ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~

ことは

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9 連想ゲーム

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 翌朝、昇降口で隼人くんと一緒になった。

「桜ちゃん、おはよう」

 隼人くんが、いつものさわやかな笑顔で声をかけてきた。

「お、おはよう」

 わたしは、隼人くんから目をそらして答えた。

 息苦しいくらいに、心臓がドキドキいっている。

 昨日の夜のこと、なにか聞いてくるかな。

 運動靴を靴箱にしまい、上履きを床にパタンと投げる。意識しすぎて、動きの一つ一つが、ぎこちなくなってしまう。

 横目で、隼人くんが上履きをはくのを盗み見る。

「桜ちゃん」

「はいっ」

 靴箱の方を見たまま、わたしは背筋を伸ばした。

 昨日の夜のことを聞かれたら、どうやってとぼけよう。うまく答える自信がない。

「今日も暑いね」

「うん」

 わたしは、上履きをはきながらたったそれだけ答えるのが精いっぱいだった。

 今日も暑いねって、それだけ? 隼人くんはそれ以上なにも言わない。

 そのまま教室に向かおうとする隼人くんの背中を見つめる。

 すると、隼人くんがクルッとこっちを振り返った。

「桜ちゃん」

「はい?」

 わたしは慌てて、靴箱の方に向き直った。

「さっきから、どうして靴箱に向かって話しているの?」

 はっとしてわたしは、隼人くんを見た。

「オレのこと、さけているわけじゃ、ないよね?」

 隼人くんが困ったような顔をしている。

 わたしは、激しく首を横に振った。

「ないない! そんなこと、全然ない!」

 思わず大きな声が出てしまった。

 隼人くんが、フフッと笑う。

 その笑顔、ずるいよ。胸の奥が、キューっとなる。

「実は、桜ちゃんに渡したいものがあるんだ」

 隼人くんが、ズボンのポケットに手をつっこんで、なにかを取り出そうとした。

 トクトクと胸が高鳴る。

 渡したいものって、なんだろう?

「桜ちゃんのイメージにぴったりな……」

 そこで隼人くんの言葉はさえぎられてしまった。

「オーッスッ! 隼人」

 浩太くんが走りこんできて、隼人くんの頭をパコッと叩いた。

「あ、浩太。おはよう」

 隼人くんが、ポケットに手を突っこんだまま答えた。

「桜ちゃんもおはよう。二人ともなにやってるの、こんなところにつっ立ったままで」

 浩太くんが、靴箱から上履きを取り出し、バサッと床に落とした。

「いや、別に」

 上ずった声でそう言うと、隼人くんはズボンのポケットから手を取り出した。その手には、なにも握られていない。

「早く、行こうぜ」

 浩太くんの後に続いて、隼人くんも行ってしまった。立ち去る時、隼人くんはチラッとこっちを見たが、なにも言わなかった。

 結局隼人くんには、夜の海のことはなにも聞かれなかった。見間違いだと思ってくれたのかもしれない。それならそれでいい。

 でもちょっとだけ、もっと話したかったなって思った。

 嘘をつくことになるのは嫌だけど、隼人くんといっぱい話すチャンスかもって、どこかで期待していた。

「さーくらちゃんっ、おはよっ」

 ボーッとしていたら、肩を叩かれた。

 振り返ると、元気いっぱいの麻衣ちゃんの笑顔。ツインテールが左右に揺れている。

「桜ちゃん、元気だしてね」

「え?」

 わたし、そんなにがっかりした顔してたかな。隼人くんに昨日のこと聞かれなかったくらいで。

 麻衣ちゃんは、肩から赤いプールバックをさげていた。それを見て思い出す。

 そうだ。今日はプールの日だった。

 プールの日は元気のないわたしを、いつもはげましてくれる麻衣ちゃん。

「麻衣ちゃん、ありがとう! 元気出たよ」

 わたしは、コブシを作ってパンチをする真似をした。麻衣ちゃんもコブシを作って、わたしのコブシに当ててくる。

 わたしたちはその手を開いて、パチンとハイタッチする。

 わたしの大切な友達。麻衣ちゃんは、いつもわたしに元気をくれる。麻衣ちゃんがいてくれてよかった。

 それにしても、隼人くんがわたしに渡そうとしたものってなんだったんだろう。

 ズボンのポケットに入るくらいのものだから、きっと小さなものだと思う。小さくて、わたしのイメージにぴったりなもの……。

 なんだか連想ゲームみたい。


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