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第一章 ドラゴンハンター01 戸井圭吾
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圭吾は目を細め、ビルを見上げた。キラキラと太陽の光が反射して眩しい。
鏡張りのビルの壁面には、青い空と白い雲がうつしだされている。一枚の絵画のようだった。なぜか本物の空と雲よりずっときれいに見えた。
圭吾は1階のエントランスの前に立った。
重そうなガラス扉は、店員が言った通りオートロックになっているようで、圭吾が前に立っても開かない。簡単には侵入できないこのビルはまるで、ドラゴンが入っていたガラスケースのようだと圭吾は思った。
立ち止まっていると、汗がどんどん吹き出してくる。圭吾は手のひらで額の汗をぬぐった。
ガラス扉の横の壁面に、社名の入った銀色のプレートが張られている。そこには『ジュエル社・ドラゴン研究所』と書かれていた。
「ドラゴン研究所だって?」
圭吾はつぶやいた。
プレートのすぐ下にインターフォンがあり『御用の方は下のボタンを押してください』と書かれている。圭吾は黒いボタンを迷わず押した。
しばらくして、インターフォンから透き通るような女性の声が流れてきた。
「いらっしゃいませ。ジュエル社、ドラゴン研究所の神田です。本日はどのようなご用件で……」
しばらく間が空いた。
「と聞きたいところだけど、君は昨日会った子だよね?」
神田と名乗った女性の声が、急にくだけた調子になった。
「そ、そうです。お姉さんは、昨日ペットショップにいた人ですか?」
圭吾はインターフォンに近づきしゃべった。気ばかりが焦って、舌がもつれる。
「君、すごく慌ててる。どうしたのかな? とにかく中に入って」
カチャリとロックが解除される音がした。入り口の扉が重々しく左右に開く。
圭吾は扉の向こうへ足を踏み入れた。ビルの中はキンと冷えていた。汗が一瞬でひいていく。
目の前には、白い大理石のフロアが広がっていた。高い天井には、豪華なシャンデリア。フロアの中央に、黒の四角いテーブルと革張りのソファが置かれているのみで、ほかはただ真っ白い空間が広がっていた。
フロアの奥から、エレベーターの到着を知らせる音が聞こえた。圭吾は音のした方に目をやった。
エレベーターの扉が開くと、白衣を着た女の人が出てきた。カツカツとヒールの音を鳴り響かせながら、こっちにやってくる。
「こんにちは。どうぞ、そこに座って」
言われるままに、圭吾はフロアの中央まで歩いて行き、ソファに腰かけた。
ほぼ同時に女の人も向かい側に座った。
彼女は昨日と同じように後ろで髪を束ねている。大きな目は親しそうにこっちを見つめているが、白衣を着ているせいか、話しかけづらかった。
白衣を着ている人といえば、圭吾は医者くらいしか思いつかない。だが、ここは病院ではない。彼女は何者なのだろう。
勢いでここまでやってきたが、いざとなると圭吾は、どこからどう説明していいかわからなくなった。
それにここは、子どもが一人で来るようなところではない。
広すぎるフロアも高級そうなシャンデリアも、圭吾にはまぶしすぎた。自分はなんて場違いなところに来てしまったのかと尻込みした。
圭吾が黙っていると、彼女が話し始めた。
「わたしは神田彩芽。ここ、ドラゴン研究所の研究員よ」
そう言って、彩芽は名刺を差し出してきた。名刺など受け取ったことのない圭吾は、おずおずと手を差し出し、それを受け取った。
「君の名前は?」
「戸井圭吾です」
「何年生かな?」
「5年生です」
うまく言葉が出てこなくて、一問一答のようになってしまう。
