[魔女]と忌み嫌われ無理やり[ドラゴンの花嫁]に捧げられた薬草師の嫁入りセカンドライフ

熊吉(モノカキグマ)

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:第3章 「私は、薬草師! 」

・3-7 第20話 「私は、薬草師! 」

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・3-7 第20話 「私は、薬草師! 」

 マルコーニ商会の会長、マリオの息子、十歳の、小さなパオロ。
 高熱によって意識さえ失い、衰弱していく一方であった彼の命は、———助かった。
 彼は、キアラがシロップと混ぜ合わせた風邪薬を、一生懸命に飲んでくれた。
 ほんの少しずつだがスプーンを口元によせるとわずかに口を開き、流し込んでやるとこくん、と喉を鳴らす。
 彼は必死に、生きようとしているようだった。
 薬草師がゆっくりと薬を飲ませていく様子を、マリオとカテリーナは祈るようにして見つめていた。そして体重から割り出した必要量をなんとか飲ませ終えて振り返ったキアラが笑顔を見せると、二人は互いに抱き合って喜んだ。
 それから、数時間。
 夜になって、ついにパオロの熱が下がり始めた。
 薬がきちんと効いたのだ。
 熱が引くと自然と呼吸も穏やかなものになり、その表情も和らぎ、顔色も正常なものに戻って行った。
 屋敷に呼ばれていた医師も、その症状が改善されたことを確認してくれた。
 彼は驚いていた。市販の薬を飲ませても効果がなく、悪化する一方であったために「もはや祈るほかない」と、内心では半ばあきらめてしまっていたのだろう。
 それなのに、キアラの薬を飲ませた途端、回復に向かったということにすっかり感心し、同時にその効果に恐れも抱いている様子だった。
 ———[魔女]。
 その医師もまた、そんな偏見を抱いている一人であったのだろう。
 キアラは敏感にそれを感じ取りはしたが、どうでもよかった。
 パオロを、一人の男の子を救えたという喜びで満たされていたからだ。
 医師から子供は回復に向かい、峠も越えたという報告を聞いたマリオは、泣いて喜んだ。
 そしてその妻のカテリーナは、———気絶した。
 何日もまともに眠っておらず、心労でずっと張り詰めていたから、安心したら糸が切れた人形のようにばったりと倒れこみ、そのまま使用人とマリオたちによって部屋へと運ばれていった。
 戻って来た父親は、キアラに深く感謝した。
 跪き、全身を使って「ありがとうっ! 」を表現し、文字通り救いの神のように崇め奉った。
 それから彼は、最初に受け取った薬の代金を含め、膨大な額の報酬を薬草師に手渡そうとする。
 ずっしりと重い、たっぷりと金貨の詰まった小袋。
 これさえあれば一生安泰だとも思える程の大金。これまで見たこともないような莫大な金額だった。
 しかしキアラは、その報酬のほとんどを、受け取らなかった。
 最初に渡した薬と、それから、パオロに飲ませたシロップと粉薬の分。
 値引きのしていない正規の料金だったから庶民からすれば明日からの生活を憂慮しなければならないほどの高額ではあったが、マリオのように成功している商人からすればなんでもない額だ。

「そんな、どうかご遠慮なさらないで下さい! 貴女は、私(わたくし)たちの大事なパオロを救ってくださったのです! お礼なんて、いくらしても、したりないくらいなのですよ! 」
「ありがとうございます。ですが、やはり受け取れません。……もし、どうしても、とおっしゃるのでしたら、そのお金はなにか、貧しくて困っている人たちのために使ってあげてください」
「お、おおおおおっ!!! なんとっ! なんと、お優しいっ! 」

 感極まった商人は号泣し、キアラに無理に報酬を受け取らせることを諦めてくれた。

「なら、せめて今晩は我が家に泊まって行って下さい! 急なことなので十分ではないかもしれませんが、できるだけのおもてなしをさせていただきますよ! それに、今日はもう遅いですし、今から帰るのでは大変でしょう? 」

 それからマリオはハンカチで涙を拭きながらそう提案してくれたが、これも、キアラは断った。
 フェリクスを待たせてしまっているからだ。
 彼はドラゴンであり人智を越えた力を持っていて、おそらく、薬草師がどんな事態に遭遇したのかもある程度は理解しているはずだった。
 しかし、自分たちの家に、あの湖畔の古城には帰らず、近くで待ち続けている。
 ———そんな予感がしたのだ。
 だからキアラはマリオたちの下を立ち去り、また街を訪れた際にパオロのその後の経過を教えてもらうという約束だけして、帰路についた。
 そして彼女の思った通り、フェリクスは待っていた。
 いつも合流場所としている人目につかない河原で羽を畳み、じっと、文字通り首を長くしてフルーメンの街を見つめていた。

「待たせちゃってごめんなさいね、フェリクス! でも、おかげで一人の男の子を助けてあげることができたわ! 」
≪我にも、そなたの喜びは伝わって来た≫

 疲れてはいるものの、やりきった充実した笑顔を浮かべた薬草師に、ドラゴンはわずかに双眸を細めながら、しみじみとした口調で言う。

≪今までに経験したことのない、不思議な感覚であった。……しかし、良いものだと思った。どこか、暖かく、満たされるような……≫
「フェリクス、あなた、私の考えていることがわかるの? 」
≪具体的なことは、わからぬ。ただ、どんな感情を抱いているのかはなんとなく、分かる。……今の我とそなたとは、[名づけ]によって結ばれているゆえに≫
「そう。……私たち、離れていてもつながっているのね」

 自分はこれからどこにいても、決して、孤独ではない。
 そう知った薬草師は自然に微笑むと、それから、ドラゴンの身体に思いきり抱きつく。
 自分の気持ちが伝わるというのなら、共有できるというのなら、彼に精一杯、この嬉しさを味わって欲しかったのだ。

「私は、薬草師! 」

 キアラは、心の底から喜びを爆発させながら、叫んだ。

「今日、男の子を一人、助けてあげられたのっ! 」

 おそらくその感情が伝わっているのだろう。
 ドラゴンにとって慣れないものであるらしく、フェリクスは少し戸惑っている様子だったが、すぐに双眸を閉じ、じっとその感覚を味わうような姿を見せる。

「薬草師って、素敵! 」

 彼にも、自分の[幸せ]が伝わるように。
 キアラは精一杯に叫び、そして、笑っていた。
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