おばけ育成ゲーム

ことは

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2 右手にゲーム、左手にぬいぐるみ

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 家に着いたのは、午後3時。リビングで、里奈はさっそく福袋を開けようとした。

「おやつはいいの?」

 お母さんが、買ってきた夕飯の食材を冷蔵庫に片づけながら聞く。

「今はいらない」

 福袋の口は頑丈に止められていて、なかなかテープが取れない。

 里奈は、リビングの床に座って福袋と格闘していた。

「なに買ってきたの?」

 2階からお父さんが降りて来た。日曜日だからといって、一日中パジャマ代わりのスウェット姿のままだ。

「福袋。おもちゃの」

 お父さんとおもちゃ屋に行っていたら、キラキラモンスターを買ってもらえたかもしれない。

 お父さんは、平日は仕事で帰りが遅くて会えない分、たまにおねだりするとおもちゃを買ってくれることが多い。

 だが、キラキラモンスターを買っていたら、この福袋は今ここにはなかっただろう。今日はこれでよかったのだ。

「お父さん、一日中パジャマでいてくれてありがとう」

 袋に張り付いた透明のテープの端を、爪でカリカリはがす。立ち上がったテープの端を、ゆっくりと引っ張っていく。途中でちぎれないように、ていねいにはがしていく。

「なんだそれ、いやみか?」

 お父さんが、里奈の頭をポンと叩いていった。

 叩かれた勢いで、手に余計な力が入ってしまった。はがしかけのテープが、途中で変な風に曲がって切れる。

「あぁ、失敗! もう、早く見たいのに」

「ハサミ、使ったら?」

 お父さんが、近くのキャビネットからハサミを取り出した。

「ありがとう」

 ハサミを受け取ると、なんだか今度は、すぐに開けてしまったらもったいないような気がしてきた。

「開けないの?」

 お父さんが不思議そうな顔をしている。

「早く中を見たいけど、見たくないの」

 お父さんは、ソファに寝転がりテレビをつけた。次々とチャンネルを変えていく。

 里奈は中の商品に傷がつかないように、隅の方を細く切っていった。

 袋を開けた瞬間、里奈はわぁっと声をあげた。

「すごい、クマちゃんだ!」

 店で見かけた茶色いクマのぬいぐるみ。

 腕には『おしゃべりクマちゃん』と書かれた、赤いハートの形のタグがついている。タグの内側が説明書になっているようだ。

 小さいサイズのぬいぐるみだが、定価は2千円だ。これだけでもう、元は取れた。

「ほら、見て見て。おしゃべりもするんだって」

 里奈はクマのぬいぐるみを高く持ち上げた。

「あら、かわいいわねぇ。よかったじゃない」

 キッチンのカウンター越しに、お母さんがこっちを見ている。

「他にはなにが入ってるかな」

 里奈は床に座りこんだ。

「このペンケース、全然かわいくない」

 次に出てきたのは、青い布地のシンプルなペンケースだ。

「じゃぁ、お父さんが使うよ」
 お父さんが手を差し出してくる。

「これ、千円で買って」

「じゃあいらない」

「買ってよー、欲しいって言ったじゃん」

「その福袋、いくらだったの?」

 お父さんが、体を起こす。

「千円よ」

 お母さんが口をはさむ。

「千円の福袋に入っていたペンケースを、千円で売りつけるなんて、それはずるいな」

「だってこのペンケース、定価は1,200円だよ。200円はおまけだよ」

「ただじゃなきゃいらない」

 お父さんがきっぱり断ってくる。

「ただじゃあげないよ。うわ、サイアク」

 福袋から、二つも戦隊もののフィギュアが出てきた。

「これ、使い道ないし」

「男の子のおもちゃじゃ、あげる子もいないわね。うちは親戚も女の子ばかりだし」

 お母さんがマグカップを二つ、両手に持ってキッチンスペースから出てきた。香ばしい匂いがする。

「お父さん、コーヒー入れたわよ」

 ダイニングテーブルにマグカップを置く。

「サンキュ」

 お父さんは立ち上がると、ダイニングの椅子に座り直した。

「里奈は? なにか飲む?」

「いらない」

 福袋の中身はあと一つだけだった。

 袋の底に、小さめの箱が入っている。ゲームソフトのケースではなさそうだ。

「2,000円たす1,200円たす、1,500円たす1,500円は?」

 里奈は、顔を上げた。

「ねぇ、お父さん、答えて」

「そんなの自分で計算しなさい」

 お父さんがコーヒーをすする。

「えっと、2,000円たす1,200円たす、1,500円たす1,500円はぁ……6,200円か」

「4つしか入ってなかったの?」

 お母さんが、マグカップを手で包みながら言う。

「あと一つ入ってる。1万円分以上入ってるって書いてあったから、最後の一つが高額商品ってことだよね?」

「うーん、どうかなぁ」

 お母さんが首をひねる。

 里奈は胸をドキドキさせながら、袋の底から箱を取り出した。

 手の平に収まる大きさで、ほぼ正方形の箱。

 パステルピンク色の箱には、かわいいおばけのイラストが描かれている。絵本に出てくるような、オタマジャクシみたいな形をしたおばけだ。

 青いキャップをかぶった白いおばけに、頭に花をつけたピンクのおばけ。おしゃれをしたおばけ達が、箱を賑やかにしている。

 箱には、濃いピンク色のポップな字体で、『おばけ育成ゲーム』と書かれていた。

「お母さん、ゲームだって! おばけ育成ゲームだって」
 里奈は思わず飛び上がった。

「小型のゲーム機かしら? 似たようなもの持ってなかった?」

「持ってるけど、こんなの、初めて見るよ」

 里奈は箱を裏返してみた。

「すごい。お母さんこれ、5万円だって」

「5千円の間違いじゃない?」

「本当だよ、5万円って書いてある」

 里奈はお母さんの側に駆け寄った。

「本当だわ。当たりの福袋ね」

「高すぎて売れなかったんじゃないか、そのゲーム。5万円で買う人なんていないだろう」

 お父さんが、からかうように言う。

「まぁ、ねぇ。それか5千円を5万円って間違えて印刷しちゃって、福袋行きになったとか」

 お母さんが笑った。

「どんなゲームかなぁ」

 ゲームの箱を開けようとする里奈の手を、お母さんが止めた。

「そういえばまだ、宿題やってなかったんじゃない? 絵日記の宿題」

「あ~、忘れてた」

「それで遊ぶのは、宿題やってからよ。自分の部屋でやってきなさい」

「はーい。これ、持ってこうっと」

 里奈は右手にゲーム、左手にクマのぬいぐるみを抱えた。
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