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:第8章 「窮地」
・8-14 第189話:「意外な結末」
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・8-14 第189話:「意外な結末」
剣の腕前に見ほれさせて、衆目を一身に浴びる。
令和の日本。この異世界に転生する前に生きていた世界で、役者として生きていた頃のことを思い出す。
あの時は、———楽しかった。
自分が必死になって鍛えた殺陣で人々を魅了し、喝さいを浴びる。映画は令和の時代に作られた時代劇としては珍しく大きなヒットを飛ばし、収入も少なくはなかった。
すべてが順調に行っていた。
もちろん、それもある。しかしなによりも源九郎が嬉しかったのは、自分の[好き]を、他の人々にも認めてもらうことが出来たからだった。
己の剣の腕前だけで、道を切り開く。
そんなサムライの生き方、自分がなりたいと欲し、一心不乱に追いかけた姿を、他の人たちにも「カッコイイ」と言ってもらえる。
そのことが一番、嬉しかったのだ。
だが、今の状況は撮影などではなかった。
本物の、斬り合い。
相手は贋金作りという悪事を実際に行っている悪人であり、悪[役]ではない。こちらを本気でひっ捕らえ、そして、葬り去ろうと目論んでいる。
ドラマの筋書で敵に捕まる、などというものもあったが、それとはわけが違う。
負けて、捕らえられれば、本当に命がないのだ。
(フィーナたち、うまく逃げたかな)
いつ逃げ出すか。
その頃合いを図るために、源九郎は刀を正眼にかまえて追手たちを牽制しながら、ちらりと背後へ視線を向ける。
幸い、そこには道ができあがっていた。騒動を目にした民衆はすっかり野次馬と化していたが、捕り物の渦中にある者たちが駆け込んできたことで、争いに巻き込まれてはたまらないと自然に場所をあけたのだ。
踵(きびす)を返して駆け抜けるのを邪魔しようとする者はいないだろう。野次馬たちはすっかり源九郎の剣技に魅せられて街のボヤ騒ぎのことを半ば忘れていたし、どんな容疑で捕らわれそうになっているのかを知らないから、先ほどから醜態ばかり見せているシュリュード男爵よりも仲間のために単身で残ったこちらを応援する気持ちになっている。
このまま、無事に逃がしてやりたい。
そんな気持ちになっているのは、民衆だけではなさそうだった。
男爵に命令されている兵士たちも、源九郎の腕前と刀の切れ味を警戒しているというのもあるのだろうが、積極的に襲いかかっては来ない。城壁の上で弓や弩をかまえている兵士たちも、なかなか次の矢を放とうとはしていなかった。
本気で捕えようとしているのは、シュリュードだけだ。
彼は顔を真っ赤にして兵士たちを叱咤(しった)しているが、決して自分では矢面に立とうとはせず、安全な後方に隠れている。そんな情けない姿勢もあってか、すっかり幻滅されてしまっていた。
(今なら……! )
周囲が自分に味方している、あるいはそうしたいと思っている。
そう肌で感じ取った源九郎は、この隙に逃げ出せば、うまくいくだろうと考え、踵(きびす)を返そうとした。
背後から何人もの人間が慌ただしく走る足音、そして鎧がこすれて鳴る音が聞こえてきたのは、まさに振り返ろうとした瞬間だった。
「おおっ! お前たち! そこにいる見慣れぬ風体の男は、鉱山に潜入し、街に火を放った一味の仲間だ! ひっ捕らえて縄をかけろっ! 」
いら立って額に青筋を浮かべていたシュリュードの顔がほころび、彼は喜びながら新たに現れた者たち、男爵に雇われている私兵集団に向かってそう命じていた。
城門付近で騒ぎになっているのに気づき、駆けつけた傭兵たちなのだろう。
十人ほどが命令を聞いて剣を抜き、不揃いな隊列のまま源九郎に襲いかかった。
彼らはまだ、サムライの本当の剣の腕前も、その刀の切れ味も知らなかった。
だから何も深く考えることもなく、雇い主の命令に従って斬りかかって来たのだ。
「ふんぬっ! 」
