おばけ育成ゲーム

ことは

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1 金銀財宝がたったの千円

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「うそっ。足りない」

 ゲームソフト売り場で、高山里奈は大声を上げた。

 値札には、税込み4,179円と書かれていた。

 里奈は斜め掛けポシェットの中から、赤い財布を取り出した。何度確認しても、財布に入っているのは千円札が3枚だけだ。

 里奈が欲しかったのは、モンスターたちがファッションセンスで対決する『キラキラモンスター』。ポップでキュートな姿をしたモンスターたちがかわいいと、小学生女子の間で人気がある。

 人気アニメのテーマソングが、店内を流れている。泣きたい気持ちとうらはらに、元気で明るいアップテンポな曲。里奈は水色のスカートをぎゅっと握りしめた。

「あらら、来月のおこづかいまで我慢するしかないわね」

 後ろでお母さんの声がした。

 勢いよく振り向くと、ツインテールにした毛先がムチのように頬を打った。

「他のソフトは、もっと値下げされているのになんで?」

 里奈は声をとがらせた。

「まだ人気があるからじゃない?」

 お母さんがなぐさめるように、里奈の頭をなでる。

「お願い、買って」

 里奈は両手を合わせた。

「ダーメ。来月まで我慢して、おこづかいで買いなさい」

 お母さんが、里奈の白いティーシャツの袖を引っ張った。

 引きずられるようにして、里奈はお母さんの後をついて行く。

「ねぇ、ねぇ」

 里奈は甘えるように後ろから声をかけた。

 もちろん聞こえているのだろうが、お母さんは振り返らない。お母さんは、肩までの茶色い髪を揺らしながら先を行く。

「ねぇってば!」

 里奈は喉から声をふりしぼった。

 周りにいた客が数人、こっちを見た。

 お母さんが振り向く。

「店で大きな声出さないで。なに?」
 
 ちょっと怒ったような顔をしている。

「下の階のおもちゃ売り場、見に行ってもいい?」

「見たら、欲しくなるでしょ?」

「見るだけだから」

「いつもそう言って、買って買ってって言うじゃない」

「絶対に言わないから」

「もう、ちょっとだけよ。この後夕飯の買い物に行かなくちゃだから。家のお掃除もしなくちゃだし、時間がないのよ」

 お母さんはいつだって、忙しいってことを最大限にアピールしてくる。

「うん、わかった。ちょっと見るだけだから。先、行ってるね」

 里奈は駆け足でお母さんを追い抜いた。

   ◇

 おもちゃ売り場に行くと、真っ先に大きなクマのぬいぐるみが目に入った。

 商品紹介のポップには、かわいらしい手書きの文字で『おしゃべりクマちゃん』と書かれている。

「かわいいー、ふわふわ~」

 茶色い大きなクマを、里奈は抱きしめた。

「5千円かぁ。高いなぁ。あっ、こっちの小さな子なら2千円だ」

 20センチくらいの大きさのクマのぬいぐるみ。茶色い毛と白い毛の2種類があって、どっちも目が丸くてかわいい。

「これ買ったら、ゲーム買えなくなるよ」

 後から来たお母さんが、里奈の抱いているクマのぬいぐるみを取り上げた。

「わかってるもん。見てるだけじゃん」

「ほら、もう帰るわよ」

 お母さんが言った時、里奈の目に赤い袋の山が飛びこんできた。

「あれ、なに?」

 里奈は、お母さんの服の袖を引っ張った。

 雑貨などが置いてある奥のコーナーの一角に、それは置いてあった。

 銀色のワゴンに、赤い紙袋がつんである。

「お正月でもないのに、福袋? 珍しいわねぇ」

 お母さんが、福袋の一つを手に取った。

「結構重いわ」

 袋の持ち手の部分が、お母さんの手の平に食いこんでいる。

「千円で、1万円分以上の商品が入っていますって書いてあるよ」

 里奈は、銀色のワゴンに張りつけられた紙を指さした。

「何が入ってるのかしら」

 お母さんが、目を細めて紙袋を見る。まるで中身を透かして見ているみたいだ。

 でも、そんなことできるわけがない。

「さっぱりわからないわね」

「でも、ここにヒントが書いてあるよ。おもちゃやぬいぐるみ、ファンシーグッズ……えーとそれから」

 紙の端がめくれていてその先が読めなかった。

 里奈は、丸まった紙の端を伸ばした。

 里奈は目を見開いた。

「それから、ゲームなどもりだくさんだって!」

