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19 消えた願いごと
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颯太は自分の部屋に戻ると、机の上で小悪魔ノートを開いた。
美恵先生が書いたはずの願いごとは、すっかり消えてしまっていた。
まるで新品のノートのように、真っ白のページが続いている。
「なんて書いてあったか、気になる?」
ライアが机にこしかけ、颯太を見上げた。
「ライア、いつの間にか読んだの?」
颯太が言うと、ライアが笑った。
「まあね。書かれていたのは二つ」
ライアが、2本の指を立てた。
「何て書いてあったの?」
颯太が先をうながした。
「一つは、別れた彼とよりを戻せますように。ゆかりちゃんが話していたやつね」
「もう一つは?」
「クラスのみんなに、好きになってもらえますように」
颯太は、なんだか胸が切なくなった。
「それで、みんなの心をグッとつかんだってわけかぁ。敦也の恋わずらいも、そのせいかな」
う~ん、とライアは腕を組んだ。
「小悪魔ノートがなくなっても、敦也君の恋わずらいは、続きそうな気がするなぁ」
颯太も、そんな気はしていた。
「やっぱり?」
颯太が笑うと、ライアもふふ、と笑った。
「ねぇ、ライア。ゆかりちゃんやシュンヤの願いが叶ったのはどうして? 二人が持っていたのは、小悪魔ノートじゃなかったのに」
「ゆかりちゃんの、先生と仲良くなりたいっていう願いね」
ライアが、パチンと指を鳴らした。
「ゆかりちゃんの願いが叶ったように見えて、実はあれ、先生の願いでもあったのよ」
「美恵先生の?」
ライアがうなずいた。
「ゆかりちゃんは小悪魔ノートの力で、先生のことが好きになった。だから仲良くなりたいと思った」
「そうだったのか」
「シュンヤ君も同じ。宿題をやらなくても怒らなかったことで、シュンヤ君が先生を好きになる」
「小悪魔ノートって、すごいんだなぁ」
颯太は、ノートをパラパラとめくって眺めた。
「どう? 颯太もなにか、願いごと書いてみたら? 必ず叶えてあげるわよ」
ライアが、颯太の顔をのぞきこむ。
パタンと、颯太はノートを閉じた。
「やだよ。寿命1年分と交換だろ?」
颯太の顔がひきつる。
「まぁ、そんなに怯えないでよ」
ライアが、颯太の手をバンバン叩く。
「寿命が縮まるのが嫌なら、ノートに願いを書かなければいいんだから」
「絶対おれ、うまくだまされたよなぁ」
颯太が、ライアを横目でにらむ。
「そんな怖い顔しないでよ。小悪魔ノートは持っていても、使わなければ毒にも薬にもないんだから」
「そうは言ってもなぁ……」
颯太は小悪魔ノートを眺めた。
小悪魔ノートは、絶対に使わないと心に決めている。
だが、これを持っている以上は、何でも願いが叶うという誘惑と常に戦わなくてはいけないということだ。
持っていたら、つい使いたくなってしまわないだろうか。
「せっかく契約したのに、願いを叶えてあげられないのは、残念だけど……」
ライアがうつむき、悲しそうな顔をする。
なんだか、今にも消えてなくなってしまいそうだ。
突然現れた時のように、突然消えてしまってもおかしくはない気がした。
やっかいだと思っていた相手だが、いなくなったらいなくなったで寂しくなりそうだ。
「ライアは、なんで人間の寿命が欲しいの?」
颯太は、そっと聞いた。
「そんなこと、聞かないでよ」
ライアが、寂しげな顔をしてそっぽを向く。
「もしかしてだけどさ。人間から寿命をもらわないと、生きていけないとか?」
ライアは答えない。
「もしライアがすぐに死んじゃうかもって言うなら、寿命1年分くらい、分けてあげてもいいけど」
颯太は、そっぽを向いているライアの肩をツンツンとつついた。
ライアが振り向く。
「まさか。わたしたち小悪魔は、不老不死よ」
颯太は、ガクッとなった。
「あぶねー。まただまされるところだった」
「人聞き悪いわね。颯太が、勝手に勘違いしただけでしょ?」
ライアが頬をふくらませる。
「じゃぁ、なんで寿命なんて欲しがるんだよ。ただのゲーム? 人の命をなんだと思っているんだよ」
颯太は腕を組み、強い調子で言った。
ライアもケンカ腰で言い返してくるかと思ったが、そうではなかった。
「とても大切なものよ」
