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:第2章 「源九郎とフィーナの旅」
・2-9 第91話 「合流」
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・2-9 第91話 「合流」
やがて暗い森の木立の向こうに、明かりが見える。
木立の向こうで揺らめきながら輝く赤い光。
焚火だ。
かすかに虫の音と梟の鳴き声が響く中に、ぱち、ぱち、と生木が爆ぜる音が聞こえてくる。
鼻で息を吸うと、辺りには煙の臭いが漂っているのが分かった。
「おーい、フィーナ! 帰ったぜ」
源九郎はまだ少し距離があるところから、その焚火を燃やしているはずの旅の連れ、元村娘のフィーナの名を呼んだ。
というのは、この暗い森の中でサムライの帰りを一人きりで待っている彼女は周囲を警戒しているはずで、いきなりあらわれては驚かせてしまうに違いないからだ。
「あっ、おさむれーさま! 」
すると、弾むような明るい少女の声が辺りに響き、焚火の明かりの中に、すっくと人型のシルエットが立ち上がる。
小柄だ。
「おう、待たせちまってすまなかったな。無事に、あの村は救って来たぜ」
「おーっ、さっすが、おさむれーさまだべ! 」
彼女が無事で、自分のことを待っていてくれたことを喜びながら源九郎が報告すると、フィーナは嬉しそうにうなずき、ぐっ、と右手でガッツポーズをする。
最初は逆光になっているためにシルエットしか見えなかったが、近づくと、その姿がはっきりと見えて来る。
まだ幼さの残る少女で、年齢は13歳だと聞いている。
ミディアムショートの十分に手入れできていない黒髪に、小麦色を少し濃くしたような褐色の肌。そして素直そうな、源九郎のことを純真な尊敬と憧れのまなざしで見つめている、暗闇の中でもはっきりと分かるのではなかと思える金色の瞳を持つ。
貧しい村で生まれ育ったためかその体躯は華奢で女性らしさはまだかすかにしかない。身に着けているのはありふれた麻布でできたチュニックで、源九郎と同じく旅塵に汚れている。
「それで、おさむれーさま! 」
焚火の明かりでようやく互いにはっきりと視認できる距離になると、フィーナは嬉しそうに、ててて、と軽やかな足取りで源九郎に近づいて来る。
そして彼女は、なにかを期待している笑顔で、愛らしく腰を右に曲げながら小首をかしげてみせた。
「村の人たちからはなにか、お礼はもらえたんだべか? 王都への道は、教えてもらえたんだべか? 」
その問いかけに、源九郎は表情を引きつらせる。
━━━なにせ、なに一つ成果はないのだ。
村人たちと約束していた報酬は受け取れていないし、王都へ向かうための道も聞くことができなかった。
そのことを告げたらきっと、フィーナは怒るのに違いない。
これから先も旅を続けるために必要な物資がないだけでなく、これまでの一か月ほどと同様、この辺境地域を当てもなくさまよい続けなければならないからだ。
源九郎は日本、こちらの世界から見た異世界から転生して来たからまったく土地勘がないのだが、フィーナにはほんの少しだがそれがあった。
生まれてからずっと同じ村で育った彼女だったが、大人たちの会話からなんとなく周囲にどんな場所があるかを知っていたのだ。
しかし、その知識はせいぜい、彼女が生まれ育った村の隣村程度のことで、王都へ向かうにはせいぜい南の方へ向かえばいい、というくらいのことしか知らない。
王様にガツンと言ってやる。
そう言い出したのはフィーナで、源九郎もその旅の目的に同意し、「オラのフィーナを頼む」という村長、彼女の保護者であり育ての親であった長老からたくされたこともあって、共に旅を続けているのだが、このままでは目的地にたどり着くのはどれほど先になることかわかったものではなかった。
「んーぅ? どーしたんだべかー? おさむれーさまー? 」
背中に冷や汗を流しているサムライの前で、少女はにこにことし続けている。
が、おそらくはもう、源九郎がなんの成果も得られずに戻ってきたことに感づいているのに違いない。