腹に力を入れ、気合を込め直して背後を振り向き、向かって来る敵を迎え撃つ。
———先ほどの殺陣を見ていた人々は、誰もが、このサムライならばこの攻撃をさばききることが出来るだろうと思っていた。
あっという間に三人を、しかも怪我を負わせることもなく蹴散らし、長く訓練を積んだ武芸者でもなければ難しい飛来する矢を叩き落とすという芸当を見せ、仲間を逃がすために一人で踏みとどまった源九郎。
その腕前で、今回も見事にピンチを切り抜ける。
みながそう信じ、そして、そうなることを期待していた。
実際、サムライ自身もそうできるだろうと思っていた。
相手は容赦なく襲いかかって来るだろうが、ひとつの方向から来ているし、走って来たせいで隊列が乱れているから隙がある。
前から順番にいなしていって、こちらから前に出ながら最後尾まで突き抜け、後はわき目もふらずに逃走に転じれば、難なくこの窮地を切り抜けて脱出できるだろうと、そう思った。
事実として、七人目まではまったく問題なく斬り抜けることが出来た。
突っ込んで来た勢いを乗せて振るわれる剣を自身の刀で打ち払い、その軌道を見極めては巧みに回避し、時には反撃に傭兵たちに足かけをして転ばせたりしながら、前へ、前へと進んでいく。
もう少しで、突破できる。
そんな感触を得て、ニヤリ、と口元に不敵な笑みを浮かべ、八人目の敵が振るう剣の横腹を刀で叩いた瞬間だった。
パキンッ! と、澄んだ、甲高い音が響く。
両手で握っていた刀から、ふっ、と重さが抜ける。
まるで、そこにあった刀身が突然、なくなってしまったかのような感触。
———それは、気のせいではなかった。
「ん……っ、なっ!!? 」
源九郎は驚愕し、口を半開きにしながら双眸を見開く。
自身が振るっていた、刀。
その中ほどか先が、失われていた。
折れたのだ。
そして折れた先は、地面に転がっている。
あまりのことにすべての思考が停止し、身体が固まって、動かない。
「今だっ! あ奴に、縄をかけよっ!! 」
勝ち誇ったシュリュード男爵の声。
刀を失ってしまったサムライは、呆然自失としている間にあえなく、捕らわれの身とされてしまっていた。
剣の腕前に見ほれさせて、衆目を一身に浴びる。
令和の日本。この異世界に転生する前に生きていた世界で、役者として生きていた頃のことを思い出す。
あの時は、———楽しかった。
自分が必死になって鍛えた殺陣で人々を魅了し、喝さいを浴びる。映画は令和の時代に作られた時代劇としては珍しく大きなヒットを飛ばし、収入も少なくはなかった。
すべてが順調に行っていた。
もちろん、それもある。しかしなによりも源九郎が嬉しかったのは、自分の[好き]を、他の人々にも認めてもらうことが出来たからだった。
己の剣の腕前だけで、道を切り開く。
そんなサムライの生き方、自分がなりたいと欲し、一心不乱に追いかけた姿を、他の人たちにも「カッコイイ」と言ってもらえる。
そのことが一番、嬉しかったのだ。
だが、今の状況は撮影などではなかった。
本物の、斬り合い。
相手は贋金作りという悪事を実際に行っている悪人であり、悪[役]ではない。こちらを本気でひっ捕らえ、そして、葬り去ろうと目論んでいる。
ドラマの筋書で敵に捕まる、などというものもあったが、それとはわけが違う。
負けて、捕らえられれば、本当に命がないのだ。
(フィーナたち、うまく逃げたかな)
いつ逃げ出すか。
その頃合いを図るために、源九郎は刀を正眼にかまえて追手たちを牽制しながら、ちらりと背後へ視線を向ける。
幸い、そこには道ができあがっていた。騒動を目にした民衆はすっかり野次馬と化していたが、捕り物の渦中にある者たちが駆け込んできたことで、争いに巻き込まれてはたまらないと自然に場所をあけたのだ。
踵(きびす)を返して駆け抜けるのを邪魔しようとする者はいないだろう。野次馬たちはすっかり源九郎の剣技に魅せられて街のボヤ騒ぎのことを半ば忘れていたし、どんな容疑で捕らわれそうになっているのかを知らないから、先ほどから醜態ばかり見せているシュリュード男爵よりも仲間のために単身で残ったこちらを応援する気持ちになっている。
