殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
14 / 226
:序章 「交通警備員・田中 賢二」

・0-14 第14話 「それは、神と名乗った」

しおりを挟む
・0-14 第14話 「それは、神と名乗った」

 田中 賢二という人間は、死んだ。
 そのはずだった。

 しかし、賢二はまだ、完全に消滅したわけではなかった。

(あれ……? ここ、どこだ……? )

 自分は、間違いなく死んだはずだ。
 混濁(こんだく)とした意識の中でそのことを思い出した賢二は、怪訝けげんに思って、周囲を見回そうとする。

 だが、なんの変化も起こらない。
 それも当然、賢二はすでに肉体を失った存在だったからだ。

 そこにあるのは、ただ、永遠に続くかと思われるような無、それだけ。
 その虚無の中で、賢二の意識だけがぽつんと存在している。

(もしかして……、これが、死後の世界って、奴か? )

 賢二は、生きている間は死後の世界があるとは思っていなかった。
 天国とか極楽とか、地獄とか煉獄とか、そういった概念が存在していることは一般常識として知っていたが、それが実際に存在すると考えたことは一度もない。

 その虚無の世界は、しかし、聞いたことのあるどんな[死後の世界]とも違っていた。
 イエス・キリストも、お釈迦しゃか様も、そこにはいない。
 怖い顔をした閻魔大王も、いない。

 あるのはただ、無、それだけ。
 無があるというのはそれだけで矛盾した言葉だったが、賢二にはそれ以外に表現のしようもなかった。

(参ったな……。ずっとこんな場所にいるんじゃ、たまらないぜ)

 賢二は、つまらない気持ちになって、早く天国や極楽、そうでなければ地獄や煉獄でもいいから、とにかくこのなにもない場所からどこかへ移りたいと思った。
 死んでしまったからといって、これからずっとこんな場所にいるのでは、それこそ、地獄の方がマシだとさえ思えるほど、退屈そうだったからだ。

『ここは、あなたが思っているような、死後の世界ではありませんよ』

 その時、唐突に、賢二の混濁こんだくとした意識の中に、白い光が広がった。

 そしてその光は、穏やかな美しい女性の声で、賢二にそう言う。

(えっ? えっと、どちら様で……? 
 イエス・キリスト様は? 
 お釈迦様は? )

 その唐突にあらわれた自分以外の存在に、賢二は戸惑いながらたずねる。
 すると、その光から発せられているとしか思えない声は、くすり、と小さく笑った。

『イエスとシッダールダなら、下界でバカンス中ですよ。

 私(わたくし)は、そう……、神と呼ばれる存在です』

(ぅえっ!? か、神様!? 
 えっと、……いったい、どちらの神様で……? )

 この世界にはいくつもの宗教があったし、賢二が暮らしていた日本にはそれこそ、八百万(やおよろず)の神が存在していると言われている。
 神と名乗られても、賢二は戸惑うしかなかった。

わたくしは、あなたが生きていた世界の神ではありません。

 あなた方が異世界と呼ぶ世界の神なのです』

(い、異世界、だって……? )

 賢二は、おそらく肉体があればその顔にきょとんとした表情を浮かべていただろう。

 異世界の、神。
 白い光はそう名乗った。

 という、ことは。
 賢二は急速に、現在自分に起こっていることを理解する。

(これって、もしかして……、今、流行ってる異世界転生ってやつ!? )

 殺陣(たて)を極めて、自分の理想の生き方をする存在になりたい。
 そう願い、その夢のためにわき目もふらずに走り続けてきた賢二だったが、本を読むことくらいある。
 特に何年も前に開設されたWEB小説投稿サイトなどでは、気軽に様々な作者が書いた本を読むことができるから、賢二も時々利用していた。

 そのWEB小説で、昔から流行っているのがいわゆる転生モノという奴だ。
 そして、目の前にあらわれた白い光が、自分は異世界の神だなどと名乗ったのだから、賢二には空想が現実になったのだと思えたのだ。

(はっ、はははっ! こりゃ、おもしれーや! )

 しかし賢二は、次の瞬間には笑ってしまっていた。
 これは、死にゆく自分が最後に見ている、あり得ない空想の類だと思ったからだった。

『これは、あなたの空想などではありませんよ』

 神と名乗った白い光は、そんな賢二の考えを見透かしたように、言う。

わたくしは、異世界の神。

 田中 賢二、わたくしはたまたま、あなたのことを見つけました。
 そして、あなたの死に様を、哀れに思いました。

 信じていた友人に夢を断たれ、今度は命までも奪われた。
 賢二よ、あなたに落ち度がまったくないとは申せませんが、その運命は、わたくしが同情するのに十分なものです。

 ですから……、あなたに、やり直す機会を差し上げましょう』

(俺に、やり直す、チャンスを……? )

 もし、賢二に肉体があったら、賢二はゴクリと喉を鳴らしながら唾を飲み込んでいたことだろう。

 賢二は未だに、自分に起きようとしていることを信じられずにいた。
 なぜなら、異世界に転生することなど物語の中だけのことだと、そんな風にずっと考えてきていたし、実際にそう言ったことがあり得るにしろ、自分にそのチャンスが巡って来るとは思っても見なかったのだ。

 もしも、これが、本当のことなら。
 自分が異世界に転生して、新しい人生を歩むことができるのなら。

 それは、あまりにも魅力的な出来事だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...