19 / 92
仕事
第1話
しおりを挟む
No side
「ラーララー♪」
コツコツとヒールの音を響かせて金髪の女性が城の廊下を歩く。鼻歌を歌い、今にも踊りだしそうなほど上機嫌だ。美しい彼女は先日、ラシードに婚約者指名を受けたファニアだった。
波打つ金髪を緩く結い上げ、花びらと真珠で飾り付けている。ドレスは妖精のようにかわいらしいファニアに似合う純白で、たっぷりとフリルが使われている。そしてその腕の中には一匹の子猫を抱えていた。
にゃーと可愛らしく鳴く子猫に「もう少しだからねー。」と優しく声をかけたファニアは、重厚な扉の前で立ち止まった。
「ラシード様?いらっしゃいますかー?ラシード様?」
控えめにドアをノックするファニアに気づいたのか、内側から扉が開けられる。
「ファニア様。ようこそおいでくださいました。しかし、残念ながらラシード騎士団長は公務で外に出られております。」
「あら、そうなの。ほんとに残念だわ。かわいらしい猫ちゃんを拾ったからぜひラシード様にも見ていただきたいと思ったのに。」
「そうですか。ラシード様もファニア様がおいでくださって喜ばれると思います。もう少しで帰ってこられると思いますので、部屋で待っていただいてもかまいませんが。」
「うれしい!では少し待たせていただくわね。」
にっこりと笑うファニアのかわいらしさに騎士団長室付の青年騎士はぽーっと顔を赤く染める。応接用のソファにふわりとすわり、よしよしと子猫をなでるファニアと何か話したいと考えた騎士は、最近、城で話題になっていることについて取り上げることにした。
「ファニア様を婚約者に選ばれるなんてさすがラシード騎士団長ですね。わがままで性格の悪いアリアネス嬢と結婚などすれば、他国の騎士団に笑われるどころか、『女の色香に負けた愚かな騎士』なんて呼ばれてしまうところでした。」
猫に夢中だったファニアの肩がピクリと震える。
「アリアネス嬢は騎士団でも評判が悪いんです。今では、自分に楽をさせてくれる貴族の騎士を探すために騎士団入団を懇願されていると聞きます。伯爵令嬢ともあろうお方なのに、はしたないとは思いませんか?」
「…騎士団に、入ろうとされているの?」
小さな声でひとりごとのように尋ねるファニアに騎士が「はい!」と元気に答える。
「しかしどの騎士団からも断られているようです。あたり前ですよね、騎士団長のラシード様から嫌われている方なのですから、まともな騎士団なら門前払いが当たり前です。まぁ、野良犬集団なら別ですが。」
「野良犬集団?」
ファニアが首をかしげる。
「えぇ、騎士団の中でも身分の低い平民が入団することのできる騎士団がありまして。本来、騎士は貴族でなければ入団できないのですが、国民の希望が強くて新しくつくった部隊なんです。」
「そうなの、そんな騎士団があるなんてわたくし聞いたことがなかったわ。」
「ファニア様がご存じないのも当たり前です。この騎士団は騎士になりたい平民の欲望を満たすためのお飾り部隊なんです。だから大きな任務は任されず、仕事といえば歓楽街の見回りぐらいです。だから入団している平民たちも自分たちが上にのぼれないと分かってきてるんですよ。品性なく野蛮で野良犬集団と呼ばれているんですよ。」
青年がくすくすと笑いながら説明するのをファニアは黙って聞いている。
「そんな野良犬集団なら、アリアネス嬢のことも入団させてもらえるかもしれませんね。」
「ありがとう。ラシード様はまだ帰ってこられないみたいだから、わたくしまた出直しますわ。失礼いたします。」
突然立ち上がったファニアに青年騎士は慌てる。
「え!あっ、あの!」
「ごきげんよう。」
優雅な礼をするファニアにつられ、騎士も「ごきげんよう」と返事をした。
片手で子猫を抱え、後ろ手で扉を閉めたファニアは子猫に向かって「ふふふ」と笑顔を向ける。
「とってもいいこと聞いてしまったわ。」
