1 / 1
元龍王かく語りけり「起きたら人間だった」
しおりを挟む
我輩は龍王であった。この姿……人間の姿の名はまだ無い。かつては《鋼鉄の龍王》と呼ばれ、この身を最強と思い上がっていた。だが、実際は違っていたのだ。我輩とよく比べられる、《永遠を生きる魔女》という者がいた。我輩は、奴さえ倒せば最強の名は事実となると思い奴に挑んだ。結果は完敗だった。放つブレスは不可視の壁に阻まれ、振るう爪は指先から飛んでくる雷に砕かれたのだ。やっとの思いで突き立てた牙は、しかし幻影に惑わされていただけのようでふわりとした感触しか感じず、血の味は口内に無かった。やがて万策つきて疲労も溜まり、その場に倒れた我輩に魔女は語りかけた。
「お前は何故私に勝てると思うた?私のことを知らんだのか?」
「我輩は種として最強の位置にある龍である。更にその中でも最も強く、この世の生物の中で最強と呼ばれていたのだ」
「なるほど、最強の名を確かにすべく私に挑んだか」
「この世で最も脆弱な人間風情に遅れをとるとは、我輩の一生の不覚なり。だが、この身はここで朽ちる故、最初で最後と思えばまだ耐えられる」
すると魔女はさも愉快そうな笑みを浮かべながら、我輩に近づく。
「ほう、何故最初で最後と言い切れる?まだまだ恥はあるかもしれんだろうに」
「?何を……!もしや、我輩を殺さぬというのか!」
我輩は体に鞭打って絶叫した。
「人間風情に敗北した上、情けをかけられるとは何たることか!そのような目になるくらいならば、自決を選ぶぞ!」
魔女は、気持ちの悪い笑みを浮かべたまま尚も近づく。
「安心しろ、ちゃんとけじめはつけさせる」
「ならば、早くせい。この世に未練などもはや無い故に」
「けじめ=死ではないのだよ。お前には、ある意味死よりも恐ろしい罰を与えよう」
そう言うと、魔女は我輩の体に触れて何かを唱え始めた。すると、まばゆい光が我が身を包み込んだ。その光の中、我輩は気を失ってしまったのだ。まさか眼を覚ますと、我輩が最も嫌っていた脆弱なる種族……そう、人間の体になっていようとは、まさか思ってもみなかったのだ。
はっ、として起き上がると、体全体に何ともいえぬ違和感を感じた。まず柔らかさを、次に暖かさを、そして最後に脆弱さを。……脆弱さ?まさかと思い我が身を見ると、何ということであろう、美しく強靭でしなやかな銀色の鱗で覆われていたはずの肉体は、肌色のぐんにゃりとした皮に変わっていて、岩をも抉る鋭い爪は、地面を引っ掻こうものならば全て剥がれてしまいそうなものになっていた。更には、自慢だった白い牙も、あるにはあるのだが小さくなってしまっている。我輩は怒りと悲しみのあまり、咆哮を上げた。
「グゥアオォォ……っ!?ごほっげほっ」
何時もなら、轟き、周りを揺らす咆哮は、しかし咽が耐えきれず咳となった。
「……なんたるごほっ」
咽がまだ掠れる。あまりの情けなさに、涙が溢れ出してきた。
「いかん。泣くな、堪えるのだ……ぐすっ」
我輩はひとまずこの場から離れることにした。いつまでもここに居るわけにもいかないし、何より何かをして気を紛らわせないと本当に泣き出してしまいそうだったからだ。
「おのれぇ……魔女め!絶対許さんぞ!」
暫く歩いていると、腹が減ってきた。我輩は人間の食べ物などよく分からないので、とりあえずいつも通りの物を食べることにした。しかし、上手くはいかなかったのだ。この体は我輩が思っていた以上に脆く、扱いにくかったのだ。動物を見つけ、狩りをしようとしても逃げられる。走っても追い付けず、ブレスは咳となる。仕方なく虫を探していたら、草で手足が切り傷だらけになった。ムカついたのでブレスで焼き払おうと息を吸い、再び咳き込んだ。やっとの思いで捕まえた虫は、元の体だと何とも思わなかったのだが、いざ食べてみるとくそ不味いのだ。おまけに硬い足がチクチクした。
「うえぇ、おえぇ。うぅ、なんたることだ…なんたることだ…我輩はこんなんで生きていけるのか?魔女と再戦する前に変な物にあたって死んでしまいそうだ」
