メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
275 / 414
第十六章:「岐路」

・16-7 第274話:「国家宰相の憂鬱」

しおりを挟む
・16-7 第274話:「国家宰相の憂鬱」

 家庭を築き、後継者を定める。
 自身の身を固めることをエドゥアルドは真剣に考えると約束してくれた。

 彼は、今年で二十歳になった。
 まだ若くはあるが、この時代の慣習では、もう結婚していてもまったくおかしくはない年齢だ。

 だからこうして妻帯することに向き合ってくれることは、良いことだ。
 なのだが。

(どうにも、心に決めておられる方がいらっしゃるご様子……)

 謁見(えっけん)を終え、自身が帝都・トローンシュタットでの拠点としている場所に馬車で帰還しながら、国家宰相・ルドルフ・フォン・エーアリヒは、自身が直感したそのことについて思考を巡らせていた。

 これまで代皇帝がまともに妻を娶(めと)ることを考えていた様子はなかったが、彼の周辺には年頃の女性の姿が幾人もあった。
 エドゥアルドも、肉体的には十分に成熟した[大人]と言ってよい。
 恋愛のひとつやふたつ、していてもおかしくもなんともない。

 問題となるのは、その、恋の相手だった。
 本人も自覚しているのに違いないが、代皇帝の婚姻相手ともなると、諸勢力の様々な思惑や事情が複雑に絡み合い、政争の対象ともなる重大事だ。
 臣下としても気になるところだったし、できれば、円滑に事が運ぶように仕向けたい。

(あのように言い渋っておられる、ということは……。
 公にはし難いお相手なのだろうか……)

 指先で顎(あご)を揉みしだきながら、思案する。
 普段は比較的はっきりと自身の意見を口にするあの青年があれだけ言い澱むということは、彼の想い人は世間的に言ってあまり好ましい相手ではないのかもしれない。

 いったい、エドゥアルドの気持ちは誰に向けられているのか。
 気になるところだった。

 別に、ルドルフに詮索(せんさく)する趣味があるわけではない。
 代皇帝の気持ちが向いている先が誰なのかによっては、あらたな争いの火種になりかねないと危惧しているのだ。

 エドゥアルドがすでに気持ちを寄せている相手がいるのだとして。
 その正体によっては、「自身の妹を」と提示して来た公爵たちは不満を抱くことになるだろう。

「自分のかわいい妹を妻として差し出そうというのに、いったい、何が不満なのか!? 」

 貴族にだって家族の情は存在するし、もしも[格下]と見なされるような相手が后(きさき)として選ばれたのならば、場合によってはそれを侮辱(ぶじょく)と捉えてしまう可能性もある。
 そうなれば帝国の今後の政治に大きな悪影響が生じてしまうだろう。

 アリツィア王女と、ユーフェミア王女。
 エドゥアルドの身近にいる女性として真っ先に思いつくのはこの二人で、彼女たちならば何の懸念もなかった。
 それぞれの母国の立場から見ても代皇帝との婚姻は十分に魅力的な話であるはずで、交渉はうまくまとめられるはずだったし、公爵たちも一国の王族が相手となれば納得するだろう。

 しかし、どうにも、その二人ではない様子。

(何とかして、お相手を探り出せないだろうか)

 場合によっては巨大な国難になるかもしれないと不安を抱かざるを得なかったルドルフは、密かに行動することに決めて、知恵を絞ることにした。

「でしたら、陛下にネックレスを献上なさってみてはいかがでしょうか? 」

 そう策を授けてくれたのは、エドゥアルドのブレーンとして活躍して来たヴィルヘルム・プロフェートだった。
 彼はここしばらくの間、帝国に独自の諜報機関を設立するべく働いており、その進捗状況を共有するために国家宰相の下を訪問した際に相談を受けると、すぐにそう答えてくれた。

「ネックレスを? 」
「はい。
 それも、代皇帝から女性への贈り物として十分な格式を持ったものでございます」

 そういった装飾品を男性が身につけることもあったが、エドゥアルドは普段、使用することはない。
 であるのに、なぜネックレスを送るのかと不思議に思って確認するルドルフに、ヴィルヘルムはいつもの柔和な表情を崩さないまま教えてくれる。

「私(わたくし)が知っている故事に、このようなことがございました。
 とある国の王には複数の后がおりましたが、その中でいったい、誰がもっとも寵愛(ちょうあい)を受けているのかが分からない。
 誰が一番に大切にされているのかを知りたいと思っていた臣下は、ある時、王に美麗な装飾品をいくつか献上したのです。
 よろしければ、お后様たちにお送りくださいませ。
 きっと喜んでくださるでしょうから、と。
 その贈り物にはそれぞれ、等級が設けられておりました」
「ふむふむ……。
 それで、それにはいったい、どういう意味があったのですかな? 」
「その王は喜んで、愛する女性たちにその装飾品を送りました。
 すると、中でももっとも素晴らしいものを王が送られた相手が、深く愛情を得ている女性であると分かったのでございます」
「なるほど! 」

 ルドルフは思わず膝(ひざ)を打っていた。

 エドゥアルドに女性のためのネックレスを送れば、彼はそんなものを必要としないから、手元に置かずに必ず贈り物とする。
 そしてその相手は、心を寄せている相手となるのに違いない。
 誰しも、好きになった相手の笑顔はいつだって、いくらでも見ていたいものだからだ。

 そしてそれが分かれば、後はこちらであれこれと根回しをして、手筈を整えてやればよい。
 そうすればあの青年は想い人と結ばれて幸福だし、事前に対策を打てるので、婚姻を巡って発生するかもしれない混乱を未然に防止することもできてしまう。
 しかも根掘り葉掘り詮索(せんさく)せずに、自然な形で意中の相手を知ることができるのだ。

「ヴィルヘルム殿、良い思案をいただき、感謝申し上げますぞ! 」

 大喜びで礼を述べたルドルフは、急いで自身の頼りとする腹心、執事のコンラートを呼んで、代皇帝が想い人に贈るのにふさわしいネックレスを調達させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...