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モンスターパレット(後篇)
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翌朝、いつもより早くに目覚めた男の子はヴァイスが起こしに来る前にパレットを持って
ベッドを抜け出し、何もない大広間に行きました。
しんとした朝の空気が、男の子を包みます。
「大きくて、火を吹いて、空を飛べて、すごく強い竜が良い。」
舐めた指先を、パレットの赤におしつけながら、一晩考えた最強の僕を、思い浮かべると……。
パレットの赤の色が消えると同時に、熱くない火柱が上がり、打ち上げられた赤い塊は少しづつ大きくなり、竜の形を取りました。
しかし、男の子が喜んだのもつかの間、竜は、火を吹いて、壁にかかった布のカーテンを燃やし、男の子にも襲いかかるそぶりを見せました。
「何をするんだ!?」
驚いた男の子は、再び指を舐めて、打開できる強いモンスターを思い浮かべました。
「火を消す水を操る、賢こくて、僕の言う事を聞く強いモンスター、助けて!」
パレットの青に唾液で濡れた指を押しつけると、パレットから染み出す様に青の色が消え、
優美な人魚のモンスターが、男の子に微笑みかけ、赤い竜に向かい、襲いかかりました。
しかし、互角の強さのモンスターが広間で暴れるものですから、広間はあっという間にぼろぼろのぐちゃぐちゃになってゆきます。
「だめだ……、こんなの……、考えなきゃ。」
呆然と呟きながら、青ざめた顔で、黄色い色しか見えなくなったパレットに震える指を舐めて押しつける。
「あの2体を止められる、僕を守ってくれる強いモンスター、来い。」
これで駄目なら……もう終わりだ。
絶望的な気持ちで、すがる様に護ってくれるイメージを思い浮かべます。
するとパレットからさらさらと、金の砂があふれて消え、現れたゴーレムが先の2体を抱きしめて動かなくなりました。
これでは何の解決になりません。
3体のモンスターが少しでも動けば、この均衡は崩れてしまいます。
男の子はここで初めて、生意気な使い魔の事を思い出しました。
「……ヴァイス、どこにいるの?」
いつでも、どこにいてもかけつけてくれたはずの使い魔が、
何か失敗をしたら、すぐに笑いに来るはずのヴァイスが、
……名前を呼んでも姿を見せないのです。
これは、男の子の日常にとって、異常な事でした。
「……どうして?」
傍にいるのが、当たり前だと思っていた。
もし、ヴァイスと両親の契約が、僕が10歳になって、このパレットを渡すまでだったとしたら……。
僕はどうしようもなく間違えてしまった……。
男の子は、真っ白になってしまったパレットを、眼を見開いて見つめる。
もうこれからずっと居ないなんて……、
解ってたはずなのに、
男の子の両親だってあっという間にいなくなってしまった。
解っていたはずなのに、
どうして真っ先に、あの口の悪い使い魔を自分に縛り付けておこうとしなかったんだろう?
これがあればそれができたはずなのに。
「ヴァイス……。」
間違えた。
「ヴァイス……。」
……取り返しがつかない失敗だ。
「ヴァイス……。」
男の子の両目から、大粒の涙がこぼれ、抱きしめたパレットを濡らした。
「ぼっちゃん……片づけ出来ないなら散らかすなといつも言ってるでしょう?」
その時、白い光に包まれ、幻聴でも良いから聞きたい声が、耳元でした。
もう、大丈夫だと、絶対的な信頼に包まれる。
「……呼ぶのが遅いんですよ。
脳味噌、ふわっふわのわたあめで出来てるんですか?」
……パレットに白が残っていた。
そこにいるのが当たり前の様に残っていた。
……ヴァイスのように残っていた。
「おかえり、ヴァイス。そして、一言多い……。」
男の子は泣き笑いで、口の悪い使い魔にしがみ付いた。
************
最後まで読んでいただき感謝です。
良かったら感想待ってます!
ベッドを抜け出し、何もない大広間に行きました。
しんとした朝の空気が、男の子を包みます。
「大きくて、火を吹いて、空を飛べて、すごく強い竜が良い。」
舐めた指先を、パレットの赤におしつけながら、一晩考えた最強の僕を、思い浮かべると……。
パレットの赤の色が消えると同時に、熱くない火柱が上がり、打ち上げられた赤い塊は少しづつ大きくなり、竜の形を取りました。
しかし、男の子が喜んだのもつかの間、竜は、火を吹いて、壁にかかった布のカーテンを燃やし、男の子にも襲いかかるそぶりを見せました。
「何をするんだ!?」
驚いた男の子は、再び指を舐めて、打開できる強いモンスターを思い浮かべました。
「火を消す水を操る、賢こくて、僕の言う事を聞く強いモンスター、助けて!」
パレットの青に唾液で濡れた指を押しつけると、パレットから染み出す様に青の色が消え、
優美な人魚のモンスターが、男の子に微笑みかけ、赤い竜に向かい、襲いかかりました。
しかし、互角の強さのモンスターが広間で暴れるものですから、広間はあっという間にぼろぼろのぐちゃぐちゃになってゆきます。
「だめだ……、こんなの……、考えなきゃ。」
呆然と呟きながら、青ざめた顔で、黄色い色しか見えなくなったパレットに震える指を舐めて押しつける。
「あの2体を止められる、僕を守ってくれる強いモンスター、来い。」
これで駄目なら……もう終わりだ。
絶望的な気持ちで、すがる様に護ってくれるイメージを思い浮かべます。
するとパレットからさらさらと、金の砂があふれて消え、現れたゴーレムが先の2体を抱きしめて動かなくなりました。
これでは何の解決になりません。
3体のモンスターが少しでも動けば、この均衡は崩れてしまいます。
男の子はここで初めて、生意気な使い魔の事を思い出しました。
「……ヴァイス、どこにいるの?」
いつでも、どこにいてもかけつけてくれたはずの使い魔が、
何か失敗をしたら、すぐに笑いに来るはずのヴァイスが、
……名前を呼んでも姿を見せないのです。
これは、男の子の日常にとって、異常な事でした。
「……どうして?」
傍にいるのが、当たり前だと思っていた。
もし、ヴァイスと両親の契約が、僕が10歳になって、このパレットを渡すまでだったとしたら……。
僕はどうしようもなく間違えてしまった……。
男の子は、真っ白になってしまったパレットを、眼を見開いて見つめる。
もうこれからずっと居ないなんて……、
解ってたはずなのに、
男の子の両親だってあっという間にいなくなってしまった。
解っていたはずなのに、
どうして真っ先に、あの口の悪い使い魔を自分に縛り付けておこうとしなかったんだろう?
これがあればそれができたはずなのに。
「ヴァイス……。」
間違えた。
「ヴァイス……。」
……取り返しがつかない失敗だ。
「ヴァイス……。」
男の子の両目から、大粒の涙がこぼれ、抱きしめたパレットを濡らした。
「ぼっちゃん……片づけ出来ないなら散らかすなといつも言ってるでしょう?」
その時、白い光に包まれ、幻聴でも良いから聞きたい声が、耳元でした。
もう、大丈夫だと、絶対的な信頼に包まれる。
「……呼ぶのが遅いんですよ。
脳味噌、ふわっふわのわたあめで出来てるんですか?」
……パレットに白が残っていた。
そこにいるのが当たり前の様に残っていた。
……ヴァイスのように残っていた。
「おかえり、ヴァイス。そして、一言多い……。」
男の子は泣き笑いで、口の悪い使い魔にしがみ付いた。
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