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「ハルちゃん。また美波と恵理ちゃん、来てくれたよ」
未来は、春子の部屋にぴょんとジャンプしながら入った。
未来たちを出迎えたのは、虚ろな目と青白い顔だった。春子の様子に、未来の胸を不安がかすめる。
「ハルちゃん、体調悪いの?」
未来が聞いたが、春子は黙ったまま起き上がろうとした。
春子の元へ駆け寄り、ベッドのリクライニングを調整しようと、未来はリモコンに手を伸ばした。
「ちょっと待って」
春子の声はかすれていた。
春子が枕を引きずるようにして、足元の方へ動かす。
いつも枕の下に置いてあるノートとペンを見られたくないのか、動きがぎこちない。春子はノートとペンを枕の下に隠しまま、掛け布団の中に大事そうにしまった。
「学校の友だちだよ。こっちが川瀬……」
「あぁ、美波ちゃんと恵理ちゃんね」
春子は力なく笑ったが、顔色の悪さは相変わらずだった。
「ハルちゃん、覚えてくれたんだぁ」
美波が、嬉しそうに言う。
「さっき未来ちゃんが、そう言ってたから」
「なんだ、そういうことかぁ。昨日わたしたちが来たのは、覚えてない?」
「覚えているような、覚えていないような……」
春子が首をひねった。
「わたし、ハルちゃんの部屋に忘れ物したかもしれなくて、探しに来たんだけど」
春子が一瞬、目を見張った。
「忘れ物?」
「そう。大事な物だから、探してもいい?」
「大事な物って……キラキラしてる?」
春子が、探るような目つきで美波を見ている。
「そう! デコしてある鏡だよ。覚えているの? もしかして、ハルちゃん見つけてくれた?」
「えっ? 覚えてないし、そんなの知らない」
春子が、美波から視線をそらした。未来は、春子の喋り方や仕草が不自然に思えてならなかった。
「そっか。じゃぁ、ちょっと探させてもらうね」
美波が探し始めると、恵理も後に続いて部屋をウロウロした。
未来も探すフリをしながら、春子の表情を盗み見る。春子はそわそわした様子で、美波や恵理を見ている。
未来は昨晩も見たが、もう一度ベッドの下を覗いた。起き上がった時、春子と目が合う。春子はビクッと体を震わせた。
「ハルちゃん、本当に知らないよね?」
未来が春子に確認する。
「わたしが知っているわけないじゃないの」
春子は、未来の方を見ずに答えた。
「やっぱりないね」
美波の一声で、未来もこれ以上探しても無意味だと自分に言い聞かせた。ないものを探しても仕方がない。
「ハルちゃん、女の子の幽霊はいなくなった?」
恵理が聞くと、
「昨日から来なくなったよ」
と、春子が暗い顔をした。
「よかったじゃん! 恵理ちゃんが除霊してくれたおかげだね」
未来はベッドの脇の床に膝立ちになって、春子を見あげた。先程まで青白いと感じていた顔は、近くで見ると土気色に見えた。
「除霊? そうだったの。全く余計なことしてくれたもんだわ」
春子が吐き捨てるように言った。
「何で? ハルちゃん、女の子の幽霊怖がってたじゃん。いなくなって安心でしょ?」
「彼女がいなくなって、わたしは本当に一人ぼっちになっちゃったのよ。友だちがいっぱいいる未来ちゃんには、わたしの寂しさなんてわからないんだわ」
「そんな……」
未来は言葉を失った。
「ハルちゃんは一人じゃないよ。未来がいるし、わたしと恵理ちゃんだって、もうハルちゃんの友だちだよ」
美波がつとめて明るく言った。
春子がキッと美波を睨んだ。
「本当に思ってる? わたしのこと友だちだなんて本当に思ってる?」
「思って、いる……よ」
春子の強い視線に、美波の声がか細く頼りなくなっていく。
「同情しているだけよ。みんな、わたしに同情しているだけ。本当にわたしを必要としていたのは彼女だけなの」
「けど、彼女はハルちゃんに死んでほしいと思っているって、言ってたじゃない」
「死んで自分と同じ世界に来てほしいくらい、わたしを必要としてくれていたのよ」
春子はそう言うと、ベッドのリクライニングを元に戻した。
そのまま壁の方を向いて横になった。
身動き一つしない春子は、まるで死人のようだった。
