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第四章 ドラゴンハンター04 本田敦也
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ドラゴン研究所に行くと、圭吾と祐太、美鈴の三人が、1階のロビーのソファに座っていた。
「遅いぞ、敦也」
祐太がソファから立ち上がる。
「どうしたの、みんなそろって」
敦也は驚いた。訓練するのは、今日も一人だけだろうと思っていたからだ。
「だって帰りに言ってたじゃん、敦也。一人で訓練してもつまらないって」
祐太が肩をすくめた。
「敦也くんと別れた後、三人で話したの。今日はみんなで一緒に訓練しようって」
美鈴も立ち上がった。
「じゃ、行くか」
圭吾も立ち上がる。
「ぼくは、どうしても今日、身守りドラゴンを手に入れなくちゃならないんだ」
敦也が言うと、
「なんだかおまえ、顔色悪くないか?」
と、祐太が顔をのぞきこんできた。
「弟の隼人が、ドラゴンに寄生されたみたいなんだ」
「えっ」
祐太が息を飲む。
「早く助けたい。自分の力で、助けたいんだ」
「すぐに8階に行こう。橋本さんが待ってる」
圭吾が先頭をきって歩きはじめた。
◇
隼人がドラゴンに寄生されたかもしれないことを話すと、橋本は深刻な顔をした。
「すぐに捕まえた方がいい。できれば今日中に」
「そのつもりです」
敦也は答えた。
「もしもの時は、おれたちが代わりに……」
祐太が言いかけたのを、橋本がさえぎった。
「今は成功することだけ考えろ」
敦也は、決めていた。エメラルドに輝く体と瞳を持つドラゴン。そのドラゴンは、敦也が来たのに気づいたかのように、木から舞い降りて来た。
敦也の右手に止まる。もう名前も決めていた。
敦也は、圭吾と祐太と美鈴が見守る中、呪文を唱えるようにささやいた。
「お願いだ、ピース。隼人を助けてくれ」
目を閉じ、左手に持っているビンに入ったピースを想像してみる。
しかし、まぶたの裏に浮かぶのは、鮮やかな火花。小さな隼人の体から、火花がはじけて散る。
目を開けると、ピースはまだ隼人の右手の上だ。
「だめだ、集中できない」
隼人のことを思えば思うほど、不安が押し寄せイメージできない。
「一つ、心配ごとがあるんだが」
橋本が険しい顔をした。
「敦也くんの弟は、今どこにいる?」
「家にいますけど」
「なら安心だ。時間をかけてじっくり取り組め」
橋本が励ますように、敦也の背中を叩いた。
「家にいないと、なにかまずいことでも?」
「確かなことはなにもわからないんだが」
橋本は迷った様子で話し始めた。
「ここのところ、小学生が行方不明になる事件が続いているだろう? もしかしたら、ドラゴンに寄生されている子どもが狙われているかもしれないんだ」
祐太がはっと息を飲む音が聞こえた。祐太が圭吾に、なにか目で合図したように見えた。圭吾が意味ありげにうなずいている。
(なんだろう。二人はなにか知っているのかな)
敦也は、二人に聞こうかと思ったが、そのチャンスもないまま、橋本の話が続く。
「ジュエル社の社長は、ぼくと同じように、子どもの頃からドラゴンが見えた。ドラゴンが見える想像力豊かな子どもが増えてほしいという願いから、彼は想像力を伸ばす教育に力を入れている。しかし、ドラゴンに注目している企業や組織は、ジュエル社だけではない。そして、いい企業ばかりでもない」
敦也は、橋本の顔をじっと見つめた。
「君たちは、ドラゴンを捕まえるドラゴンハンターだ。ドラゴンを捕まえる目的は、わかっているね?」
橋本は、三人の顔を順に見ながら話した。
「子どもたちの想像力が、ドラゴンに奪われないようにするためですよね?」
圭吾が答える。
「それともう一つ」
「他にも目的が?」
橋本がうなずいた。
「君たちが見ているのは、ドラゴンの赤ちゃんなんだが、人に寄生しない限り成長しない。つまり永遠に年を取らない」
「それは知っています」
祐太が言った。
「これはまだ研究中なんだが」
橋本が少し間をおいて話しはじめる。
「ドラゴンの赤ちゃんの涙には、不老不死の可能性が秘められているんだ。ドラゴンの涙は、あらゆる難病の治療に役立つとぼくたちは考えている」
「ドラゴンの涙に、不老不死の可能性が?」
敦也は、エメラルドに輝くピースの瞳を見た。
「だが、不老不死に関わる成分と同時に、非常に毒性の強い成分も含まれている。それを分離する技術が、ぼくたちにはまだない」
「不老不死を手に入れるために、ドラゴンを狙っているやつらがいるってことなんですか?」
敦也は橋本を食い入るように見つめた。
「やつらの目的はわからない。不老不死の力なのか、強い毒性を悪用しようとしているのか。ただ、ドラゴンを高値で取り引きしている連中がいることは確かだ」
「さっぱりわからないんだけど」
美鈴が口をはさんだ。
「それで、どうしてドラゴンに寄生された子どもたちを誘拐する必要があるの? ドラゴンだけ捕まえればいいじゃない。わたしたちみたいに」
美鈴がしきりに首をかしげている。
「ドラゴンが見える人間が、そんなことをするはずがない。やつらには見えないんだよ、ドラゴンが。だから、寄生された子どもごと連れ去るしかないんだ」
「ドラゴンを悪用するなんて許せねぇ」
祐太が怒ったように腕を組んだ。