このまま、無事に逃がしてやりたい。
そんな気持ちになっているのは、民衆だけではなさそうだった。
男爵に命令されている兵士たちも、源九郎の腕前と刀の切れ味を警戒しているというのもあるのだろうが、積極的に襲いかかっては来ない。城壁の上で弓や弩をかまえている兵士たちも、なかなか次の矢を放とうとはしていなかった。
本気で捕えようとしているのは、シュリュードだけだ。
彼は顔を真っ赤にして兵士たちを叱咤(しった)しているが、決して自分では矢面に立とうとはせず、安全な後方に隠れている。そんな情けない姿勢もあってか、すっかり幻滅されてしまっていた。
(今なら……! )
周囲が自分に味方している、あるいはそうしたいと思っている。
そう肌で感じ取った源九郎は、この隙に逃げ出せば、うまくいくだろうと考え、踵(きびす)を返そうとした。
背後から何人もの人間が慌ただしく走る足音、そして鎧がこすれて鳴る音が聞こえてきたのは、まさに振り返ろうとした瞬間だった。
「おおっ! お前たち! そこにいる見慣れぬ風体の男は、鉱山に潜入し、街に火を放った一味の仲間だ! ひっ捕らえて縄をかけろっ! 」
いら立って額に青筋を浮かべていたシュリュードの顔がほころび、彼は喜びながら新たに現れた者たち、男爵に雇われている私兵集団に向かってそう命じていた。
城門付近で騒ぎになっているのに気づき、駆けつけた傭兵たちなのだろう。
十人ほどが命令を聞いて剣を抜き、不揃いな隊列のまま源九郎に襲いかかった。
彼らはまだ、サムライの本当の剣の腕前も、その刀の切れ味も知らなかった。
だから何も深く考えることもなく、雇い主の命令に従って斬りかかって来たのだ。
「ふんぬっ! 」
腹に力を入れ、気合を込め直して背後を振り向き、向かって来る敵を迎え撃つ。
———先ほどの殺陣を見ていた人々は、誰もが、このサムライならばこの攻撃をさばききることが出来るだろうと思っていた。
あっという間に三人を、しかも怪我を負わせることもなく蹴散らし、長く訓練を積んだ武芸者でもなければ難しい飛来する矢を叩き落とすという芸当を見せ、仲間を逃がすために一人で踏みとどまった源九郎。
その腕前で、今回も見事にピンチを切り抜ける。
みながそう信じ、そして、そうなることを期待していた。
実際、サムライ自身もそうできるだろうと思っていた。
相手は容赦なく襲いかかって来るだろうが、ひとつの方向から来ているし、走って来たせいで隊列が乱れているから隙がある。
前から順番にいなしていって、こちらから前に出ながら最後尾まで突き抜け、後はわき目もふらずに逃走に転じれば、難なくこの窮地を切り抜けて脱出できるだろうと、そう思った。
事実として、七人目まではまったく問題なく斬り抜けることが出来た。
突っ込んで来た勢いを乗せて振るわれる剣を自身の刀で打ち払い、その軌道を見極めては巧みに回避し、時には反撃に傭兵たちに足かけをして転ばせたりしながら、前へ、前へと進んでいく。
もう少しで、突破できる。
そんな感触を得て、ニヤリ、と口元に不敵な笑みを浮かべ、八人目の敵が振るう剣の横腹を刀で叩いた瞬間だった。
パキンッ! と、澄んだ、甲高い音が響く。
両手で握っていた刀から、ふっ、と重さが抜ける。
まるで、そこにあった刀身が突然、なくなってしまったかのような感触。
———それは、気のせいではなかった。
「ん……っ、なっ!!? 」
源九郎は驚愕し、口を半開きにしながら双眸を見開く。
自身が振るっていた、刀。
その中ほどか先が、失われていた。
折れたのだ。
そして折れた先は、地面に転がっている。
あまりのことにすべての思考が停止し、身体が固まって、動かない。
「今だっ! あ奴に、縄をかけよっ!! 」
勝ち誇ったシュリュード男爵の声。
刀を失ってしまったサムライは、呆然自失としている間にあえなく、捕らわれの身とされてしまっていた。
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