96 / 226
:第2章 「源九郎とフィーナの旅」
・2-15 第97話 「旅の商人・マオ:1」
しおりを挟む
・2-15 第97話 「旅の商人・マオ:1」
「いやぁ~、どーも、どーも。助かりましたにゃ~」
行き倒れの猫人族を拾ってからしばらく後。
フィーナが作った魚の燻製を平らげたマオは、満足そうなほくほくとした笑顔でぺこり、と頭を下げた。
「とりあえず、元気になったみたいで良かったです」
その感謝の仕草に、源九郎も嬉しそうにうなずく。
最初は驚きかされたものの、結果として人助けができて良かったと思っているのだ。
しゃべるネコ、という存在に対する驚きは当然あった。
しかしここは彼がかつて暮らしていた地球ではなく異世界であると考えれば、こんな、メルヘンチックな生き物がいたとしてもすぐに受け入れることはできる。
むしろこの出会いに、源九郎は少し浮かれていた。いよいよ、異世界の冒険らしくなってきたなと思うのだ。
「む~。一匹くらい、おさむれーさまに食べさせてあげたかっただ」
対照的に、フィーナは不機嫌そうなジト目でマオのことをねめつけていた。
というのは、今後の保存食にと作った六匹の魚の燻製をすべて食べられてしまったからだ。やっとの思いで確保した食料だったのにこんなに早くなくなってしまって、残念がっている様子だった。
「大変美味しい魚の燻製でしたにゃ~。お嬢さん、料理がとってもお上手ですにゃ~」
マオは揉み手しながら、謝るのではなくそう言って料理の腕前をほめる。
もう食べてしまったことは変えられないのだから、とにかく機嫌を直してもらおうとしているのだろう。
ただ、魚が美味しかったというのは嘘ではなさそうだった。
行き倒れになるほどの空腹だった、というのももちろんあるのだろうが、マオの食べっぷりは見ていて小気味よいほどであり、六匹の魚があっという間に彼の胃袋に飲み込まれていく様は圧巻だった。
「フン! 食べ物の恨みは恐ろしいって、昔っから言うべ! 」
しかし、フィーナはツンとした態度を崩さない。
「にゃ、にゃ~、困りましたにゃ~」
その頑な態度に、マオは途方に暮れた顔で源九郎の方へ顔を向ける。
助けを求めているらしい。
「ま、まぁ、いいじゃねぇか、フィーナ。人助けになったんだからさ。それに、これからも旅は続くんだから、また機会はあるだろ? 」
「それは、そうだんべぇけど」
フィーナはまだ不満そうではあるものの、機会はこれからもあるさという言葉にはまんざらでもなさそうで、ふくれっ面のまま源九郎のことを横目で見つめる。
彼女としても、人助けできたことは嬉しいのだ。
しかしそのために使った魚の燻製は、やっとの思いで今後の旅を続けるために用意したものであり、なにより源九郎に食べさせたくて一生懸命に作ったものだった。
出来上がりには自信もあったので、一匹も食べてもらわないうちになくなってしまったことが残念でならず、彼女の心中は複雑だった。
「この埋め合わせは、後で必ずさせてもらいますにゃ~」
「その言葉、おら、しっかり覚えておくだよ! 」
悔しさの入り混じった視線でマオをねめつけるフィーナだったが、一応それでこの場は納得してくれるつもりでいるらしく、源九郎はほっとして肩をすくめてみせた。
「それで、えっと、マオさん? 猫人族なんだって? 」
「はいですにゃ。ミーは、旅の商人をしておりますにゃ」
「旅の商人? 行商人っていうことか? 」
「そんなところですにゃ。あっちで安く仕入れたものを、高く買ってくれそうな人がいるところまで運んで売る。そうやって生計を立てておりますにゃ」
「それが、どうして行き倒れに? 」
せっかくなので相手のことを知りたいと源九郎が話題を振ると、マオもそれに応じてくれる。
「それが……。ちょっと、商売で調子に乗り過ぎてしまったのですにゃ」
行き倒れになっていた理由を問われたマオは、辛そうに顔をうつむけた。
「ミーは、数日前に別の行商人と出会ったのですにゃ。そしてその行商人が、なかなか良い商談を持ちかけてきたのですにゃ。とある商品を、相場よりもずっと安く売ってくれるというお話だったんですにゃ! 」
「安く仕入れができるなら、良かったじゃねぇか。……あ、まがい物つかまされて無一文になっちまった、とかか? 」
「いえいえ、ミーもプロですから、まがい物かどうかは見抜けますにゃ。……ですが、無一文というのは本当ですにゃ。というのは、その商人の提示した条件があまりにも良くて。ミーはついつい、全財産をはたいてその商品を買い込んでしまったのですにゃ」
