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:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」
・1-39 第55話 「ある村の運命:2」
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・1-39 第55話 「ある村の運命:2」
「フィーナ! まってくんろっ! 」
フィーナが野盗たちの方に進み出ると、顔をあげた長老はフィーナに取りすがろうと、地面の上を這うようにして彼女に手をのばした。
だが、長老ののばした手は、フィーナには届かなかった。
なぜなら、長老とフィーナの間に割って入った野盗の頭領によって、長剣の切っ先を鼻先に突きつけられてしまったからだ。
「ちょっ、長老さまっ!? 」
その頭領の行動に表情を青ざめさせたフィーナが慌てて駆けよろうとするが、しかし、彼女は左右から他の野盗たちによって取り押さえられてしまう。
「斬られたくなければ、大人しくしていることだな、村長」
頭領は自分よりも圧倒的な弱者を前にした嘲笑を浮かべながら、冷ややかに言い放つ。
「娘が自ら我らのモノになると言っているのだ。
その意志をせいぜい、尊重してやろう」
そして頭領がそう言って部下たちにあごで合図すると、野盗たちは素早く縄とさるぐつわを用意した。
縄で手足を拘束され、さるぐつわを噛まされるのを、フィーナは抵抗せずに受け入れた。
村を存続させるために犠牲になるという覚悟はすでに固めているし、長老を人質に取られているのだから、そんなことはできるはずもなかった。
「お前たち、食料もすべて積み込め」
捕えられたフィーナがまるで物のように馬に乗せられると、頭領はさらに、村から差し出されることとなった種も馬に積むように命じる。
すると野盗たちは少女という思わぬ戦利品に気分を良くし、下卑た笑みを浮かべたまま、種の袋を担ぎ上げると馬の背中に乗せ、縄で固定していった。
そうして野盗たちが略奪を済ませるのを見届けると、ようやく頭領は長老から剣を引く。
「おっ、おカシラ様ッ、頼む、フィーナだけはッ! オラの娘だけは、勘弁してくろっ! 」
ようやく身動きの取れるようになった長老は、すかさず頭領の足元に取りすがって懇願した。
だが、その切なる願いも、頭領の心を動かすことはない。
彼はうざったそうに長老のことを見おろすと、振り払うように蹴りを入れた。
年老いて体力のなくなった老人だ。
長老は簡単に蹴り飛ばされ、地面の上に転がった。
「んぐっ、んぐぐっ! 」
さるぐつわを噛まされ、種の入った袋と同じように馬の背中に荷造りされたフィーナが、抗議するように頭領を睨みつけながらくぐもった声をあげる。
しかし、もはやなんの抵抗もできない彼女に、野盗たちはニヤニヤとした笑みを浮かべるだけだった。
「ぅぅ……っ!! 」
長老は蹴られた痛みでうずくまりながら、悔しさにほぞを嚙んでいる。
しかし、この村の本当の悲劇は、まだ始まったばかりだった。
「お前たち、この村に火をかけろ。
……予定通りに、すべて焼き払え! 」
村に火をかける。
それは、野盗たちが徹底的にこの村を破壊し、人が住めないようにしようとしている、ということだった。
「なっ、なんだってっ!? 」「んぐっ!? 」
その頭領の言葉に、長老とフィーナは驚愕しながら視線を向ける。
すると頭領は、フン、と2人のことを鼻で笑った。
「まったく、バカな奴らだ。
我らが[タダの]野盗だと思い込んでいるとは……。
せいぜい、その蒙昧さを恨むことだな」
自分たちは、単なる野盗ではない。
その頭領の言葉の意味が理解できずに唖然としている長老とフィーナの前で、地に堕ちた騎士は片手をかかげ、さっ、っと振り下ろした。
野盗たちは、最初からそうするつもりで準備をしてきたのだろう。
馬に積んできた松明をその合図で一斉に手に取ると、折よく暖を取るために用意されていた焚火に近づけ、着火する。
松明は、たくさん用意されていた。
それこそ、村にある家のすべてに投げ込んで行っても足りるほどの数があった。
そして野盗たちは火をつけた松明を、村の家屋に投げつけ始める。
村の建物の多くは土壁を持っていたが、その基本構造は木製だった。
しかも、家々の外側には日々の煮炊きのために使う薪などが積み上げられているから、一度火がつけば簡単に燃え上がってしまう。
「おっ、おカシラっ、なんてことをするんだッ! やめてくんろっ! やめてくんろっ!! 」
次々と燃え上がっていく家々を目にした長老は力を振り絞って起き上がり、頭領に取りすがった。
「オラたちは、今までアンタたちの言うとおりにしてきたでねぇかっ!
