、グーッと伸びをした。
青い空に、ゆっくりと白い雲が流れている。
一息ついてみると、本当に亜美が小悪魔ノートを持っているのか、疑わしく思えてきた。
「本当に亜美ちゃんが、持っているのかなぁ」
颯太が弱音をはく。
「どうして? 亜美ちゃんしかいないじゃない。他のノートは全部調べたし」
ライアが、きっぱりと言う。
「でも、ノートを家に置いてきちゃったってヤツも二人いたよ」
「その二人は、そもそも願いが叶っていないでしょ?」
「じゃぁ、やっぱり亜美ちゃんを探しだすしかないかぁ」
そう言いながらも、颯太は何かひっかかるものがある気がした。
「亜美ちゃん、ノートにどんな願いを書いたんだろう」
颯太が首をかしげると、ライアが目の前に飛んできた。
「颯太には教えたくない願いだってことは確かね」
「胸にグサッとくること言うなよ」
ライアをつかまえようと、颯太は右手を振りかざした。
颯太の手の届かない位置まで、ライアがすばやく飛び上がる。
アッカンベーをするライアに、颯太はチェッと舌打ちした。
「やたらに亜美ちゃんを探しても見つからないし、ちょっと整理してみようよ」
空に浮いているライアに向かって、颯太は大きな声で言った。
「そうね。頭の中を整理するのは大事だわ。それに行きづまった時は、別の角度から物事を見てみると、なにかわかるかも。颯太にしてはめずらしいこと言うのね」
ライアもベンチに腰かけた。
「いつも、一言余分なんだよなー」
颯太は、横目でライアをジロッとにらんだ。
「いい? クラスメイトは35人」
気を取り直して、颯太は言った。
「35人中、願いが叶わなかったのは10人」
ライアが言うと、
「そのうち二人は、ノートを調べていないよね」
と、颯太が続けた。
「でも、願いが叶わなかった時点で、小悪魔ノートではないってことでいいんだよね?」
颯太が聞くと、ライアがうなずいた。
「本当に、その二人の分は調べる必要がない?」
颯太が聞くと、
「まったくしつこいわね」
と、ライアが冷たく言った。
「なんだよ、念には念を入れて……」
怒り出した颯太の言葉をさえぎって、ライアがきっぱりと言った。
「あの二人のノートは調べなくても大丈夫」
「まぁ、いいや。次にいこう」
颯太は不機嫌な声で言った。
「次に、敦也とゆかりちゃんを入れて7人の願いが叶った。一応、おれのノートもここに含める」
「でも、クロアゲハはいなかった」
ライアが、ベンチから飛び上がって言った。
「だから、小悪魔ノートではないわ」
「残りの18人は、今の時点では願いが叶ったかどうかわからないんだよな」
颯太が、ライアを見上げる。
「そのうち、ノートを調べた結果、クロアゲハがいなかったのが17人ね」
「残りの一人、ノートを調べてないのが亜美ちゃんかぁ」
颯太はため息をつくように言った。
「亜美ちゃんとゆかりちゃん、どこ行っちゃったんだろう」
颯太は拾った小枝で、地面に書いていった。
○小悪魔ノートではないもの。
10+7+17=34
○小悪魔ノートかもしれないもの。
35-34=1
文字で書いてみても、結果は同じだ。
「やっぱり、亜美ちゃんのノートしか残らないかぁ」
颯太が言うと、「あれ?」とライアがつぶやいた。
「なに?」
「ごめん。わたし、ちょっと勘違いしてたかも」
ベンチから見下ろしていたライアが、『35』の数字の上に降り立つ。
「颯太のクラスは35人。美恵先生は、35冊のノートをかごに入れたの」
うん、と颯太はうなずいた。
ライアが話を続ける。
「わたしは、そのかごにもう1冊ノートを入れた」
アッと颯太が、声を上げる。
「赤いノートは、36冊あるってこと?」
「そういうこと」
「それって、亜美ちゃんのノートが、小悪魔ノートじゃない可能性も出てくるってことだよね?」
ライアがうなずいた。
「じゃぁ、もう1冊のノートは誰が持っているんだろう?」
颯太は考えながら、視線を宙にさまよわせた。
バチッとライアと目があう。
「「美恵先生だ!」」
二人の声がそろった。
「そういえば帰りの会の時、様子が変だったよね。あの時はゆかりちゃんのことで頭がいっぱいで、気にとめなかったけど」
颯太が言うと、ライアが颯太の目の高さまで飛んできた。
「敦也君が、給食もあまり食べていなかったって言ってたわ」
「もしかして、食欲が小悪魔ノートに吸い取られちゃったってこと?」
颯太が、目を見開いて言った。
「大変! 先生が危ないわ」
「どうしよう、ライア」
颯太は、飛び上がるようにベンチから立ち上がった。
「もっと早くに気づけばよかった。ノートは全部、児童たちに配られたって思いこんだ、わたしのせいだわ」
ライアが、くやしそうに唇をかむ。
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