「……なるほど。それで、マオさん裸なんだべか」
勢いで全財産を投げうってしまったことを恥ずかしそうに身悶えしているマオに、まだ完全には機嫌が直ってはいないものの、話には興味があるらしいフィーナが三白眼を向ける。
(あ、服とか着るんだな、本当は)
マオはズボンらしきものをはいてはいたがそれ以外に衣服はなにも身に着けていなかったから、源九郎はてっきり、彼ら猫人族は動物の猫と同様に体毛を頼みに暮らしているのだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
彼らもまた、人間と同じように衣服を利用するようだった。
「そうなんですにゃ……。あんまりお買い得で、王都までもっていけばそれだけで莫大な利益になる勘定でしたにゃ! ここは一発当てる時! と、ついつい熱が入ってしまって、身ぐるみまで売って買い込んでしまったんですにゃ……」
まるで飲みの席での醜態を後から見せつけられているかのような、心底から恥ずかしそうな様子でマオは両手で頭を抱えて身をくねらせている。
「へー、それで、いったいなにを買ったんだい? 」
「そ、それは、ですにゃ……」
貴重な食べ物を分けてもらったお礼という意味もあってかこころよく質問に答えてくれていたマオだったが、源九郎にそう問われると言いよどんだ。
その手はおそらくは無意識に、彼が首に身に着けているポーチへと向いている。
どうやらそのポーチの中身が旅の商人から買った大変お買い得な商品であるらしかったが、どうにも、それがなんであるのかは言いにくい様子だった。
「いやぁ~、どーも、どーも。助かりましたにゃ~」
行き倒れの猫人族を拾ってからしばらく後。
フィーナが作った魚の燻製を平らげたマオは、満足そうなほくほくとした笑顔でぺこり、と頭を下げた。
「とりあえず、元気になったみたいで良かったです」
その感謝の仕草に、源九郎も嬉しそうにうなずく。
最初は驚きかされたものの、結果として人助けができて良かったと思っているのだ。
しゃべるネコ、という存在に対する驚きは当然あった。
しかしここは彼がかつて暮らしていた地球ではなく異世界であると考えれば、こんな、メルヘンチックな生き物がいたとしてもすぐに受け入れることはできる。
むしろこの出会いに、源九郎は少し浮かれていた。いよいよ、異世界の冒険らしくなってきたなと思うのだ。
「む~。一匹くらい、おさむれーさまに食べさせてあげたかっただ」
対照的に、フィーナは不機嫌そうなジト目でマオのことをねめつけていた。
というのは、今後の保存食にと作った六匹の魚の燻製をすべて食べられてしまったからだ。やっとの思いで確保した食料だったのにこんなに早くなくなってしまって、残念がっている様子だった。
「大変美味しい魚の燻製でしたにゃ~。お嬢さん、料理がとってもお上手ですにゃ~」
マオは揉み手しながら、謝るのではなくそう言って料理の腕前をほめる。
もう食べてしまったことは変えられないのだから、とにかく機嫌を直してもらおうとしているのだろう。
ただ、魚が美味しかったというのは嘘ではなさそうだった。
行き倒れになるほどの空腹だった、というのももちろんあるのだろうが、マオの食べっぷりは見ていて小気味よいほどであり、六匹の魚があっという間に彼の胃袋に飲み込まれていく様は圧巻だった。
「フン! 食べ物の恨みは恐ろしいって、昔っから言うべ! 」
しかし、フィーナはツンとした態度を崩さない。
「にゃ、にゃ~、困りましたにゃ~」
その頑な態度に、マオは途方に暮れた顔で源九郎の方へ顔を向ける。
助けを求めているらしい。
「ま、まぁ、いいじゃねぇか、フィーナ。人助けになったんだからさ。それに、これからも旅は続くんだから、また機会はあるだろ? 」
「それは、そうだんべぇけど」
フィーナはまだ不満そうではあるものの、機会はこれからもあるさという言葉にはまんざらでもなさそうで、ふくれっ面のまま源九郎のことを横目で見つめる。
彼女としても、人助けできたことは嬉しいのだ。
しかしそのために使った魚の燻製は、やっとの思いで今後の旅を続けるために用意したものであり、なにより源九郎に食べさせたくて一生懸命に作ったものだった。
出来上がりには自信もあったので、一匹も食べてもらわないうちになくなってしまったことが残念でならず、彼女の心中は複雑だった。