だが、今はゆっくり自己紹介をしている場合ではない。もっと大事なことを、彩芽に伝えなくはならない。
「それで圭吾君は、どうしてここを訪ねてきたのかな?」
そう、それだ。圭吾はここを訪ねた理由を話さなければならない。家では結衣が待っている。
圭吾は大きく息を吸った。
「あの、ドラゴンが……」
圭吾は言葉につまった。
彩芽は圭吾の言葉に反応したようだった。みるみるうちに彩芽の顔が輝いていく。
「やっぱり見えるのね、君にはドラゴンが! そうだと思った」
彩芽が、興奮したようにソファから身を乗り出す。
「実は、ドラゴンがあのガラスケースから、出てきちゃったんです」
「えっ、まさか」
彩芽が目を丸くした。
「あのガラスケースは特殊なものよ。まさか圭吾くんがドラゴンを出したの?」
「違うんです。盗んだんじゃないんです」
圭吾は顔の前で手を必死に振った。
「まぁ! 圭吾くんが盗んだなんて、そんなこと思ってないから大丈夫よ」
その言葉に、圭吾はほっとする。
「返そうと思って店員さんを呼んだんです。でも、ケースに蓋はないし、店員さんはドラゴンなんか見えないみたいだし」
「あそこの店員、連絡くれなかったのね。ドラゴンが見える子が来たら連絡してってあれほど言ったのに」
彩芽が眉間に皺を寄せながら、腕を組んだ。
「それで、ドラゴンは今どこに?」
「それが、消えちゃったんです」
「消えた?」
圭吾はうなずいた。
「ドラゴン、ぼくの妹の口の中に消えちゃったんです」
「それはまずいことになったわ」
彩芽が手で口を押さえた。
「ドラゴンはまだ、妹のお腹の中にいるみたいなんです。彩芽さん、ぼくの妹を助けてくれませんか?」
「残念だけど、わたしには無理なの」
そう言われて、圭吾は胸が苦しくなった。
「それじゃぁ結衣は、ぼくの妹は、どうなってしまうんですか?」
「そんな顔しないで。橋本が、なんとかしてくれると思う」
「橋本……さんって?」
「ドラゴン研究チームのリーダーよ。ちょっと待って、今呼んでくるから」
そう言って彩芽は立ち上がった。
鏡張りのビルの壁面には、青い空と白い雲がうつしだされている。一枚の絵画のようだった。なぜか本物の空と雲よりずっときれいに見えた。
圭吾は1階のエントランスの前に立った。
重そうなガラス扉は、店員が言った通りオートロックになっているようで、圭吾が前に立っても開かない。簡単には侵入できないこのビルはまるで、ドラゴンが入っていたガラスケースのようだと圭吾は思った。
立ち止まっていると、汗がどんどん吹き出してくる。圭吾は手のひらで額の汗をぬぐった。
ガラス扉の横の壁面に、社名の入った銀色のプレートが張られている。そこには『ジュエル社・ドラゴン研究所』と書かれていた。
「ドラゴン研究所だって?」
圭吾はつぶやいた。
プレートのすぐ下にインターフォンがあり『御用の方は下のボタンを押してください』と書かれている。圭吾は黒いボタンを迷わず押した。
しばらくして、インターフォンから透き通るような女性の声が流れてきた。
「いらっしゃいませ。ジュエル社、ドラゴン研究所の神田です。本日はどのようなご用件で……」
しばらく間が空いた。
「と聞きたいところだけど、君は昨日会った子だよね?」
神田と名乗った女性の声が、急にくだけた調子になった。
「そ、そうです。お姉さんは、昨日ペットショップにいた人ですか?」
圭吾はインターフォンに近づきしゃべった。気ばかりが焦って、舌がもつれる。
「君、すごく慌ててる。どうしたのかな? とにかく中に入って」
カチャリとロックが解除される音がした。入り口の扉が重々しく左右に開く。
圭吾は扉の向こうへ足を踏み入れた。ビルの中はキンと冷えていた。汗が一瞬でひいていく。
