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18 小悪魔との契約
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「いたわ」
ライアが呟く。
「え? どこ?」
颯太には、わからなかった。
「小悪魔ノートが吸い取ったエネルギーを、今から美恵先生に返すわ」
「そうすれば、先生は元気になるの?」
ライアがうなずいた。
「ノートを閉じて、床に置いて」
颯太は、ライアの言う通りにした。
ライアが、ノートの上で舞のようなものを舞い始めた。
その瞬間、太陽が雲に隠れたかのように、部屋の中の闇がさらに濃くなった。
颯太は息を飲んだ。
赤いノートの表紙に、黒い渦のようなものが現れたかと思うと、そこから一匹のクロアゲハが飛び出してきた。
踊り続けるライアの頭の上で、クロアゲハがグルグルと回る。
ライアが手を振り上げると、一瞬、クロアゲハの動きが止まった。
再びクロアゲハが羽を動かしたとき、クロアゲハが二匹に分裂した。
いや、分裂した方はクロアゲハではない。
金色に光るアゲハチョウだった。
金と黒のアゲハチョウが、ライアの周りをひらひらと舞う。
そのうち金色のアゲハチョウが、美恵先生の方へ飛んでいった。
スーッと吸い込まれるように、美恵先生の胸の辺りに消えていく。それと同時にクロアゲハの方は、赤いノートの中へ消えていった。
部屋に日差しが戻ってきた。
カーテンが閉まっていても、部屋の中が明るく感じる。
ライアがスカートのポケットから、黒い羽と小さなビンを取り出した。
ビンの蓋をあけ、羽の先をその中へ入れる。
羽の先に、黒いインクがついた。
「羽ペン?」
颯太が聞いたが、ライアは黙ったまま赤いノートの表紙に、『ライア』と自分の名前を書きつけた。
「わたしの名前の下に、颯太の名前を書いて」
颯太は一瞬、息を飲んだ。
「もしかしてこれって、小悪魔との契約?」
「そうよ。颯太が名前を書けば、契約が成立するわ」
「いやだよ、そんなの」
とまどう颯太に、ライアが早口で言った。
「時間がないわ。先生を助けたければ、こうするしかないの。新しい、正式な契約を結ばなければならないのよ。そうすれば、小悪魔ノートと先生の関係は、完全に断ち切ることができる」
颯太は、美恵先生を見た。
まだ倒れたままだ。もし颯太が名前を書かなければ、美恵先生はこのまま元には戻らないのだろうか。
「あっ」
颯太が短く叫んだ。
先生の背中が、金色に光っている。体の中から、金色のアゲハチョウが抜け出しかけていた。
「早くするのよ。金のアゲハが先生の体から飛び出したら、今度こそ元には戻せないわ。」
インクにひたした羽ペンを、ライアが差し出してくる。
颯太は、ライアと先生を交互に見た。
心臓が激しい音を立てていた。
颯太には、先生を助けることも見捨てることもできる。
「早く名前を書くのっ!」
ライアが叫ぶように言った。
深く考えている余裕はなかった。
考えてしまったら、書くことなんてできない。颯太は頭の中をからっぽにして、ペンを握った。
これからなにが起きるのか。
未来を想像するには、あまりに時間がなかった。
「早くっ!」
他に選択支はないように思えた。
震える指で、颯太はノートに書いた。
『荒巻颯太』
文字は渦を巻き、赤いノートの表紙に吸い込まれるように消えた。
ライアが呟く。
「え? どこ?」
颯太には、わからなかった。
「小悪魔ノートが吸い取ったエネルギーを、今から美恵先生に返すわ」
「そうすれば、先生は元気になるの?」
ライアがうなずいた。
「ノートを閉じて、床に置いて」
颯太は、ライアの言う通りにした。
ライアが、ノートの上で舞のようなものを舞い始めた。
その瞬間、太陽が雲に隠れたかのように、部屋の中の闇がさらに濃くなった。
颯太は息を飲んだ。
赤いノートの表紙に、黒い渦のようなものが現れたかと思うと、そこから一匹のクロアゲハが飛び出してきた。
踊り続けるライアの頭の上で、クロアゲハがグルグルと回る。
ライアが手を振り上げると、一瞬、クロアゲハの動きが止まった。
再びクロアゲハが羽を動かしたとき、クロアゲハが二匹に分裂した。
いや、分裂した方はクロアゲハではない。
金色に光るアゲハチョウだった。
金と黒のアゲハチョウが、ライアの周りをひらひらと舞う。
そのうち金色のアゲハチョウが、美恵先生の方へ飛んでいった。
スーッと吸い込まれるように、美恵先生の胸の辺りに消えていく。それと同時にクロアゲハの方は、赤いノートの中へ消えていった。
部屋に日差しが戻ってきた。
カーテンが閉まっていても、部屋の中が明るく感じる。
ライアがスカートのポケットから、黒い羽と小さなビンを取り出した。
ビンの蓋をあけ、羽の先をその中へ入れる。
羽の先に、黒いインクがついた。
「羽ペン?」
颯太が聞いたが、ライアは黙ったまま赤いノートの表紙に、『ライア』と自分の名前を書きつけた。
「わたしの名前の下に、颯太の名前を書いて」
颯太は一瞬、息を飲んだ。
「もしかしてこれって、小悪魔との契約?」
「そうよ。颯太が名前を書けば、契約が成立するわ」
「いやだよ、そんなの」
とまどう颯太に、ライアが早口で言った。
「時間がないわ。先生を助けたければ、こうするしかないの。新しい、正式な契約を結ばなければならないのよ。そうすれば、小悪魔ノートと先生の関係は、完全に断ち切ることができる」
颯太は、美恵先生を見た。
まだ倒れたままだ。もし颯太が名前を書かなければ、美恵先生はこのまま元には戻らないのだろうか。
「あっ」
颯太が短く叫んだ。
先生の背中が、金色に光っている。体の中から、金色のアゲハチョウが抜け出しかけていた。
「早くするのよ。金のアゲハが先生の体から飛び出したら、今度こそ元には戻せないわ。」
インクにひたした羽ペンを、ライアが差し出してくる。
颯太は、ライアと先生を交互に見た。
心臓が激しい音を立てていた。
颯太には、先生を助けることも見捨てることもできる。
「早く名前を書くのっ!」
ライアが叫ぶように言った。
深く考えている余裕はなかった。
考えてしまったら、書くことなんてできない。颯太は頭の中をからっぽにして、ペンを握った。
これからなにが起きるのか。
未来を想像するには、あまりに時間がなかった。
「早くっ!」
他に選択支はないように思えた。
震える指で、颯太はノートに書いた。
『荒巻颯太』
文字は渦を巻き、赤いノートの表紙に吸い込まれるように消えた。
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