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騎士団の洗礼
第5話
しおりを挟む「いつからお前が入団の是非判断するようになったキウラ!立場をわきまえろ!」
「っ!」
アルフォンソから激しい叱責を受けて、キウラが悔しそうな顔をしたままうつむき、そのまま黙りこんだ。その姿を一瞥したあと、アルフォンソが前に進み出てくる。
「アリアネス嬢。うちの団員が申し訳ないことをした。支団長として謝る。大変申し訳ない。」
アルフォンソがアリアネスの前に立つと、無表情のままで深々と頭を下げた。その様子を見て、団員たちが息を飲む。顔を真っ青にしているものもおり、キウラもその筆頭だった。
「支団長!どうしてこんな女に!」
この世の終わりかのように悲壮な表情で声を上げるキウラを見てないので、セレーナが呆れ顔で鼻を鳴らした。
「貴様、本当に馬鹿なのか?支団長のこんな無様な姿をさせているのはお前が原因だ。貴様が敬愛する上司に頭を下げさせていることが本当に分からないのか、豚娘?」
「貴様ぁっ!」
アリアネスの命令通り、目をつぶっていたセレーナが目を開けて笑う。
「どうやら第10支団とは、何の罪もない女性に対してどんな侮蔑を吐いてもよい集団のようだ。これは上司も苦労する。いや、それとも上司の教育がなっていないということか。なるほど、さきほど我が主を犬と形容したが、この団も野良犬集団と呼ばれるだけのことはある。」
「その汚い口を閉じろ!!」
キウラが先ほど使っていたものとは異なるもう一本の剣を抜くが、アルフォンソが止める。
「…申し訳ない。」
「謝ればすむと思っているのか!あそこまで我が主をこけにして、言葉だけの謝罪で済むと!!!」
「セレーナ、それ以上はお止めなさい。あら、これおいしい!おば様、これおいしいわ!!」
一触即発の雰囲気をアリアネスののんきな言葉が吹き飛ばした。料理がたっぷり乗ったトレーを机の上に置き、早速食事を始めたアリアネスがセレーナに向かってにっこりと笑う。
「わたくしもあなたもこの団員の一人なのです。仲間の少し調子にのった言葉を流すぐらいの広い心を持ちなさい。」
「お嬢様も殴ろうとしていたではありませんか…。それと口にものを入れたまましゃべるのはおやめください。」
食堂の婦人からもらった肉串を頬張るたアリアネスにセレーナがため息をついて注意する。
「あんた、見た目は悪そうだけどいいお嬢さんだね。これも食べな!」
「あら、おば様大好きよ!」
「おば様だなんて恥ずかしいよ!ここではミナおばさんで通ってんだ。」
「ミナおばさん、わたくしはアリアネスよ!よろしくお願いしますわ!」
「わたしはセレーナです。お見知りおきを。」
「ああ、よろしく!」
肉串をモリモリと食べるアリアネスにミナが笑顔で答える。
「…アリアネス嬢。」
ミナとおしゃべりに興じるアリアネスにアルフォンソが声をかける。
「あら、何かしら?」
「お嬢様、口をお拭きください。」
肉汁で口のまわりをべたべたにしたアリアネスにアルフォンソがぎょっとする。
「アリアネス嬢は、社交界にいる時とは別人のようだが、もしや双子の妹などではあるまいか?」
「あら、わたくしは正真正銘アリアネス・バレンターレよ。社交界にいる時の私は淑女。清く正しく美しくあるのは当たり前のことです。でもここは騎士団。淑女としての振る舞いは必要ありませんわ。」
「それはそうですが…。これが本当のあなただと?」
「どちらも本当のわたくしですわ。ふぅー、ごちそう様です。」
肉串を4つ平らげたアリアネスが満足そうに息を吐く。
「お腹も一杯になったことですし、部屋に帰ります。明日は午前5時起床でしたわよね。楽しみで眠れそうにありませんわ!それでは失礼いたします。」
スキップでもしそうなほど上機嫌で食堂を後にしようとするアリアネスに「おいっ!」とアルフォンソが声をかけると「あっ!」とアリアネスが立ち止まって振り返った。
「支団長。一つ忠告ですわ。のし上がるためには社交も重要。すぐにでも部下の言葉の教育を始められたほうがよろしいかと。気に入らない者に好き勝手に吠える野良犬がいてはいつまでも馬鹿にされるだけですわよ。」
おほほほほほと悪役のような高らかな笑い声を上げて、アリアネスはセレーナとその場を後にしたのだった。
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