なぜなら、これまでずっとそうだったからだ。
そしてそれでも彼女がにこにことしているのは、手ぶらで戻って来た源九郎に怒っているからだ。
━━━なら、フィーナ自身が村人たちに話を聞いてみたらいい。
そう思うかもしれないが、2人にはそうできない事情がある。
源九郎の[血]を、村人たちが貪欲に必要としていたように。
村人たちにとっては[よそ]からやって来た新しい[血]であるフィーナのこともまた、彼らは積極的に受け入れようとするに違いない。
というか、実際にそうなったことがある。
その時はもう、本当に大変だった。
源九郎一人だけならその剣の腕前もあって今回みたいに逃げおおせることができるのだが、フィーナは一人の少女に過ぎない。
彼女が村人たちに迫られたら振り払うことなどできないし、さらに質の悪いことに。━━━以前訪れた村の人々は、源九郎が依頼を受けて野盗を退治しに向かっている間に、無理矢理フィーナのことを村人の一員にしようとしてきたのだ。
その時は早々に野盗を退治して戻って来ることができたから辛うじて救出することができたが、あと少しでも遅れていたら、その場で村人たちの何人かを斬らなければならない事態に至っていたことだろう。
だから、村を実際に訪れるのは大人である源九郎だけで、その間、フィーナは二人で決めた安全そうな合流場所でその帰りを待つことにしているのだ。
こうした事情があるために、少女にとっては源九郎が物資や情報を持ち帰ってくれることが唯一の希望だった。
しかしその望みを叶えてやることができなかったのだ。
「すまねぇ、フィーナ! 実は、今回も……」
笑顔のままこちらにプレッシャーをかけてくる少女に、源九郎は勢いよく頭を下げながら謝罪していた。
また彼女を怒らせてしまうのに違いなかったが、正直に打ち明けないわけにはいかないと思ったからだ。
大人の中年男性と、まだ子供の少女。
保護者、被保護者という関係に見えるかもしれないが、フィーナは決して源九郎のお荷物などではなく、しっかりと役割を分担して貢献して来たし、二人の関係はあくまで対等な旅の仲間であった。
やがて暗い森の木立の向こうに、明かりが見える。
木立の向こうで揺らめきながら輝く赤い光。
焚火だ。
かすかに虫の音と梟の鳴き声が響く中に、ぱち、ぱち、と生木が爆ぜる音が聞こえてくる。
鼻で息を吸うと、辺りには煙の臭いが漂っているのが分かった。
「おーい、フィーナ! 帰ったぜ」
源九郎はまだ少し距離があるところから、その焚火を燃やしているはずの旅の連れ、元村娘のフィーナの名を呼んだ。
というのは、この暗い森の中でサムライの帰りを一人きりで待っている彼女は周囲を警戒しているはずで、いきなりあらわれては驚かせてしまうに違いないからだ。
「あっ、おさむれーさま! 」
すると、弾むような明るい少女の声が辺りに響き、焚火の明かりの中に、すっくと人型のシルエットが立ち上がる。
小柄だ。
「おう、待たせちまってすまなかったな。無事に、あの村は救って来たぜ」
「おーっ、さっすが、おさむれーさまだべ! 」
彼女が無事で、自分のことを待っていてくれたことを喜びながら源九郎が報告すると、フィーナは嬉しそうにうなずき、ぐっ、と右手でガッツポーズをする。
最初は逆光になっているためにシルエットしか見えなかったが、近づくと、その姿がはっきりと見えて来る。
まだ幼さの残る少女で、年齢は13歳だと聞いている。
ミディアムショートの十分に手入れできていない黒髪に、小麦色を少し濃くしたような褐色の肌。そして素直そうな、源九郎のことを純真な尊敬と憧れのまなざしで見つめている、暗闇の中でもはっきりと分かるのではなかと思える金色の瞳を持つ。
貧しい村で生まれ育ったためかその体躯は華奢で女性らしさはまだかすかにしかない。身に着けているのはありふれた麻布でできたチュニックで、源九郎と同じく旅塵に汚れている。
「それで、おさむれーさま! 」
焚火の明かりでようやく互いにはっきりと視認できる距離になると、フィーナは嬉しそうに、ててて、と軽やかな足取りで源九郎に近づいて来る。
