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4幽霊
4-8
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三人は、未来の部屋に戻った。
恵理は巫女の衣装を脱ぎ、制服に着替えている。
「それにしても恵理ちゃん、迫真の演技だったね」
美波が興奮気味に言った。
着替え終わった恵理が、不安げな表情をする。
「どうしたの?」
未来が聞くと、恵理は視線をさまよわせた。
「わたし、覚えてないの」
「覚えてないって、どういうこと?」
「両手を合わせて、ブツブツ適当に呟いたところまでは、覚えてる。けど、途中でふっと意識が遠くなって、気づいた時にはもう、ハルちゃんの部屋を出てくるところだった」
「それって、もしかして……」
美波が言葉を濁す。
「まさか……ね」
未来は、美波と顔を見合わせた。
「わたしが記憶をなくしていた間、何があったの?」
恵理が、美波の腕を掴んで揺する。
美波が助けを求めるように、未来の方を見る。未来はしかたなく、事の一部始終を恵理に伝えた。
恵理が両手で口元を押さえる。
「どうしよう。わたし、どうなっちゃうの」
「でも、幽霊はもういないはずだから。そもそも、もし本当にいたたらの話だけど」
未来は、不安を取り除くように恵理の手を握った。恵理はその手を振り払う。
「わたし……怖くてたまらない」
恵理は顔を両手で覆い隠し、うずくまった。
「恵理ちゃん……」
未来は恵理の隣にしゃがみこみ、肩に手をかけた。
いつの間にか日が落ち、部屋は薄暗くなっている。
恵理が、クックッとしゃっくりのような声を漏らした。思わず未来は、肩に置いた手を離す。背筋に悪寒が走る。
クックックッ。奇妙な音が部屋に響き渡る。時々、ヒッとひきつれるような音もした。
未来は立ちあがり、自然に美波と体を寄せた。未来の腕をつかむ美波の手が、小刻みに震えている。
クックックッ……ヒッ。
暗がりで恵理は小さく固まったまま、肩を小刻みに揺らしている。
未来も美波も身動きひとつできなかった。
「……恵理ちゃん、大丈夫?」
未来の声は、暗闇に吸い込まれるように小さく消えた。
プハーっと炭酸の抜けたような音がしたかと思うと、恵理が、ゲラゲラと笑い出した。苦しそうに、お腹を押さえている。
唖然とする未来と美波の前に、恵理は立ち上がった。
「そんなわけないじゃーん」
「記憶がなくなったっていうの、嘘なの?」
美波が、未来の腕から手を離して言った。
「そうだよ。演劇部員が二人して、何騙されてんの? もう、笑い堪えるのに必死だったよ」
「え? 今までの全部演技?」
未来が驚くと、恵理は得意げに言った。
「まあね」
「もう、やだー。完全に騙された。恵理ちゃん、絶対お芝居やるべきだよ。本当に一緒にやろうよ」
美波が恵理の手をとった。
「考えてみても、いいかな」
「なにその上から目線な発言」
美波は、恵理の手を振り払いながら笑った。
「わたし、ハルちゃんに感謝しなくちゃ」
そう言う恵理に、
「感謝されるのは恵理ちゃんの方だよ。きっとこれでハルちゃん元気になると思う。ご協力ありがとうございました」
と、未来は深くおじぎした。
「ううん。本当にわたし、ハルちゃんには感謝しているの。ハルちゃんのおかげで、未来ちゃんと美波ちゃんとこうして友だちになれたんだもん。ずっと友だちなんかいなくてもいいと思ってたけど、やっぱりいると、いいもんだね」
「わたしも、恵理ちゃんと仲良くなれてよかったよ」
未来が言うと、
「わたしも」
と美波が笑った。
◇
美波と恵理を見送った後、未来が家に戻ると、玄関に今日子が立っていた。
今日子は黒いブラウスとスカートの上に、黒のロングコートを羽織っている。
「出かけるの? 全身黒ずくめでどうしたの?」
「ちょっと、お悔やみに行ってくるわ。ほら、この間来た、小松さんの家のおばあちゃん覚えてる?」
今日子がパンプスを履きながら言った。
「魚屋さんの?」
「そうそう。おばあちゃん、今朝、亡くなったんだって。起きてこないから、ご家族が見に行ったら、息を引き取っていたそうよ。昨日まではお元気だったらしいんだけど」
(……まさか)
未来は耳を疑った。
「そのこと、ハルちゃん、知っているの?」
「伝えようか迷ったけど、動揺するといけないから、言ってないわ」
「本当に?」
「ハルちゃん、どうかしたの?」
「さっき、そのおばあさんの幽霊が見えるって言っていたの」
今日子が首をかしげた。
「あっ。直接は言ってないけど、町内会長さんが連絡に来てくれた時に、もしかしたら聞いていたのかもしれないわ。あの方、声が大きいから」
「町内会長さん、いつ来たの?」
「未来のお友達が来て、すぐ2階にあがって行ったでしょ。確かその時だったかなぁ。とにかく、留守番お願いね。すぐ戻るから」
