百物語を一緒に

ぬるちぃるちる

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自室にて友より着信

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壁掛けのアナログ電波時計の短針は9をさしていた。

カーテンは朝出かけるときに締めたまま。
暗い部屋に電気をともし、クリーニングから戻ってきた黒の礼服をビニールがかかったままソファーの上に放って、ネクタイを緩める。
人目を気にすることも無い独り暮らしの部屋には、無駄な物があまりない。

ソファーに深くもたれるように腰掛け、ぐったりと一日の疲れにひたっていると、ローテーブルに放り出したスマートフォンに光が灯る。
サイレントマナーのままだったことを思い出しながら、応答すると呆れるほど元気な声がした。

「さーくや君、遊びましょ。」
 先週、顔を見てきたばかりの友達の声に、更に力が抜けた。

「ふざけてるの?」
 電話が掛かってくるのは嬉しいが、生憎な事に、今、朔夜は笑って冗談に付き合える気分では無かった。

「怒んないでよ!ねえ、それより、胆試きもだめししようぜ。」
 朔夜は、相手にするのが馬鹿馬鹿しくなって、ソファーに横倒しに倒れ込んだ。

「うちに来るの?」
 それでも電話を切る気は無い。

「いや、旧校舎取り壊し前に、一回、高校に行こうって言ってただろ?もう使わない蝋燭あるから夜行って怪談しようぜって、未咲みさきと話してて、お前も一緒が良いなって……。」
 征斗ゆきとと未咲夫婦の相変わらずのリア充っぷりに思わずうなった。

「……だが断る。」
 夜、学校にって絶対不法侵入じゃないか。

俺ももう社会人だ。
そんなリスクは犯せない。
って言うか、素直にうちに集まるで良くないか?

「あー、朔君そんな事言ってて良いのかな?君の初恋のさちちゃん来るぜ。こないだ、ばったり会っちゃって!」
 何がばったり会っちゃってだ!

ちなみに、幸ちゃんは、初恋じゃない。
初恋は小学校の時の美園みそのちゃんだ!
こないだスーパーで、子供抱っこしてて、なんか声かけられなかった。
「お前に会いたいってさ。『朔君格好良くなったんだろうね-。』って」
 我慢出来なかった。

「俺だって会いたいよ!後、下手なものまねで、幸ちゃんを汚すな!」
 幸ちゃんは、天使なのにお前に真似できる訳ないだろう。

「お前、明日仕事?」
 当たり前だ。
俺の仕事がカレンダー通りなのはお前も知ってるだろう?

「明後日は、休みだ。」
 だから家に来いと言う前に、征斗は被せてきた。

「じゃあちょうど良いな、明日の夜、俺たちの教室にのよんで待ってるから。仕事終わったら来いよ。解ってると思うけど、裏の森からなら柵無いから。」
 そう言うだけ言って、征斗は電話を切った。
……マジかよ。
俺、怖い話とか無理なんだけど……。
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