殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

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:第7章 「捜査」

・7-2 第161話:「工房」

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・7-2 第161話:「工房」

 その後の話し合いで、朝食を食べ終わるまでに一行の役割分担も決め終わった。
 源九郎は刀の修繕。ラウルは谷の奥の探索を試み、小夜風はそのサポート。珠穂は万一の際の脱出経路を探りに向かい、フィーナとセシリアはまた二人一組で行動して、陽動のためのボヤ騒ぎを起こせそうな場所をさらに見つけに行く。
 そうして朝焼けが消え、空が青一色に染まるころには、一行が宿泊している安宿の一室は無人となった。

(なるべく、腕のいい鍛冶師を探さねぇとな)

 源九郎はそう思いつつ、ケストバレーの職人街を歩いていく。
 この世界におけるドワーフ族というのは、地球で広まっていたステレオタイプと違わず、鉱業と鍛冶を得意とする種族だ。
 小柄だがガッチリとした筋肉質の体躯は狭い坑道を掘り進めていくのに最適であったし、その力強さ、そして長年鉱石と向き合いながら世代を重ねてきたことで培われた豊富な知識が、多くのドワーフたちを名工へと成長させていく。
 どこでも、彼らが作った武具は高値で取引をされている。それだけ質が良いと認知されているのだ。
 このケストバレーは、メイファ王国時代になってからは金山として成長した街だったが、鉱脈を掘り進めるための労働力や技術が必要とされ、多くのドワーフたちが移住してきたために、自然と工房都市としての性格も持つようになっていった。
 彼ら赤銅色の肌を持った豊かな髭を蓄えた種族は、鉱石を掘るのも好きだが、それを加工することも好きなのだ。
 だから職人街にはいくつもドワーフの工房があり、そこでは多くの武具や道具類が生産され続けている。
 残念ながら、源九郎はどこに頼めば自分の刀を最良の状態に直してもらえるのか、見極める眼力を持ち合わせてはいない。
 転生して来る前、日本で役者をしていたころに実際に刀を製造している刀工の鍛冶場を訪問し、その仕事を学ばせてもらったことはあるが、その道を修めるためには一生を費やす覚悟で臨まねばならず、サムライが身につけることができたのはほんの[さわり]の部分でしかない。
 ———何もわからない時、もっとも指標とし易いのは流行っているかいないか、つまりは世間の評判だった。
 いい仕事をしてくれる、高い技術を持った工房は自然とその評判が広まり、人々からより多くの依頼を受けるようになって忙しくなる。
 反対に、腕の悪い職人しかいない工房はそれが悪評となり、段々と依頼が減って暇になっていく。
 職人街を一回りしてみて、その中で評判の良さそうな場所を探してみたのだが、残念なことに見つけることができなかった。
 なぜならどこもみんな、とても忙しそうにしていたからだ。
 ドワーフ族が営んでいる工房だから、どこもみな同じくらい腕がいいのかと思えば、そういうわけでもないらしい。
 特需、というのが起こっている。
 聞けば、近年メイファ王国とその西の隣国であるアセスター王国の間では緊張が高まっており、国境付近では小競り合いなども起こっているということだった。
 国境から遠い王都・パテラスノープルや、辺境地域の小さな寒村でしかないフィーナの故郷などではそういう対立の気配というのはあまり感じ取ることができなかったが、多くの職人が集まっているここケストバレーでは強い縁がある。
 もし戦争ともなれば、より多くの武具が必要とされるし、その修理のための需要も天井知らずとなる。
 二つの王国の間で大きな軍事衝突が起こりかねないという状況はドワーフの工房に多くの仕事をもたらし、結果、すべてが[人気店]になってしまっているのだ。
 止むを得ず源九郎は、規模で選ぶことにした。
 大きな店というのはこれまでにそれだけの店構えと設備を整えられる程に儲かっていた場所ということであり、所属している職人の数も多く、一流の腕を持つ者もその中にいるのに違いないだろうと思ったからだ。

「いらっしゃいませ! 当店へようこそ! 」

 意を決し谷で一番大きな工房に入り「すみません! 」と声をかけると、出てきたのは猫人(ナオナー)だった。

「あれ? ここは、ドワーフの人がやっているんじゃねぇのか? 」

 意外だったので思わずそう本音を漏らしてしまうと、出てきた白毛に黒いブチを持つ受付は、心得た様子でうなずいていた。

「もちろん、当店での鍛冶仕事はすべて、ドワーフの方々が行っておりますよ! ただ、皆さまお仕事に専念されたいということで、私(わたくし)のような者がお客様の応対をしたり、経理をしたりするために雇われているのでございます」
(そういや、ドワーフの人たちって商売は嫌うみたいなことを言っていたよな)

 旅の途中で聞いた話を思い出した源九郎は納得し、さっそく、自身の刀を修繕できないかをたずねる。

「ふぅむ、この辺りではあまり見かけない、異国のものですねぇ……。少々お待ちくださいませ、当店の職人に、扱えるかどうか確認して参ります」

 受付はしげしげと刀身を眺めた後、そう言うと丁寧に布に包んで奥へと持っていく。
 サムライは、体感で三十分ほども待たされたが、どうやら待った甲斐はあったようだった。

「大変お待たせいたしました。当店トップの職人に見てもらいましたところ、修復は可能である、とのことです。以前、修行の旅をしていた時に一度だけ扱ったことがあると」
「本当かい? そりゃ、よかった」

 源九郎は修理が可能だということと、過去に日本刀をあつかったことのあるらしい職人がいる、ということですっかり安心した気持ちになっていた。
 しかも、修理は一日あればなんとかなるという。鋼鉄を加工するためには一千度を超える高温が必要となり、その準備のために時間がかかってしまうのだが、工房は常に稼働状態にあるためすぐに作業に取りかかれるということだった。
 火を入れ、打ち直すことで刀に生じていたゆがみを修正して元の通りにして、その後に焼き入れをし直し、研ぎを入れてくれるという。
 提示された金額は、かなり高額で、刀の修理のためにと渡してもらっていた貨幣のほとんどを使い切ってしまうほどだったが、サムライはこの工房に自身の相棒を任せることにした。
 ———出来栄えは、なかなか良いように思えた。
 刀のこしらえは不慣れさがありありと浮かび上がる出来栄えだったが、これは後で源九郎が直せる。肝心の刀身はゆがみがすっかりなくなり、振り心地も最初に握った時と遜色ないまでに回復している。
 切れ味は良かった。最初よりもむしろ良く斬れるようになったと感じたほどで、ボロボロになった麻布を巻いただけの束を的にして試し切りをしてみたところ、苦も無くバッサリと斬り落とすことができた。
 ただ、柄の部分、拵(こしらえ)は少し違和感のある仕上がりになっていた。おそらくこの部分についての鍛冶師の経験が少なく、できるだけ元の物を再現しようとしたが完璧にとはいかなかったのだろう。
 もっとも、その点は許容しなければならないことだろう。日本とは文化が大きく異なる場所で、少なくとも実用に問題ないと思える程度に修繕できただけで満足するべきだった。

(さっすが、ドワーフ族ってか? ……修理に出せて、良かったぜ)

 源九郎はすっかり気分を良くして、満足顔で工房を立ち去った。
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