演じる家族

ことは

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2友だち

2-10

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 春子がノートを開く。

〇12月5日。未来ちゃんが、学校の友だちを家に連れてくると約束した。

 筆圧の弱い字で書かれたページを、春子はじっと見ている。

「ねぇ、翔君、どうしているかな?」

 春子が顔をあげて言った。

 唐突すぎて、未来は一瞬、誰のことを言っているのかわからなかった。

 だが、すぐに思い出した。

「翔君って、中井翔太のこと?」

「そう、幼なじみの翔君。よく、未来ちゃんのこと、お嫁さんにするって言ってたじゃない」

 未来はカーッと顔が熱くなった。それを悟られないよう、できるだけ、冷静に答える。

「よく覚えているね、そんな昔のこと」

「前はしょっちゅう遊びに来てたのに、この頃、全然来ないね」

「前って言ったって、幼稚園の頃の話でしょ」

 母親同士が高校の同級生で、翔太は母に連れられてよくこの家に来ていた。

 春子は、ほんの数分前のことを忘れたかと思うと、昔のことを突然鮮明に思い出すこともある。未来以上に、事細かに覚えていることだってある。

「小学校入ってからも来てたじゃん」

「そうだっけ?」

 未来は記憶の糸をたどった。

(そうだ)

 小学校に入ってから、翔太は、一人でこの家に遊びに来るようになった。翔太の家は、歩いて、5分位の距離にある。

「でも、小学校1、2年生くらいの時じゃない、それって」

 小学校中学年になると、家に遊びに来ることはなくなり、学校で話すだけになった。

 高学年になると、あいさつを交わす程度になり、中学校に入ってからは、一言も喋っていない。

 廊下ですれ違っても目を合わせることもなく、お互いそのまま通り過ぎた。

 なぜ、そうなったのかはわからない。自然にそうなったのだ。

「翔君、また遊びにくるように、未来ちゃん言ってみてよ」

「え?」

「いいでしょ」

「でも最近、わたし翔君と全然喋ってないし」

「約束、破るの?」

 春子が、ノートを突き出してきた。威圧的な態度に、未来はとまどう。

「友だち、連れてきてくれるんでしょ? わたし、翔君にもう決めたの」

「うん、誘ってみるけど……」

「やった、約束ね。破ったら、絶対に許さないから」

 春子がペンを持つ。

「書いておくの?」

 未来が聞いた。

 春子がノートにペン先をつけた時、玄関でチャイムの音がした。

 ごめんください、と大きな声。

 玄関の鍵を開ける音とほとんど同時に、
「おばあちゃん、また人様に迷惑かけて! 本当に申し訳ございませんでした」
と、男の人の声がした。

 今日子とおばあさんの話す声も聞こえてくる。

 その声に気を取られた春子は、何も書かないまま、ノートとペンを枕の下に戻した。

「何か、急に気分が悪くなってきた」

「ハルちゃん、寝た方がいいよ」

「うん、そうする」

 春子がベッドに横になる。

 玄関で、カチャっと鍵の閉まる音がした。

 リビングの扉を開ける音。閉める音。つかぬまの静寂。春子の寝息。

 未来は、そっと春子の部屋を出た。
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