今日子は急ぎ足で出かけて行った。
恵理は巫女の衣装を脱ぎ、制服に着替えている。
「それにしても恵理ちゃん、迫真の演技だったね」
美波が興奮気味に言った。
着替え終わった恵理が、不安げな表情をする。
「どうしたの?」
未来が聞くと、恵理は視線をさまよわせた。
「わたし、覚えてないの」
「覚えてないって、どういうこと?」
「両手を合わせて、ブツブツ適当に呟いたところまでは、覚えてる。けど、途中でふっと意識が遠くなって、気づいた時にはもう、ハルちゃんの部屋を出てくるところだった」
「それって、もしかして……」
美波が言葉を濁す。
「まさか……ね」
未来は、美波と顔を見合わせた。
「わたしが記憶をなくしていた間、何があったの?」
恵理が、美波の腕を掴んで揺する。
美波が助けを求めるように、未来の方を見る。未来はしかたなく、事の一部始終を恵理に伝えた。
恵理が両手で口元を押さえる。
「どうしよう。わたし、どうなっちゃうの」
「でも、幽霊はもういないはずだから。そもそも、もし本当にいたたらの話だけど」
未来は、不安を取り除くように恵理の手を握った。恵理はその手を振り払う。
「わたし……怖くてたまらない」
恵理は顔を両手で覆い隠し、うずくまった。
「恵理ちゃん……」
未来は恵理の隣にしゃがみこみ、肩に手をかけた。
いつの間にか日が落ち、部屋は薄暗くなっている。
恵理が、クックッとしゃっくりのような声を漏らした。思わず未来は、肩に置いた手を離す。背筋に悪寒が走る。
クックックッ。奇妙な音が部屋に響き渡る。時々、ヒッとひきつれるような音もした。
未来は立ちあがり、自然に美波と体を寄せた。未来の腕をつかむ美波の手が、小刻みに震えている。
クックックッ……ヒッ。
暗がりで恵理は小さく固まったまま、肩を小刻みに揺らしている。
未来も美波も身動きひとつできなかった。
「……恵理ちゃん、大丈夫?」
未来の声は、暗闇に吸い込まれるように小さく消えた。
プハーっと炭酸の抜けたような音がしたかと思うと、恵理が、ゲラゲラと笑い出した。苦しそうに、お腹を押さえている。
唖然とする未来と美波の前に、恵理は立ち上がった。
「そんなわけないじゃーん」
「記憶がなくなったっていうの、嘘なの?」
美波が、未来の腕から手を離して言った。
「そうだよ。演劇部員が二人して、何騙されてんの? もう、笑い堪えるのに必死だったよ」
「え? 今までの全部演技?」
未来が驚くと、恵理は得意げに言った。
「まあね」
「もう、やだー。完全に騙された。恵理ちゃん、絶対お芝居やるべきだよ。本当に一緒にやろうよ」
美波が恵理の手をとった。
「考えてみても、いいかな」
「なにその上から目線な発言」
美波は、恵理の手を振り払いながら笑った。
「わたし、ハルちゃんに感謝しなくちゃ」
そう言う恵理に、
「感謝されるのは恵理ちゃんの方だよ。きっとこれでハルちゃん元気になると思う。ご協力ありがとうございました」
と、未来は深くおじぎした。
「ううん。本当にわたし、ハルちゃんには感謝しているの。ハルちゃんのおかげで、未来ちゃんと美波ちゃんとこうして友だちになれたんだもん。ずっと友だちなんかいなくてもいいと思ってたけど、やっぱりいると、いいもんだね」
「わたしも、恵理ちゃんと仲良くなれてよかったよ」
未来が言うと、
「わたしも」
と美波が笑った。
◇
美波と恵理を見送った後、未来が家に戻ると、玄関に今日子が立っていた。
今日子は黒いブラウスとスカートの上に、黒のロングコートを羽織っている。
「出かけるの? 全身黒ずくめでどうしたの?」
「ちょっと、お悔やみに行ってくるわ。ほら、この間来た、小松さんの家のおばあちゃん覚えてる?」
今日子がパンプスを履きながら言った。
「魚屋さんの?」
「そうそう。おばあちゃん、今朝、亡くなったんだって。起きてこないから、ご家族が見に行ったら、息を引き取っていたそうよ。昨日まではお元気だったらしいんだけど」
(……まさか)
未来は耳を疑った。
「そのこと、ハルちゃん、知っているの?」
「伝えようか迷ったけど、動揺するといけないから、言ってないわ」
「本当に?」
「ハルちゃん、どうかしたの?」
「さっき、そのおばあさんの幽霊が見えるって言っていたの」
今日子が首をかしげた。
「あっ。直接は言ってないけど、町内会長さんが連絡に来てくれた時に、もしかしたら聞いていたのかもしれないわ。あの方、声が大きいから」
「町内会長さん、いつ来たの?」
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今日子は急ぎ足で出かけて行った。
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