演じる家族

ことは

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3幼なじみ

3-6

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 その夜、翔太が母親と一緒に未来の家にやってきた。

 今日子は家に上がるよう勧めたが、翔太の母が、夜遅いからすぐに帰ると言い、玄関先で話すことになった。

「翔太のせいで、未来ちゃんが記憶喪失になったって聞いてびっくりしちゃって」

 翔太の母は、今日子に菓子折りを渡して何度も謝った。

「そんな丁寧にしてくれなくてもよかったのに。記憶喪失は一時的なもので、もう大丈夫よね?」

「うん。この通り何ともないです」

「それならいいけど、もし何かあったら言ってね」

 翔太の母が、未来に笑いかける。

「養護教諭の宮下先生に言われて、学校帰りに一応病院も行って、頭部CTスキャンと脳波も調べてもらったけど、異常なしだったわ。もちろん外傷もないし」

 今日子が、未来の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。

 すぐ帰ると言ったのに、今日子と翔太の母の口からは次々と話題が出てきて、未来と翔太そっちのけで話し始めている。

「結局、おまえんち、来ることになっちゃったな」

 翔太が、お喋りの止まらない母親同士を横目で見ながら言った。

 せっかく翔太が家に来てくれたのに、未来は本来の目的を果たせず、もやもやした気分になった。

 翔太に春子の病気のことを話さなければならない。

 だが、隣には春子の部屋がある。ここで話せば春子にも聞こえてしまう可能性がある。

 その時、翔太の母が急に小声になって、
「春子さんは、どう?」
と、今日子に聞いた。

 春子のことを考えていた未来は、ドキッとする。

「相変わらずよ」

 今日子の返事に、翔太の母は、そう、と答えただけですぐに別の話題に移った。

 今日子は翔太の母に、春子の病気のことを話しているのだろう。

 だが、それだけの会話では、どこまで詳しく話しているのかはわからなかった。

 結局翔太には、何も話せないままだった。

 翔太と母親が帰ってしまうと、未来は春子の部屋をたずねた。春子は起きていた。

「誰か来ていたの?」

「うん。ちょっと学校のことで」

 未来は、翔太が来ていたとは言えなかった。

「ハルちゃん、わたし、絶対に翔君連れてくるからね。約束、ちゃんと守るから」

「約束って何のこと?」

 春子が不思議そうな顔をする。

「ううん。いいの。わたし、記憶がなくなっていくハルちゃんの気持ち、ちょっとだけわかった気がするんだ……」

「あっ、おじいちゃん」

 春子が叫んだ。

「おじいちゃんも、心配で見にきたの?」

 春子は、宙を見ながら何か話している。

 未来が、そっと部屋を出て行こうとした時。

「未来ちゃん、頭、大丈夫?」

 春子が、未来を呼び止めた。

「えっ。何で知っているの?」

 未来は振り返りざまなんとなく気になって、さっき春子が見ていた部屋の中央あたりに目を凝らしてみたが、何もない。

「お母さんが、言ってたから。未来ちゃんが、頭打ったって」

 春子が、自分の頭を指差しながら答えた。
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