捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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騎士団入団

第2話

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アルフォンソside

少し痛い目を見ればわがままなお姫さまは泣きわめいて帰っていくだろう。そうすればいつも通りの日常が戻ってくる。団員を修練場に呼び戻して、訓練を再開、そして全員でなんて世間知らずなお姫さまだったかと笑い合えばいい。そう思っていた。すぐに終わる話だと。それなのに……。

(それなのに、これは一体どういうことだ!)

「アルフォンソ様?足の運びが雑過ぎますわ。それではすぐに体勢を崩されてしまいます。足払いを受けたらすぐに転んでしまいます。重心移動をもう少し勉強されたほうがいいかと。」

(なぜこんな小娘に背中に乗られているんだ!)

 髪を切り落としたアリアネス嬢は、手に持っていたナイフを使って自分のドレスも引き裂いた。それを見て下品なヤジを飛ばすものもいたが、本人は気にしていないようで、ナイフを後ろに控えていた女に投げて、自分は引き裂いたドレスの裾を動きやすいように結んでいる。足元はロングブーツを履いているようだったが、余計に裂けてしまった切れ目が太もものあたりまで伸びていて、ちらちらとなまめかしい肌が見えかくれする。淑女であればこのような振る舞いは許されないし、やった本人も羞恥のあまり卒倒してしまうはずだが、アリアネス嬢はやはり平然としている。

(男遊びが趣味の女はこうまで面の皮が厚くなるか……。)

 こんな女に自分が大事に育て上げてきた第10支団をめちゃくちゃにされる訳にはいかない。先ほど、手加減はしないと伝えたが、本気で叩きのめしてしまえばアリアネス嬢は無事では済まない。あとで文句を言われそうな顔は外して、どこかに小さな傷をつければいいだろう。

「それでは始めましょうか。」
「えぇ、私も準備ができました。いつでもどうぞ。」
「いえいえ、そちらからどうぞ。やはりハンデというものが必要ですからね。」

 にっこり笑ってやると、アリアネス嬢がきょとんとした後、にんまりと笑う。

「あら、うれしい。では、始めますわ!」
「いつでもどうっぐぅ!!」

 弱々しいパンチでも繰り出してくるかと思い、適当に構えた瞬間、アリアネス嬢の姿が掻き消えて、両足に激痛が走った。そして自分がいつの間にか、地面にうつ伏せに倒れていることに気づいたのだった。

「おーっほっほっほ!支団長ともあろうお方が地面に顔をつけるとは!まさか、それは私に対する謝罪と考えてよろしいかしら?いいでしょう、私は寛大ですからそのみっともない謝罪を受け入れて差し上げますわ!」

 ぐりぐりとブーツで背中を踏まれ、頭の血管が何本かぶち切れてしまった。

「こんのクソガキ!俺を誰だと思ってやがる!その乳臭い脚をさっさとどけろ!!」
「あら、意外に口が悪いのですねぇ。そちらが本性とお見受けいたしましたわ。でも歓楽街出身で、そこのとりまとめをしているとあれば、そにくらいの気性でないとやっていけないということでしょう。」

アリアネス嬢が相変わらず、俺の背中に足を乗せたまま思案している。

「まずはその足をどけろって言ってんだよ!それにお前、何者だ!その体術、うちの国のもんじゃねーだろ!」
「あら、よくご存じで。さすが腐っても支団長。この体術は遠い東の国に伝わるものですわ。」
 
「お前、さてはアリアネス嬢じゃないな!わがまま姫の影武者でも寄越したか!」
「正真正銘、アリアネス・バレンターレでございます。」
「貴族の娘が体術なんかできるわけねーだろ!」
「わたくしはラシード様の妻になる女です。強く、正しく、美しくあらねばなりませんの。」

片足だけを乗せていたアリアネス嬢がとうとう、俺の背中に両足で立つ。情けなくも「ぐえっ!」とカエルが潰れたような声を出してしまった。

「さぁ、アルフォンソ様。どう見てもわたくしの勝ちです。あなたの第10支団の団員にしていただきますわ!」

二人のやり取りを茫然と立ち尽くして見ていた団員たちがざわめく。

(くそっ!こんな女にめちゃくちゃにされるのか!)

あまりの悔しさにぎりっと口を噛んだ時。


「何をやってるんだ、お前らは? …なるほどな。残念だがこの戦いは無効だ。」

修練場に響いたのは低い艶のある声。

「ラシード様……!」

 アリアネス嬢がひとり言のように小さな声で呟く。

修練場の入り口の壁に気だるげにもたれ掛かりながらこちらを退屈そうに眺めていたのは、オルドネア帝国騎士団の騎士団長ラシード様だった。


アリアネスside

ラシードの突然の登場に驚いたアリアネスは、慌ててアルフォンソの上から降りる。

「この戦いは無効だ。さっさと解散しろ。」

ラシードはニヤニヤしながらしっしと虫を払うような仕草をする。それがアリアネスの怒りの導火線に火をつけた。

「無効だなんて、そんなことはありませんわ! 私はアルフォンソ様と約束したのです! 私たちが交わした約束は果たされるべきです!」

アリアネスが抗議するも、ラシードはアリアネスの方を向こうともしない。そしてゆっくりと歩きだし、いまだ地面に突っ伏しているアルフォンソの前でしゃがみこんだ。

「よぉ、アルフォンソ。忘れたのか? 団員以外との模擬戦はご法度だってことをよぉ。」

 アルフォンソがハッとした表情をして、その後、バツが悪そうに目を伏せる。

「頭に血がのぼって失念しておりました。……申し訳ありません。」
「そんなんだからいつまでたっても第10支団のまんまなんだよ。……お前への処分は追って言い渡す。そして、この模擬戦自体は無効だ。よし、それじゃあこれで解散!」
 仕事は終わったとでも言うように、ラシードが修練場を去ろうとする。アリアネスは合われてラシードに駆け寄った。

「そんなのは横暴です!アルフォンソ様は私の申し出を受け入れました!それに、私はそんな規則は知らな……!」
「知らないってか? これだからわがまま姫さんは困るんだよ。……知らなかったじゃ済まされねーんだよ、騎士団は。人の、この国の住民の命を預かってんだ。どんな危機的な状況でも上官の命令、そして規則に従い行動する。それが騎士だ。規則も守れない奴なんか、騎士団にはいらない。」
「っ!」
 氷のように冷たい目で睨み付けられ、アリアネスは怯んで一歩後ろに下がる。一方、ラシードは地面に倒れこんでいたアルフォンソの手をとって、立たせた。

「部外者の姫さんはさっさとおうちに帰ってもらおうか。」

ラシードに何も返す言葉がないアリアネスは下を見て涙がこぼれるのを耐えた。

(こんなところで泣いては清く、正しく、美しい女性とは言えませんわ!!!)

「セレーナ、帰りますわよ!!」

アリアネスがラシードとアルフォンソの横を通り過ぎ、出口へと向かった。

「かしこまりました、お嬢様。」

ズンズンと前に進むアリアネスの後を追うセレーナ。すでに修練場を出たアリアネスが見えなくなったところで、セレーナだけが立ち止まり、ラシードとアルフォンソの方を振り返る。

「愚かな奴らめ! 後で後悔しても遅い。」

顔を歪めて吐き捨てた後、セレーナはアリアネスを追いかけた。
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