目の前には、白い大理石のフロアが広がっていた。高い天井には、豪華なシャンデリア。フロアの中央に、黒の四角いテーブルと革張りのソファが置かれているのみで、ほかはただ真っ白い空間が広がっていた。
フロアの奥から、エレベーターの到着を知らせる音が聞こえた。圭吾は音のした方に目をやった。
エレベーターの扉が開くと、白衣を着た女の人が出てきた。カツカツとヒールの音を鳴り響かせながら、こっちにやってくる。
「こんにちは。どうぞ、そこに座って」
言われるままに、圭吾はフロアの中央まで歩いて行き、ソファに腰かけた。
ほぼ同時に女の人も向かい側に座った。
彼女は昨日と同じように後ろで髪を束ねている。大きな目は親しそうにこっちを見つめているが、白衣を着ているせいか、話しかけづらかった。
白衣を着ている人といえば、圭吾は医者くらいしか思いつかない。だが、ここは病院ではない。彼女は何者なのだろう。
勢いでここまでやってきたが、いざとなると圭吾は、どこからどう説明していいかわからなくなった。
それにここは、子どもが一人で来るようなところではない。
広すぎるフロアも高級そうなシャンデリアも、圭吾にはまぶしすぎた。自分はなんて場違いなところに来てしまったのかと尻込みした。
圭吾が黙っていると、彼女が話し始めた。
「わたしは神田彩芽。ここ、ドラゴン研究所の研究員よ」
そう言って、彩芽は名刺を差し出してきた。名刺など受け取ったことのない圭吾は、おずおずと手を差し出し、それを受け取った。
「君の名前は?」
「戸井圭吾です」
「何年生かな?」
「5年生です」
うまく言葉が出てこなくて、一問一答のようになってしまう。
だが、今はゆっくり自己紹介をしている場合ではない。もっと大事なことを、彩芽に伝えなくはならない。
「それで圭吾君は、どうしてここを訪ねてきたのかな?」
そう、それだ。圭吾はここを訪ねた理由を話さなければならない。家では結衣が待っている。
圭吾は大きく息を吸った。
「あの、ドラゴンが……」
圭吾は言葉につまった。
彩芽は圭吾の言葉に反応したようだった。みるみるうちに彩芽の顔が輝いていく。
「やっぱり見えるのね、君にはドラゴンが! そうだと思った」
彩芽が、興奮したようにソファから身を乗り出す。
「実は、ドラゴンがあのガラスケースから、出てきちゃったんです」
「えっ、まさか」
彩芽が目を丸くした。
「あのガラスケースは特殊なものよ。まさか圭吾くんがドラゴンを出したの?」
「違うんです。盗んだんじゃないんです」
圭吾は顔の前で手を必死に振った。
「まぁ! 圭吾くんが盗んだなんて、そんなこと思ってないから大丈夫よ」
その言葉に、圭吾はほっとする。
「返そうと思って店員さんを呼んだんです。でも、ケースに蓋はないし、店員さんはドラゴンなんか見えないみたいだし」
「あそこの店員、連絡くれなかったのね。ドラゴンが見える子が来たら連絡してってあれほど言ったのに」
彩芽が眉間に皺を寄せながら、腕を組んだ。
「それで、ドラゴンは今どこに?」
「それが、消えちゃったんです」
「消えた?」
圭吾はうなずいた。
「ドラゴン、ぼくの妹の口の中に消えちゃったんです」
「それはまずいことになったわ」
彩芽が手で口を押さえた。
「ドラゴンはまだ、妹のお腹の中にいるみたいなんです。彩芽さん、ぼくの妹を助けてくれませんか?」
「残念だけど、わたしには無理なの」
そう言われて、圭吾は胸が苦しくなった。
「それじゃぁ結衣は、ぼくの妹は、どうなってしまうんですか?」
「そんな顔しないで。橋本が、なんとかしてくれると思う」
「橋本……さんって?」
「ドラゴン研究チームのリーダーよ。ちょっと待って、今呼んでくるから」
そう言って彩芽は立ち上がった。
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