「この埋め合わせは、後で必ずさせてもらいますにゃ~」
「その言葉、おら、しっかり覚えておくだよ! 」
悔しさの入り混じった視線でマオをねめつけるフィーナだったが、一応それでこの場は納得してくれるつもりでいるらしく、源九郎はほっとして肩をすくめてみせた。
「それで、えっと、マオさん? 猫人族なんだって? 」
「はいですにゃ。ミーは、旅の商人をしておりますにゃ」
「旅の商人? 行商人っていうことか? 」
「そんなところですにゃ。あっちで安く仕入れたものを、高く買ってくれそうな人がいるところまで運んで売る。そうやって生計を立てておりますにゃ」
「それが、どうして行き倒れに? 」
せっかくなので相手のことを知りたいと源九郎が話題を振ると、マオもそれに応じてくれる。
「それが……。ちょっと、商売で調子に乗り過ぎてしまったのですにゃ」
行き倒れになっていた理由を問われたマオは、辛そうに顔をうつむけた。
「ミーは、数日前に別の行商人と出会ったのですにゃ。そしてその行商人が、なかなか良い商談を持ちかけてきたのですにゃ。とある商品を、相場よりもずっと安く売ってくれるというお話だったんですにゃ! 」
「安く仕入れができるなら、良かったじゃねぇか。……あ、まがい物つかまされて無一文になっちまった、とかか? 」
「いえいえ、ミーもプロですから、まがい物かどうかは見抜けますにゃ。……ですが、無一文というのは本当ですにゃ。というのは、その商人の提示した条件があまりにも良くて。ミーはついつい、全財産をはたいてその商品を買い込んでしまったのですにゃ」
「……なるほど。それで、マオさん裸なんだべか」
勢いで全財産を投げうってしまったことを恥ずかしそうに身悶えしているマオに、まだ完全には機嫌が直ってはいないものの、話には興味があるらしいフィーナが三白眼を向ける。
(あ、服とか着るんだな、本当は)
マオはズボンらしきものをはいてはいたがそれ以外に衣服はなにも身に着けていなかったから、源九郎はてっきり、彼ら猫人族は動物の猫と同様に体毛を頼みに暮らしているのだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
彼らもまた、人間と同じように衣服を利用するようだった。
「そうなんですにゃ……。あんまりお買い得で、王都までもっていけばそれだけで莫大な利益になる勘定でしたにゃ! ここは一発当てる時! と、ついつい熱が入ってしまって、身ぐるみまで売って買い込んでしまったんですにゃ……」
まるで飲みの席での醜態を後から見せつけられているかのような、心底から恥ずかしそうな様子でマオは両手で頭を抱えて身をくねらせている。
「へー、それで、いったいなにを買ったんだい? 」
「そ、それは、ですにゃ……」
貴重な食べ物を分けてもらったお礼という意味もあってかこころよく質問に答えてくれていたマオだったが、源九郎にそう問われると言いよどんだ。
その手はおそらくは無意識に、彼が首に身に着けているポーチへと向いている。
どうやらそのポーチの中身が旅の商人から買った大変お買い得な商品であるらしかったが、どうにも、それがなんであるのかは言いにくい様子だった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界でカイゼン
soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)
この物語は、よくある「異世界転生」ものです。
ただ
・転生時にチート能力はもらえません
・魔物退治用アイテムももらえません
・そもそも魔物退治はしません
・農業もしません
・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます
そこで主人公はなにをするのか。
改善手法を使った問題解決です。
主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。
そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。
「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」
ということになります。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる