殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
3 / 226
:序章 「交通警備員・田中 賢二」

・0-3 第3話 「40歳の誕生日の夜:2」

しおりを挟む
・0-3 第3話 「40歳の誕生日の夜:2」

 規制を下げ終えた賢二は吉田と共に、中島と、そしてこの工事現場の現場監督をしている佐藤という男性と合流した。

 佐藤は30代前半の男性で、少し肌の色が白いインドア派といった印象の、黒ぶちの眼鏡をかけた男性だった。
 自分が現場監督だからと言って威張るようなこともない、物腰の優しい人だ。

 佐藤は他の作業員たちを見送った後、中島と一緒になって規制を下げる作業を手伝ってくれていたようだった。
 本来、現場監督とは現場の作業を監督するのが仕事で、自分自身で他の作業者が行う作業をしてはいけないのだが、佐藤はいつも「このくらい、コミュニケーションの内ですよ」といって、賢二たちが規制を下げるのをいつも手伝ってくれる。

「はい、今日もお疲れ様でした」

 規制を下げ終え、工事現場を一往復して異常がないかを確認して戻って来た佐藤は、ほっとした様子で笑顔を見せながら賢二たちにそう言った。

「佐藤さんも、お疲れ様でした」

 そんな佐藤に、賢二は中島と吉田と一緒に書いた日報を手渡すと、それからこの日1日働いたことを証明する佐藤のサインをもらうために書類を差し出した。
 すると佐藤は慣れた手つきで、黒ペンでサラサラと書類に署名を済ませていく。

「はい。それじゃ、気をつけて。
 明日もよろしくお願いします」

 今日1日、働いた分の対価を得る保証を得た賢二たちに佐藤はそう言うと、そそくさと2ボックスタイプの商用車に乗り込んで走り去って行った。
 賢二たちはこれで仕事が終わりだったが、佐藤には事務所に戻ってからもやるべき仕事がいろいろとあるのだ。

 現場監督である佐藤には、毎日残業がある。
 賢二が大変じゃないですかと聞いたら、佐藤は「どこの現場も一緒ですよ」と苦笑していた。

(現場監督も、大変だな~)

 正社員は、日雇いの派遣社員である賢二たちよりも待遇がいい。
 しかし、その分大きな責任もともなっているわけで、毎日確定で残業をしなければならない佐藤のことを思うと、賢二はいつも、応援したいような気持になってくる。

 佐藤が商用車で走り去ると、賢二たちはその場で解散した。

「んじゃ、お疲れさん」「お疲れっしたー」

「はーい、お疲れ様。明日もよろしくお願いします」

 中島と吉田の別れの挨拶に賢二も答えると、3人はバラバラの方向に向かって歩き出す。

 中島と吉田は、ここからそう遠くない場所にある自宅へ直帰する。
 一方の賢二は、今の賢二の直接の雇用主である派遣会社へと向かってから、帰宅するつもりだった。

 というのは、今日の分の日当を受け取らなければならないからだ。

 日当いくらで雇われているとはいっても、毎日個別に日当を受け取っていては会計が面倒だ。
 だから普通は1月分をまとめて受け取ることが多いのだが、今日は特別だった。

 1人きりの寂しい誕生日とはいえ、祝うためには軍資金がいるからだ。

 このために賢二は、事前に会社に無理を言って、今日の分の日当を個別に受け取れるように手配してもらっている。
 [勤務態度が真面目だから]と、会社の側も融通を効かしてくれた。

 派遣会社の事務所は、ここからそう遠くない。
 現場監督の佐藤が務めている道路工事の会社と同じように地域密着型の交通警備員の派遣会社であり、駅近くの貸しビルに部屋を借りて営業しているのだ。

 賢二は、足早に会社へと向かって行く。
 それは、すっかり日が沈んでしまって防寒着を着ていても肌寒いから動いて身体を暖めようという意図もあったが、なにより、早く労働の対価を手にして、楽しみにしている焼鳥を味わいたいと、気持ちが急くからだった。

────────────────────────────────────────

 そして、30分後。

「ありがたや、ありがたや~」

 会社から出てきた賢二は、今日働いた分の日当の入った封筒を両手の手の平で挟んで拝むようにし、しみじみとありがたがっていた。

 その服装は、交通警備員としてのものではなく、私服になっている。
 下は長年着こんだおかげであちこちがすれたり色褪いろあせたりして、ちょうどダメージジーンズのようになったデニムのズボン。上は緑色の生地でできたフードつきのウインドブレイカー。
 ヘルメットをかぶっていた時はわからなかったが、賢二は髪を長くのばしており、首筋の辺りでひとつにまとめられた黒髪がウインドブレイカーのフードの中にだらんと垂れ下がっている。

 9000円、きっちり。
 会社は事前の約束通り、賢二に本日分の日当をその場で手渡してくれた。

 現場監督・佐藤のサイン入りの書類と引きかえに手にしたこの金が、今日の軍資金だ。

 本当なら、ここから食費や光熱費、住居費など、諸々の出費を計算しながら、つつましく暮らしていかなければならないのだが、今日だけは特別だ。
 賢二はこの全額をパーッと、すべて使い切るつもりでいた。

「へっへっへ、待ってろよ、焼鳥~っ! 
 ねぎま、鳥皮、ナンコツ、ハツ、砂肝!

 腹いっぱい、食ってやっからな~っ! 」

 嬉しそうな笑みを浮かべながら、大切そうに日当の入った封筒をふところへとしまい込んだ賢二は、足取りも軽やかに駅前へと向かって行く。

 目指すのは、つい先日に見つけて、目星をつけていた焼鳥屋。
 表通りを少し外れた路地裏にある、隠れ家的な雰囲気を持った店だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...