絶望感のせいで涙がまた溢れる。もう泣いてもいいんじゃなかろうか?こんな姿だから誰も《鋼鉄の龍王》とは思わないだろうし、何より周りには誰もいない。よし、今日だけ泣いておくとするか……するとその時だった。後ろからガサッと音がして、振り返るとそこには一人の人間の雌がいた。
「お前は何故私に勝てると思うた?私のことを知らんだのか?」
「我輩は種として最強の位置にある龍である。更にその中でも最も強く、この世の生物の中で最強と呼ばれていたのだ」
「なるほど、最強の名を確かにすべく私に挑んだか」
「この世で最も脆弱な人間風情に遅れをとるとは、我輩の一生の不覚なり。だが、この身はここで朽ちる故、最初で最後と思えばまだ耐えられる」
すると魔女はさも愉快そうな笑みを浮かべながら、我輩に近づく。
「ほう、何故最初で最後と言い切れる?まだまだ恥はあるかもしれんだろうに」
「?何を……!もしや、我輩を殺さぬというのか!」
我輩は体に鞭打って絶叫した。
「人間風情に敗北した上、情けをかけられるとは何たることか!そのような目になるくらいならば、自決を選ぶぞ!」
魔女は、気持ちの悪い笑みを浮かべたまま尚も近づく。
「安心しろ、ちゃんとけじめはつけさせる」
「ならば、早くせい。この世に未練などもはや無い故に」
「けじめ=死ではないのだよ。お前には、ある意味死よりも恐ろしい罰を与えよう」
そう言うと、魔女は我輩の体に触れて何かを唱え始めた。すると、まばゆい光が我が身を包み込んだ。その光の中、我輩は気を失ってしまったのだ。まさか眼を覚ますと、我輩が最も嫌っていた脆弱なる種族……そう、人間の体になっていようとは、まさか思ってもみなかったのだ。
はっ、として起き上がると、体全体に何ともいえぬ違和感を感じた。まず柔らかさを、次に暖かさを、そして最後に脆弱さを。……脆弱さ?まさかと思い我が身を見ると、何ということであろう、美しく強靭でしなやかな銀色の鱗で覆われていたはずの肉体は、肌色のぐんにゃりとした皮に変わっていて、岩をも抉る鋭い爪は、地面を引っ掻こうものならば全て剥がれてしまいそうなものになっていた。更には、自慢だった白い牙も、あるにはあるのだが小さくなってしまっている。我輩は怒りと悲しみのあまり、咆哮を上げた。
「グゥアオォォ……っ!?ごほっげほっ」
何時もなら、轟き、周りを揺らす咆哮は、しかし咽が耐えきれず咳となった。
「……なんたるごほっ」
咽がまだ掠れる。あまりの情けなさに、涙が溢れ出してきた。
「いかん。泣くな、堪えるのだ……ぐすっ」
我輩はひとまずこの場から離れることにした。いつまでもここに居るわけにもいかないし、何より何かをして気を紛らわせないと本当に泣き出してしまいそうだったからだ。
「おのれぇ……魔女め!絶対許さんぞ!」
暫く歩いていると、腹が減ってきた。我輩は人間の食べ物などよく分からないので、とりあえずいつも通りの物を食べることにした。しかし、上手くはいかなかったのだ。この体は我輩が思っていた以上に脆く、扱いにくかったのだ。動物を見つけ、狩りをしようとしても逃げられる。走っても追い付けず、ブレスは咳となる。仕方なく虫を探していたら、草で手足が切り傷だらけになった。ムカついたのでブレスで焼き払おうと息を吸い、再び咳き込んだ。やっとの思いで捕まえた虫は、元の体だと何とも思わなかったのだが、いざ食べてみるとくそ不味いのだ。おまけに硬い足がチクチクした。
「うえぇ、おえぇ。うぅ、なんたることだ…なんたることだ…我輩はこんなんで生きていけるのか?魔女と再戦する前に変な物にあたって死んでしまいそうだ」
絶望感のせいで涙がまた溢れる。もう泣いてもいいんじゃなかろうか?こんな姿だから誰も《鋼鉄の龍王》とは思わないだろうし、何より周りには誰もいない。よし、今日だけ泣いておくとするか……するとその時だった。後ろからガサッと音がして、振り返るとそこには一人の人間の雌がいた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる