殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

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:第8章 「窮地」

・8-10 第185話:「殺陣:1」

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・8-10 第185話:「殺陣:1」

 シュリュード男爵が突如として歯向かって来た理由。
 それは、ただ単に「お約束のパターンだから」ということではなかった。
 メイファ王国の王女、セシリア姫。
 彼女に悪事を知られてしまった以上、もはやどうすることもできない。
 一度はそう観念したものの、しかし、男爵はあることに会話の中で気がついた。
 すなわち、贋金作りの決定的な証拠はラウルという獣人が握っているが、彼は目下のところ行方不明。
 セシリアは今、男爵の悪事を証明できる証拠を何一つ保有しておらず、また、王都にも届いてはいない。
 ———今ならまだ、事件を隠蔽できるかもしれない。
 男爵はそう考えたのだ。
 事件をなかったことにはできないだろう。だがここでセシリアとその一行を亡き者としてしまえれば、少なくとも脱出のための時間を稼ぐことが出来る。
 すでに王国を裏切り、他の勢力に鞍替えすることを決めていた男爵としては、そういう計算に基づいて王族を弑逆することなど、なんてことはない。
 つまりは、お姫様は[しゃべり過ぎて]しまったのだ。
 もっとも、そのことについて深く考えている時間はなかった。

(三人! )

 前に出て刀を正眼にかまえた源九郎は素早く前後左右を確認し、最初に襲いかかって来る相手が誰なのかを見極めた。
 正面、右斜め前、そして背後。
 得物は槍、片手剣(ファルシオン)、長剣(ロングソード)。
 三人がそれぞれの武器をかまえ、前に進み出て来る気配を見せる瞬間、サムライは先手を取って動いていた。

「せいやァッ! 」

 周囲を威圧し、その動きを鈍らせるために鋭い声を発しながら、まずは前に突進して、槍を振り上げてこちらに叩きつけようとしていた兵士を狙う。
 素早く刀を下げ、踏み込みながら両手で振り上げる。さしたる抵抗感もなく槍の柄の中ほどを斬り飛ばした。
 そして、返す刀で二人目の兵士へ狙いを変える。槍の柄を斬り落とした勢いで上にあがっている刀を一瞬で翻(ひるがえ)し、重力の力も借りて相手が振り上げていた剣の横腹を叩く。
 両手で振り下ろされる力を叩きつけられて、兵士の手から剣が弾き飛ばされる。使いやすい片手剣だったが、片手の握力だけでは渾身の力で振り下ろされるサムライの刀の勢いを受け止めきることが出来なかったのだ。
 前側の二人の行動を阻止した源九郎は振り返り、背後の敵に意識を向ける。
 こちらは、まずは珠穂が対処してくれていた。鉄扇で振り下ろされる長剣(ロングソード)を打ち払い、巧みに攻撃を振り払っている。

(やっぱりうまいな! 珠穂さん)

 加勢するべくすり足で駆けよりながら、サムライは巫女の技量に感心していた。
 片手で持った武器で、両手で持った武器をいなすのは難しい技だ。現に、つい先ほど刀を受けた兵士はたまらずに剣を弾き飛ばされてしまっている。
 だが、工夫をすれば、攻撃を防ぐことは可能だ。
 コツはてこの原理を活用してなるべく相手の剣の根元を狙うこと、そして、両手で振り下ろす力を全力で発揮させないよう、所作の途中を遮るように積極的な防御に出ることだ。
 いくら剣の根元を狙ったところで、思いきり振り下ろされる両手剣を打ち払うのは難しい。まして珠穂は小柄な体格の女性で、相手は平均的な体格の男性だ。
 しかし、その膂力(りょりょく)の差を発揮される前にこちらから前に出て、相手の行動を牽制するように対処すれば、やりようはある。
 このまま任せても大丈夫そうではあったが、今は何としてでも、最初に攻撃に入った三人を蹴散らさなければならなかった。
 さすがに周囲を取り囲んだ数十人もの兵士に同時に襲いかかられたら、まともな戦力が二人と一匹しかいない状況では防ぎようがない。
 だから初手で圧倒的な実力差を見せつけ、相手の戦意を削ぐ必要があったのだ。

「セイヤァッ!!! 」

 珠穂によって好きなように剣を振るわせてもらえずたじたじとなっている兵士の横合いから、気合の声と共に源九郎が刀を振り下ろす。
 上段に大きくかまえたところから振り下ろした刀は兵士が振り上げていた長剣(ロングソード)の半(なか)ほどの腹の部分を捉え、そしてそれを、———斬り飛ばしていた。
 金属がぶつかり合う激しい音。火花が舞い散り、斬り飛ばされた長剣(ロングソード)の先端部分がくるくると宙を舞って、プスっ、と滑稽にも思えるあっけない音と共に地面に突き刺さった。
 その瞬間、周囲にいたすべての人々が静止する。
 目の前で起こったことが信じられず、驚き、呆気に取られている。

「マジか……」

 源九郎も目を見張り、数回まばたきをしていた。
 自分でもまさか、同じ鋼鉄でできた剣を斬ってしまえるとは思ってもみなかったのだ。
 だが、あり得ない話ではない。
 そもそも大業物と呼ばれる最高品質の日本刀であれば兜割と言って、鉄製の兜を叩き斬ることは可能であったし、実際、サムライも実践したことがある。
 それに、構造的に剣というのは横腹を叩かれると弱いものだった。使われている鋼鉄の性質や鍛え方によっては簡単に折れ曲がるし、そういった点を考え合わせればこうして斬り落とされてしまうことだって起こり得るだろう。
 日本刀だって、そうだ。数々の逸話の中には、刀鍛冶の職人が、弟子の刀造りの間違いを指摘するために弟子が作った日本刀を何本か並べ、自身が鍛えた名刀で一刀両断した、などというものもあるほどだ。
 ———予期していなかったことではあったが、これを生かさない手はなかった。
 源九郎自身が驚いているのだから、この場にいる誰もが、こんな切れ味のいい刀は目にしたことがないはずだ。

「さっすが、ドワーフの鍛冶職人! いい仕事してるぜ」

 ピッ、と小気味よい風切り音を立てながら刀を振るい、周囲の兵士たちに見せつけるように横に寝かせて水平にかまえながら、サムライは前後左右を鋭い視線で睨みつけ、役者時代につちかった演技力を発揮して獰猛な笑みを浮かべて見せる。

「さて。……次にぶった斬られたいのは、どいつだい? 」
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