 声が自然に高くなっていく。

「決めた。わたし、これ買う」

「ちょっと、ちょっと」

 お母さんが、ワゴンに紙袋を戻した。

「これ買ったら、あと2か月はおこづかいためないと、ゲーム買えないのよ」

「だけどね、もしかしたらこの中にキラキラモンスターのソフトが入ってるかもじゃん。そしたら、千円でゲットできるんだよ」

 里奈は嬉しくなって、その場でジャンプした。

「そんなわけないじゃない。福袋なんてどうせ、売れ残り商品の詰め合わせよ。ゴミを買うようなもんだわ」

「そんなの、買ってみなくちゃわからないじゃない」

「わかってるわよ。福袋っていうのはたいてい、そういうものなの。なにが入っているかわからない福袋にお金を出しても、もしはずれ商品だったら無駄になるだけだわ」

 お母さんが腕を組んだ。

「なにが入っているかわからないから、楽しいんじゃん。福袋ってそういうものでしょ」

「もしも、欲しい物が入ってなくてもいいの?」

「いいよ。だって、おもちゃだけじゃなくて、ワクワクドキドキも一緒に買えるんだよ」

 こう言ってみると、里奈は絶対にこの福袋を買うべきだという気がしてきた。

 最初は、キラキラモンスターが入っているかもしれないという期待から買う気になったのだが、別に入っていなくてもかまわないという気持ちになった。

 それに、たとえつまらないおもちゃだったとしても、1万円分以上は入っているのだ。金額だけで考えれば、損したことにはならない。

 そう考えたら、里奈はこの福袋の山が、宝の山に見えてきた。

 光輝く金銀財宝。それがたったの千円。安すぎる。絶対に買うしかない。

「ゲーム買えなくなっちゃうよ。本当にいいの?」

「うん。あと2か月お金ためるからいい」

「自分のおこづかいで買うのよ」

「もちろん!」

 福袋と白い文字で大きく書かれた赤い袋は、50個くらいはありそうだ。

 袋の口は、ホッチキスと透明の太いテープできっちり閉じられている。すきまから中をのぞこうとしても、ちっとも見えない。

 里奈は、一つ一つ福袋を持ち上げてみた。重いものもあれば、軽いものもある。

 手にした袋を外から少し押してみる。一部が柔らかい。

「これ、ぬいぐるみかクッションかな」

「強く押して、袋を破いたりしないでね」

 お母さんが心配そうに見ている。

「これは、なにかの箱っぽいよ」

 里奈は人差し指で袋をなでた。

「時間がないから、そろそろどれにするか決めてちょうだい。これなんて、どう? すごく重くていいものが入ってそう」

 お母さんは、最初に持ち上げた袋を里奈に渡そうとしてきた。

「それはだめ。軽い方がいいの。ゲームソフトは軽いんだから」

「でも、色々入っている中にゲームソフトも入っているかもよ」

「福袋は自分で選ばなくちゃ意味がないもん」

「だから、早く選んでって言ってるでしょ」

 お母さんの口調がイライラしてきている。

「うーん、どうしよう」

 重さや感触に違いはあるけど、福袋の見た目はどれも同じだ。

 しかし見た目は一緒でも中身は違う。どれを選ぶかで、天と地ほどの差があるかもしれない。

 家に帰って福袋を開けた時、里奈はどんな気持ちになるだろう。

 天に昇るほど喜びに満ちあふれているか、それとも地に落ちるほどがっかりするか。

 里奈の未来は今この選択にかかっている。そう簡単には決められない。

「ど、れ、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の、か……」

 里奈は福袋に、人差し指をぽんぽんと当てていった。

「どれだって一緒よ。ほら早く」

 お母さんが里奈の肩を叩いて急かす。

「あ~もう、わかんなくなっちゃった。じゃあ、これ」

 里奈は一番左の、前から3列目に並んでいる袋を選んだ。

 一瞬、不思議な感覚がした。

 この福袋に、なんだかすっと手が引き寄せられた気がしたのだ。

 里奈が選んだのではなく、福袋に里奈が選ばれた気がした。

 だが、きっと気のせいだろう。

 この福袋を選んだのは、間違いなく里奈だ。

「うん。これなら軽くていい感じ」

 持ち手を持って振ると、カサカサと何かがぶつかり合うような音が聞こえた。軽いものがたくさん入っていそうだ。

 これこそが、里奈のために作られた福袋に違いない。

 里奈は軽い足取りでレジに向かった。
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