そして彼女は、なにかを期待している笑顔で、愛らしく腰を右に曲げながら小首をかしげてみせた。
「村の人たちからはなにか、お礼はもらえたんだべか? 王都への道は、教えてもらえたんだべか? 」
その問いかけに、源九郎は表情を引きつらせる。
━━━なにせ、なに一つ成果はないのだ。
村人たちと約束していた報酬は受け取れていないし、王都へ向かうための道も聞くことができなかった。
そのことを告げたらきっと、フィーナは怒るのに違いない。
これから先も旅を続けるために必要な物資がないだけでなく、これまでの一か月ほどと同様、この辺境地域を当てもなくさまよい続けなければならないからだ。
源九郎は日本、こちらの世界から見た異世界から転生して来たからまったく土地勘がないのだが、フィーナにはほんの少しだがそれがあった。
生まれてからずっと同じ村で育った彼女だったが、大人たちの会話からなんとなく周囲にどんな場所があるかを知っていたのだ。
しかし、その知識はせいぜい、彼女が生まれ育った村の隣村程度のことで、王都へ向かうにはせいぜい南の方へ向かえばいい、というくらいのことしか知らない。
王様にガツンと言ってやる。
そう言い出したのはフィーナで、源九郎もその旅の目的に同意し、「オラのフィーナを頼む」という村長、彼女の保護者であり育ての親であった長老からたくされたこともあって、共に旅を続けているのだが、このままでは目的地にたどり着くのはどれほど先になることかわかったものではなかった。
「んーぅ? どーしたんだべかー? おさむれーさまー? 」
背中に冷や汗を流しているサムライの前で、少女はにこにことし続けている。
が、おそらくはもう、源九郎がなんの成果も得られずに戻ってきたことに感づいているのに違いない。
なぜなら、これまでずっとそうだったからだ。
そしてそれでも彼女がにこにことしているのは、手ぶらで戻って来た源九郎に怒っているからだ。
━━━なら、フィーナ自身が村人たちに話を聞いてみたらいい。
そう思うかもしれないが、2人にはそうできない事情がある。
源九郎の[血]を、村人たちが貪欲に必要としていたように。
村人たちにとっては[よそ]からやって来た新しい[血]であるフィーナのこともまた、彼らは積極的に受け入れようとするに違いない。
というか、実際にそうなったことがある。
その時はもう、本当に大変だった。
源九郎一人だけならその剣の腕前もあって今回みたいに逃げおおせることができるのだが、フィーナは一人の少女に過ぎない。
彼女が村人たちに迫られたら振り払うことなどできないし、さらに質の悪いことに。━━━以前訪れた村の人々は、源九郎が依頼を受けて野盗を退治しに向かっている間に、無理矢理フィーナのことを村人の一員にしようとしてきたのだ。
その時は早々に野盗を退治して戻って来ることができたから辛うじて救出することができたが、あと少しでも遅れていたら、その場で村人たちの何人かを斬らなければならない事態に至っていたことだろう。
だから、村を実際に訪れるのは大人である源九郎だけで、その間、フィーナは二人で決めた安全そうな合流場所でその帰りを待つことにしているのだ。
こうした事情があるために、少女にとっては源九郎が物資や情報を持ち帰ってくれることが唯一の希望だった。
しかしその望みを叶えてやることができなかったのだ。
「すまねぇ、フィーナ! 実は、今回も……」
笑顔のままこちらにプレッシャーをかけてくる少女に、源九郎は勢いよく頭を下げながら謝罪していた。
また彼女を怒らせてしまうのに違いなかったが、正直に打ち明けないわけにはいかないと思ったからだ。
大人の中年男性と、まだ子供の少女。
保護者、被保護者という関係に見えるかもしれないが、フィーナは決して源九郎のお荷物などではなく、しっかりと役割を分担して貢献して来たし、二人の関係はあくまで対等な旅の仲間であった。
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