「隼人くんに寄生したドラゴンを、早く捕まえよう」
圭吾が、敦也の肩に手を置いた。敦也は力強くうなずいた。
「遅いぞ、敦也」
祐太がソファから立ち上がる。
「どうしたの、みんなそろって」
敦也は驚いた。訓練するのは、今日も一人だけだろうと思っていたからだ。
「だって帰りに言ってたじゃん、敦也。一人で訓練してもつまらないって」
祐太が肩をすくめた。
「敦也くんと別れた後、三人で話したの。今日はみんなで一緒に訓練しようって」
美鈴も立ち上がった。
「じゃ、行くか」
圭吾も立ち上がる。
「ぼくは、どうしても今日、身守りドラゴンを手に入れなくちゃならないんだ」
敦也が言うと、
「なんだかおまえ、顔色悪くないか?」
と、祐太が顔をのぞきこんできた。
「弟の隼人が、ドラゴンに寄生されたみたいなんだ」
「えっ」
祐太が息を飲む。
「早く助けたい。自分の力で、助けたいんだ」
「すぐに8階に行こう。橋本さんが待ってる」
圭吾が先頭をきって歩きはじめた。
◇
隼人がドラゴンに寄生されたかもしれないことを話すと、橋本は深刻な顔をした。
「すぐに捕まえた方がいい。できれば今日中に」
「そのつもりです」
敦也は答えた。
「もしもの時は、おれたちが代わりに……」
祐太が言いかけたのを、橋本がさえぎった。
「今は成功することだけ考えろ」
敦也は、決めていた。エメラルドに輝く体と瞳を持つドラゴン。そのドラゴンは、敦也が来たのに気づいたかのように、木から舞い降りて来た。
敦也の右手に止まる。もう名前も決めていた。
敦也は、圭吾と祐太と美鈴が見守る中、呪文を唱えるようにささやいた。
「お願いだ、ピース。隼人を助けてくれ」
目を閉じ、左手に持っているビンに入ったピースを想像してみる。
しかし、まぶたの裏に浮かぶのは、鮮やかな火花。小さな隼人の体から、火花がはじけて散る。
目を開けると、ピースはまだ隼人の右手の上だ。
「だめだ、集中できない」
隼人のことを思えば思うほど、不安が押し寄せイメージできない。
「一つ、心配ごとがあるんだが」
橋本が険しい顔をした。
「敦也くんの弟は、今どこにいる?」
「家にいますけど」
「なら安心だ。時間をかけてじっくり取り組め」
橋本が励ますように、敦也の背中を叩いた。
「家にいないと、なにかまずいことでも?」
「確かなことはなにもわからないんだが」
橋本は迷った様子で話し始めた。
「ここのところ、小学生が行方不明になる事件が続いているだろう? もしかしたら、ドラゴンに寄生されている子どもが狙われているかもしれないんだ」
祐太がはっと息を飲む音が聞こえた。祐太が圭吾に、なにか目で合図したように見えた。圭吾が意味ありげにうなずいている。
(なんだろう。二人はなにか知っているのかな)
敦也は、二人に聞こうかと思ったが、そのチャンスもないまま、橋本の話が続く。
「ジュエル社の社長は、ぼくと同じように、子どもの頃からドラゴンが見えた。ドラゴンが見える想像力豊かな子どもが増えてほしいという願いから、彼は想像力を伸ばす教育に力を入れている。しかし、ドラゴンに注目している企業や組織は、ジュエル社だけではない。そして、いい企業ばかりでもない」
敦也は、橋本の顔をじっと見つめた。
「君たちは、ドラゴンを捕まえるドラゴンハンターだ。ドラゴンを捕まえる目的は、わかっているね?」
橋本は、三人の顔を順に見ながら話した。
「子どもたちの想像力が、ドラゴンに奪われないようにするためですよね?」
圭吾が答える。
「それともう一つ」
「他にも目的が?」
橋本がうなずいた。
「君たちが見ているのは、ドラゴンの赤ちゃんなんだが、人に寄生しない限り成長しない。つまり永遠に年を取らない」
「それは知っています」
祐太が言った。
「これはまだ研究中なんだが」
橋本が少し間をおいて話しはじめる。
「ドラゴンの赤ちゃんの涙には、不老不死の可能性が秘められているんだ。ドラゴンの涙は、あらゆる難病の治療に役立つとぼくたちは考えている」
「ドラゴンの涙に、不老不死の可能性が?」
敦也は、エメラルドに輝くピースの瞳を見た。
「だが、不老不死に関わる成分と同時に、非常に毒性の強い成分も含まれている。それを分離する技術が、ぼくたちにはまだない」
「不老不死を手に入れるために、ドラゴンを狙っているやつらがいるってことなんですか?」
敦也は橋本を食い入るように見つめた。
「やつらの目的はわからない。不老不死の力なのか、強い毒性を悪用しようとしているのか。ただ、ドラゴンを高値で取り引きしている連中がいることは確かだ」
「さっぱりわからないんだけど」
美鈴が口をはさんだ。
「それで、どうしてドラゴンに寄生された子どもたちを誘拐する必要があるの? ドラゴンだけ捕まえればいいじゃない。わたしたちみたいに」
美鈴がしきりに首をかしげている。
「ドラゴンが見える人間が、そんなことをするはずがない。やつらには見えないんだよ、ドラゴンが。だから、寄生された子どもごと連れ去るしかないんだ」
「ドラゴンを悪用するなんて許せねぇ」
祐太が怒ったように腕を組んだ。
「隼人くんに寄生したドラゴンを、早く捕まえよう」
圭吾が、敦也の肩に手を置いた。敦也は力強くうなずいた。
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