心配になった未来が呼びかけても、全く返事をしない。かすかに上下する掛け布団だけが、この世とのつながりを示していた。
未来は、春子の部屋にぴょんとジャンプしながら入った。
未来たちを出迎えたのは、虚ろな目と青白い顔だった。春子の様子に、未来の胸を不安がかすめる。
「ハルちゃん、体調悪いの?」
未来が聞いたが、春子は黙ったまま起き上がろうとした。
春子の元へ駆け寄り、ベッドのリクライニングを調整しようと、未来はリモコンに手を伸ばした。
「ちょっと待って」
春子の声はかすれていた。
春子が枕を引きずるようにして、足元の方へ動かす。
いつも枕の下に置いてあるノートとペンを見られたくないのか、動きがぎこちない。春子はノートとペンを枕の下に隠しまま、掛け布団の中に大事そうにしまった。
「学校の友だちだよ。こっちが川瀬……」
「あぁ、美波ちゃんと恵理ちゃんね」
春子は力なく笑ったが、顔色の悪さは相変わらずだった。
「ハルちゃん、覚えてくれたんだぁ」
美波が、嬉しそうに言う。
「さっき未来ちゃんが、そう言ってたから」
「なんだ、そういうことかぁ。昨日わたしたちが来たのは、覚えてない?」
「覚えているような、覚えていないような……」
春子が首をひねった。
「わたし、ハルちゃんの部屋に忘れ物したかもしれなくて、探しに来たんだけど」
春子が一瞬、目を見張った。
「忘れ物?」
「そう。大事な物だから、探してもいい?」
「大事な物って……キラキラしてる?」
春子が、探るような目つきで美波を見ている。
「そう! デコしてある鏡だよ。覚えているの? もしかして、ハルちゃん見つけてくれた?」
「えっ? 覚えてないし、そんなの知らない」
春子が、美波から視線をそらした。未来は、春子の喋り方や仕草が不自然に思えてならなかった。
「そっか。じゃぁ、ちょっと探させてもらうね」
美波が探し始めると、恵理も後に続いて部屋をウロウロした。
未来も探すフリをしながら、春子の表情を盗み見る。春子はそわそわした様子で、美波や恵理を見ている。
未来は昨晩も見たが、もう一度ベッドの下を覗いた。起き上がった時、春子と目が合う。春子はビクッと体を震わせた。
「ハルちゃん、本当に知らないよね?」
未来が春子に確認する。
「わたしが知っているわけないじゃないの」
春子は、未来の方を見ずに答えた。
「やっぱりないね」
美波の一声で、未来もこれ以上探しても無意味だと自分に言い聞かせた。ないものを探しても仕方がない。
「ハルちゃん、女の子の幽霊はいなくなった?」
恵理が聞くと、
「昨日から来なくなったよ」
と、春子が暗い顔をした。
「よかったじゃん! 恵理ちゃんが除霊してくれたおかげだね」
未来はベッドの脇の床に膝立ちになって、春子を見あげた。先程まで青白いと感じていた顔は、近くで見ると土気色に見えた。
「除霊? そうだったの。全く余計なことしてくれたもんだわ」
春子が吐き捨てるように言った。
「何で? ハルちゃん、女の子の幽霊怖がってたじゃん。いなくなって安心でしょ?」
「彼女がいなくなって、わたしは本当に一人ぼっちになっちゃったのよ。友だちがいっぱいいる未来ちゃんには、わたしの寂しさなんてわからないんだわ」
「そんな……」
未来は言葉を失った。
「ハルちゃんは一人じゃないよ。未来がいるし、わたしと恵理ちゃんだって、もうハルちゃんの友だちだよ」
美波がつとめて明るく言った。
春子がキッと美波を睨んだ。
「本当に思ってる? わたしのこと友だちだなんて本当に思ってる?」
「思って、いる……よ」
春子の強い視線に、美波の声がか細く頼りなくなっていく。
「同情しているだけよ。みんな、わたしに同情しているだけ。本当にわたしを必要としていたのは彼女だけなの」
「けど、彼女はハルちゃんに死んでほしいと思っているって、言ってたじゃない」
「死んで自分と同じ世界に来てほしいくらい、わたしを必要としてくれていたのよ」
春子はそう言うと、ベッドのリクライニングを元に戻した。
そのまま壁の方を向いて横になった。
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