種も差し出したし、オラのフィーナまでっ!
なして、こんなことをするんだかっ!? 」
「すまんな、村長よ。
しかし、最初からこれが、我々の目的だったのだ」
頭領は、愉悦に歪んだ笑みを浮かべながら、残酷な真実を教える。
「我らは、[野盗]ではなかったのさ。
辺境の村々を襲い、略奪し、焼き払い、お前たちの国を混乱させ、力を弱める。
それが、我が任務であったのだ」
「にっ、任務、だって……!? 」
突然明かされたその真実に、長老は言葉を失う。
だが、そうしている間にも火の手は広がり、炎はいよいよ盛んに燃え上がっていく。
「に、任務だかなんだか、オラたちには関係ねぇこったっ!
頼む、こんなことはやめてくんろっ!
村が、オラたちの村がっ……ッ!! 」
なんとか村を救おうと、長老は頭領にすがりつく。
力のない、戦う術を持たない彼には、そうする以外の手段がないからだ。
「フン。虫けらめ」
しかし、返って来たのは、そんな見下した言葉。
そして、頭領が振り下ろした長剣の、無慈悲な刃だけだった。
「――――――ッ!!! 」
燃え上がる村の中で、目の前で長老を斬られたフィーナの悲鳴が響き渡った。
「フィーナ! まってくんろっ! 」
フィーナが野盗たちの方に進み出ると、顔をあげた長老はフィーナに取りすがろうと、地面の上を這うようにして彼女に手をのばした。
だが、長老ののばした手は、フィーナには届かなかった。
なぜなら、長老とフィーナの間に割って入った野盗の頭領によって、長剣の切っ先を鼻先に突きつけられてしまったからだ。
「ちょっ、長老さまっ!? 」
その頭領の行動に表情を青ざめさせたフィーナが慌てて駆けよろうとするが、しかし、彼女は左右から他の野盗たちによって取り押さえられてしまう。
「斬られたくなければ、大人しくしていることだな、村長」
頭領は自分よりも圧倒的な弱者を前にした嘲笑を浮かべながら、冷ややかに言い放つ。
「娘が自ら我らのモノになると言っているのだ。
その意志をせいぜい、尊重してやろう」
そして頭領がそう言って部下たちにあごで合図すると、野盗たちは素早く縄とさるぐつわを用意した。
縄で手足を拘束され、さるぐつわを噛まされるのを、フィーナは抵抗せずに受け入れた。
村を存続させるために犠牲になるという覚悟はすでに固めているし、長老を人質に取られているのだから、そんなことはできるはずもなかった。
「お前たち、食料もすべて積み込め」
捕えられたフィーナがまるで物のように馬に乗せられると、頭領はさらに、村から差し出されることとなった種も馬に積むように命じる。
すると野盗たちは少女という思わぬ戦利品に気分を良くし、下卑た笑みを浮かべたまま、種の袋を担ぎ上げると馬の背中に乗せ、縄で固定していった。
そうして野盗たちが略奪を済ませるのを見届けると、ようやく頭領は長老から剣を引く。
「おっ、おカシラ様ッ、頼む、フィーナだけはッ! オラの娘だけは、勘弁してくろっ! 」
ようやく身動きの取れるようになった長老は、すかさず頭領の足元に取りすがって懇願した。
だが、その切なる願いも、頭領の心を動かすことはない。
彼はうざったそうに長老のことを見おろすと、振り払うように蹴りを入れた。
年老いて体力のなくなった老人だ。
長老は簡単に蹴り飛ばされ、地面の上に転がった。
「んぐっ、んぐぐっ! 」