ライアが、澄んだ声で言う。
「わたしは、人間になりたいのよ」
ライアは真剣な目をして言った。
美恵先生が書いたはずの願いごとは、すっかり消えてしまっていた。
まるで新品のノートのように、真っ白のページが続いている。
「なんて書いてあったか、気になる?」
ライアが机にこしかけ、颯太を見上げた。
「ライア、いつの間にか読んだの?」
颯太が言うと、ライアが笑った。
「まあね。書かれていたのは二つ」
ライアが、2本の指を立てた。
「何て書いてあったの?」
颯太が先をうながした。
「一つは、別れた彼とよりを戻せますように。ゆかりちゃんが話していたやつね」
「もう一つは?」
「クラスのみんなに、好きになってもらえますように」
颯太は、なんだか胸が切なくなった。
「それで、みんなの心をグッとつかんだってわけかぁ。敦也の恋わずらいも、そのせいかな」
う~ん、とライアは腕を組んだ。
「小悪魔ノートがなくなっても、敦也君の恋わずらいは、続きそうな気がするなぁ」
颯太も、そんな気はしていた。
「やっぱり?」
颯太が笑うと、ライアもふふ、と笑った。
「ねぇ、ライア。ゆかりちゃんやシュンヤの願いが叶ったのはどうして? 二人が持っていたのは、小悪魔ノートじゃなかったのに」
「ゆかりちゃんの、先生と仲良くなりたいっていう願いね」
ライアが、パチンと指を鳴らした。
「ゆかりちゃんの願いが叶ったように見えて、実はあれ、先生の願いでもあったのよ」
「美恵先生の?」
ライアがうなずいた。
「ゆかりちゃんは小悪魔ノートの力で、先生のことが好きになった。だから仲良くなりたいと思った」
「そうだったのか」
「シュンヤ君も同じ。宿題をやらなくても怒らなかったことで、シュンヤ君が先生を好きになる」
「小悪魔ノートって、すごいんだなぁ」
颯太は、ノートをパラパラとめくって眺めた。
「どう? 颯太もなにか、願いごと書いてみたら? 必ず叶えてあげるわよ」
ライアが、颯太の顔をのぞきこむ。
パタンと、颯太はノートを閉じた。
「やだよ。寿命1年分と交換だろ?」
颯太の顔がひきつる。
「まぁ、そんなに怯えないでよ」
ライアが、颯太の手をバンバン叩く。
「寿命が縮まるのが嫌なら、ノートに願いを書かなければいいんだから」
「絶対おれ、うまくだまされたよなぁ」
颯太が、ライアを横目でにらむ。
「そんな怖い顔しないでよ。小悪魔ノートは持っていても、使わなければ毒にも薬にもないんだから」
「そうは言ってもなぁ……」
颯太は小悪魔ノートを眺めた。
小悪魔ノートは、絶対に使わないと心に決めている。
だが、これを持っている以上は、何でも願いが叶うという誘惑と常に戦わなくてはいけないということだ。
持っていたら、つい使いたくなってしまわないだろうか。
「せっかく契約したのに、願いを叶えてあげられないのは、残念だけど……」
ライアがうつむき、悲しそうな顔をする。
なんだか、今にも消えてなくなってしまいそうだ。
突然現れた時のように、突然消えてしまってもおかしくはない気がした。
やっかいだと思っていた相手だが、いなくなったらいなくなったで寂しくなりそうだ。
「ライアは、なんで人間の寿命が欲しいの?」
颯太は、そっと聞いた。
「そんなこと、聞かないでよ」
ライアが、寂しげな顔をしてそっぽを向く。
「もしかしてだけどさ。人間から寿命をもらわないと、生きていけないとか?」
ライアは答えない。
「もしライアがすぐに死んじゃうかもって言うなら、寿命1年分くらい、分けてあげてもいいけど」
颯太は、そっぽを向いているライアの肩をツンツンとつついた。
ライアが振り向く。
「まさか。わたしたち小悪魔は、不老不死よ」
颯太は、ガクッとなった。
「あぶねー。まただまされるところだった」
「人聞き悪いわね。颯太が、勝手に勘違いしただけでしょ?」
ライアが頬をふくらませる。
「じゃぁ、なんで寿命なんて欲しがるんだよ。ただのゲーム? 人の命をなんだと思っているんだよ」
颯太は腕を組み、強い調子で言った。
ライアもケンカ腰で言い返してくるかと思ったが、そうではなかった。
「とても大切なものよ」
ライアが、澄んだ声で言う。
「わたしは、人間になりたいのよ」
ライアは真剣な目をして言った。
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