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2友だち
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春子がノートを開く。
〇12月5日。未来ちゃんが、学校の友だちを家に連れてくると約束した。
筆圧の弱い字で書かれたページを、春子はじっと見ている。
「ねぇ、翔君、どうしているかな?」
春子が顔をあげて言った。
唐突すぎて、未来は一瞬、誰のことを言っているのかわからなかった。
だが、すぐに思い出した。
「翔君って、中井翔太のこと?」
「そう、幼なじみの翔君。よく、未来ちゃんのこと、お嫁さんにするって言ってたじゃない」
未来はカーッと顔が熱くなった。それを悟られないよう、できるだけ、冷静に答える。
「よく覚えているね、そんな昔のこと」
「前はしょっちゅう遊びに来てたのに、この頃、全然来ないね」
「前って言ったって、幼稚園の頃の話でしょ」
母親同士が高校の同級生で、翔太は母に連れられてよくこの家に来ていた。
春子は、ほんの数分前のことを忘れたかと思うと、昔のことを突然鮮明に思い出すこともある。未来以上に、事細かに覚えていることだってある。
「小学校入ってからも来てたじゃん」
「そうだっけ?」
未来は記憶の糸をたどった。
(そうだ)
小学校に入ってから、翔太は、一人でこの家に遊びに来るようになった。翔太の家は、歩いて、5分位の距離にある。
「でも、小学校1、2年生くらいの時じゃない、それって」
小学校中学年になると、家に遊びに来ることはなくなり、学校で話すだけになった。
高学年になると、あいさつを交わす程度になり、中学校に入ってからは、一言も喋っていない。
廊下ですれ違っても目を合わせることもなく、お互いそのまま通り過ぎた。
なぜ、そうなったのかはわからない。自然にそうなったのだ。
「翔君、また遊びにくるように、未来ちゃん言ってみてよ」
「え?」
「いいでしょ」
「でも最近、わたし翔君と全然喋ってないし」
「約束、破るの?」
春子が、ノートを突き出してきた。威圧的な態度に、未来はとまどう。
「友だち、連れてきてくれるんでしょ? わたし、翔君にもう決めたの」
「うん、誘ってみるけど……」
「やった、約束ね。破ったら、絶対に許さないから」
春子がペンを持つ。
「書いておくの?」
未来が聞いた。
春子がノートにペン先をつけた時、玄関でチャイムの音がした。
ごめんください、と大きな声。
玄関の鍵を開ける音とほとんど同時に、
「おばあちゃん、また人様に迷惑かけて! 本当に申し訳ございませんでした」
と、男の人の声がした。
今日子とおばあさんの話す声も聞こえてくる。
その声に気を取られた春子は、何も書かないまま、ノートとペンを枕の下に戻した。
「何か、急に気分が悪くなってきた」
「ハルちゃん、寝た方がいいよ」
「うん、そうする」
春子がベッドに横になる。
玄関で、カチャっと鍵の閉まる音がした。
リビングの扉を開ける音。閉める音。つかぬまの静寂。春子の寝息。
未来は、そっと春子の部屋を出た。
〇12月5日。未来ちゃんが、学校の友だちを家に連れてくると約束した。
筆圧の弱い字で書かれたページを、春子はじっと見ている。
「ねぇ、翔君、どうしているかな?」
春子が顔をあげて言った。
唐突すぎて、未来は一瞬、誰のことを言っているのかわからなかった。
だが、すぐに思い出した。
「翔君って、中井翔太のこと?」
「そう、幼なじみの翔君。よく、未来ちゃんのこと、お嫁さんにするって言ってたじゃない」
未来はカーッと顔が熱くなった。それを悟られないよう、できるだけ、冷静に答える。
「よく覚えているね、そんな昔のこと」
「前はしょっちゅう遊びに来てたのに、この頃、全然来ないね」
「前って言ったって、幼稚園の頃の話でしょ」
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春子は、ほんの数分前のことを忘れたかと思うと、昔のことを突然鮮明に思い出すこともある。未来以上に、事細かに覚えていることだってある。
「小学校入ってからも来てたじゃん」
「そうだっけ?」
未来は記憶の糸をたどった。
(そうだ)
小学校に入ってから、翔太は、一人でこの家に遊びに来るようになった。翔太の家は、歩いて、5分位の距離にある。
「でも、小学校1、2年生くらいの時じゃない、それって」
小学校中学年になると、家に遊びに来ることはなくなり、学校で話すだけになった。
高学年になると、あいさつを交わす程度になり、中学校に入ってからは、一言も喋っていない。
廊下ですれ違っても目を合わせることもなく、お互いそのまま通り過ぎた。
なぜ、そうなったのかはわからない。自然にそうなったのだ。
「翔君、また遊びにくるように、未来ちゃん言ってみてよ」
「え?」
「いいでしょ」
「でも最近、わたし翔君と全然喋ってないし」
「約束、破るの?」
春子が、ノートを突き出してきた。威圧的な態度に、未来はとまどう。
「友だち、連れてきてくれるんでしょ? わたし、翔君にもう決めたの」
「うん、誘ってみるけど……」
「やった、約束ね。破ったら、絶対に許さないから」
春子がペンを持つ。
「書いておくの?」
未来が聞いた。
春子がノートにペン先をつけた時、玄関でチャイムの音がした。
ごめんください、と大きな声。
玄関の鍵を開ける音とほとんど同時に、
「おばあちゃん、また人様に迷惑かけて! 本当に申し訳ございませんでした」
と、男の人の声がした。
今日子とおばあさんの話す声も聞こえてくる。
その声に気を取られた春子は、何も書かないまま、ノートとペンを枕の下に戻した。
「何か、急に気分が悪くなってきた」
「ハルちゃん、寝た方がいいよ」
「うん、そうする」
春子がベッドに横になる。
玄関で、カチャっと鍵の閉まる音がした。
リビングの扉を開ける音。閉める音。つかぬまの静寂。春子の寝息。
未来は、そっと春子の部屋を出た。
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