さるぐつわを噛まされ、種の入った袋と同じように馬の背中に荷造りされたフィーナが、抗議するように頭領を睨みつけながらくぐもった声をあげる。
しかし、もはやなんの抵抗もできない彼女に、野盗たちはニヤニヤとした笑みを浮かべるだけだった。
「ぅぅ……っ!! 」
長老は蹴られた痛みでうずくまりながら、悔しさにほぞを嚙んでいる。
しかし、この村の本当の悲劇は、まだ始まったばかりだった。
「お前たち、この村に火をかけろ。
……予定通りに、すべて焼き払え! 」
村に火をかける。
それは、野盗たちが徹底的にこの村を破壊し、人が住めないようにしようとしている、ということだった。
「なっ、なんだってっ!? 」「んぐっ!? 」
その頭領の言葉に、長老とフィーナは驚愕しながら視線を向ける。
すると頭領は、フン、と2人のことを鼻で笑った。
「まったく、バカな奴らだ。
我らが[タダの]野盗だと思い込んでいるとは……。
せいぜい、その蒙昧さを恨むことだな」
自分たちは、単なる野盗ではない。
その頭領の言葉の意味が理解できずに唖然としている長老とフィーナの前で、地に堕ちた騎士は片手をかかげ、さっ、っと振り下ろした。
野盗たちは、最初からそうするつもりで準備をしてきたのだろう。
馬に積んできた松明をその合図で一斉に手に取ると、折よく暖を取るために用意されていた焚火に近づけ、着火する。
松明は、たくさん用意されていた。
それこそ、村にある家のすべてに投げ込んで行っても足りるほどの数があった。
そして野盗たちは火をつけた松明を、村の家屋に投げつけ始める。
村の建物の多くは土壁を持っていたが、その基本構造は木製だった。
しかも、家々の外側には日々の煮炊きのために使う薪などが積み上げられているから、一度火がつけば簡単に燃え上がってしまう。
「おっ、おカシラっ、なんてことをするんだッ! やめてくんろっ! やめてくんろっ!! 」
次々と燃え上がっていく家々を目にした長老は力を振り絞って起き上がり、頭領に取りすがった。
「オラたちは、今までアンタたちの言うとおりにしてきたでねぇかっ!
種も差し出したし、オラのフィーナまでっ!
なして、こんなことをするんだかっ!? 」
「すまんな、村長よ。
しかし、最初からこれが、我々の目的だったのだ」
頭領は、愉悦に歪んだ笑みを浮かべながら、残酷な真実を教える。
「我らは、[野盗]ではなかったのさ。
辺境の村々を襲い、略奪し、焼き払い、お前たちの国を混乱させ、力を弱める。
それが、我が任務であったのだ」
「にっ、任務、だって……!? 」
突然明かされたその真実に、長老は言葉を失う。
だが、そうしている間にも火の手は広がり、炎はいよいよ盛んに燃え上がっていく。
「に、任務だかなんだか、オラたちには関係ねぇこったっ!
頼む、こんなことはやめてくんろっ!
村が、オラたちの村がっ……ッ!! 」
なんとか村を救おうと、長老は頭領にすがりつく。
力のない、戦う術を持たない彼には、そうする以外の手段がないからだ。
「フン。虫けらめ」
しかし、返って来たのは、そんな見下した言葉。
そして、頭領が振り下ろした長剣の、無慈悲な刃だけだった。
「――――――ッ!!! 」
燃え上がる村の中で、目の前で長老を斬られたフィーナの悲鳴が響き渡った。
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