異世界に来た私のチートは、秩序ある混沌でした。

１．嫌い

酔っぱらうと声が大きくなる人……キライ。
エンターキーを大きな音で叩く人……キライ。
自分の失敗をなすりつけてくる人……キライ。
自分の考えをみんなの考えだと言う人……キライ。

つまり、どういう事かというと、ただ単に、私が、
周りの人と上手くコミュニケーションがとれないと言うだけの話。

そんな私でも、社会人として10年生きてきた。
就職して、学生気分が抜ければ、何かが変わるって、
そんな訳なかった。

会社で、どれ程業績を上げても、評価はいまいち。
やる気を無くして、適当に仕事を流すようになれば、
もっと君は出来るはずだと言う上司。
やった所で評価はくれないのに。

要領の良い子はどんどん出世していく。
頑張れば頑張った分だけ、心がすり減っていった。

頑張れば誰かが見ていてくれるって、そんな事は無かった。
転職すれば何かが変わるって、期待出来る程の若さもスキルも無い。

きっと今と同じ。
何も変わらない。

毒親から逃げるように始めた一人暮らしのワンルームマンションに帰り着くのは深夜。

不景気になって良かったと思えるのは、会社からの朝帰りが無くなった事。

夢も希望も自由になる時間もない毎日。
散らかりきった汚部屋の隅で、一人思った。

お部屋片付けなきゃ。
明日は仕事休もうかな？
私が休んでもきっと誰も困らない。

深夜に唐突に部屋を片付け始める。
散らばった未開封のＤＭダイレクトメールをかき集め、一か所にまとめる。
面倒だけど、宛名はシュレッダーにかけて捨てないと後が怖い。

整理する為、中途半端に物が詰まった衣装ケースの中身を一度取りだすと、底が黒ずんで見えた。
汚れる様なものも、プラスチックが変質する様なものも入って無かったはず。

今日も一日パソコンの画面とにらめっこしていた訳だし、疲れ目だろうか？
目を擦って、もう一度、底を見るが中心が不自然に暗かった。
気味が悪くて、何となく底に手を伸ばしてみた。
「え？」

中心に触れるか触れないかで、ダイソンもびっくりの吸引力を体験した。
まさか吸い込まれるって知ってたら、そっとふたして粗大ごみに出してたよね。
というか、裏側どうなってたんだろう。
今となっては知る由も無い。

その日、私は、ビジネスカジュアルな装いで、異世界に放り出された。