ファニアはにこにこと笑い、また鼻歌を歌いながら元来た道を戻った。
アリアネスside
水汲み場にあった桶を使って、アリアネスは頭から水をかぶる。いつもなら「はしたない」と注意するセレーナも一緒に頭から水をかぶっていた。
「「…ふぅ。」」
そして二人同時に息を吐く。
「頭が冷えたわ。これ以上あの方々の言葉を聞いていたら、1週間は立ち上がれないように指導をして差し上げるところでした。」
「私も同感です、お嬢様。まさかここまで柄が悪い集団だとは思っていませんでした。このまま放置すれば、騎士団としての昇格は夢のまた夢です。」
「そうね…。」
ふるりと首を振って頭の水滴を落とすアリアネスが考え込む。
この国、オルドネア帝国には騎士団の戦力と品性を高めるための昇格制度がある。武勲などを立て、その功績が認められた騎士団はより上の騎士団へと上がることができる。もっとも位が高いのは第1支団で、アリアネスが所属する第10支団は最底辺だ。しかも、5年前の第10支団設立以来、一度も10番目から昇格したことがない。
「第1支団にならなければ、騎士団長に挑むことはできませんからね。」
セレーナもふうと溜息をつく。
第1支団まで昇格した騎士団の団員のうち、その団の支団長が選んだ3人が騎士団長に挑むことができる。そして、勝利すれば騎士団長の座を譲りうけることができるのだ。そして、騎士団長に就任すれば、国王がたった一つだけだが、どんな願いでもかなえてくれる。
「本当なら話し合いで穏便にことを進めたいところだけど、そんな悠長なことを言っている暇なないみたいね。」
アリアネスの瞳がきらりと輝く。
「セレーナ。次の剣技訓練で見せつけるわよ。」
「かしこまりました、お嬢様。」
セレーナはうやうやしくアリアネスに頭を下げた。
「それでは剣技訓練を始める!」
アルフォンソが事前に決めていた剣技訓練の組み合わせを発表する。アリアネスの相手は偶然にも、先ほど声をかけてきた騎士だった。
「おやおや、お嬢さんがお相手か。ならそのきれいな肌を傷つけないように手加減してやらないとな。伯爵家に何言われるかわからない!」
ほかの騎士とけらけらと笑う騎士に、アリアネスはにっこり笑いかけると、自分が持っている木刀を投げた。
「なんだ?重すぎるから持ってくださいってか?」
「あなた、わたくしの木刀が軽いとおっしゃっていたから、あなたのものと変えてさしあげるわ。」
「は?」
「その変わり、わたくしがあなたが使っている重い木刀を使ってあげるわ。」
「何言ってるんだ、お前?頭おかしいのか?」
「はやく木刀をよこしてちょうだい。それとも無駄話をしてキウラ様にたたかれるのが趣味なのかしら?」
「ちっ!」
訓練が始まったにも関わらず、話続けるアリアネスに依然として厳しい目を向けているキウラの方を見て、騎士が舌うちする。
「お嬢ちゃんへのお仕置きのとばっちりまで受けたくないからな。ほらよ、せいぜい俺の木刀持ってへっぴり腰で頑張るんだな。」
騎士はわざとアリアネスの少し前に木刀を投げ、拾わせる。そして、アリアネスがよこした木刀を拾い上げた。
(…俺の木刀と同じやつだ。)
騎士が拾い上げた木刀は自分のものと全く同じ重さのものだったが、それなら1時間も素振りをできた理由がわからなくなる。
(どうせ、水を飲みにいった時にすり替えたんだろ。)
「手加減してやるよ、お嬢ちゃん。」
「光栄だわ。」
「アル、そろそろ朝の訓練の時間が終了だ。」
「わかった。訓練やめ!」
ルイに言われたアルフォンソが訓練終了の号令を行うと、「疲れたー」「飯だ!」などの声があちこちから聞こえ、ひとりひとり修練場から人がいなくなる。
「俺たちも朝飯にするか。」
「そうだな。」
ルイとアルフォンソも食堂に向かおうとすると、修練場の奥に何かが倒れている。
「ん?なんだ?」
気になったアルフォンソが近づいていくと「っ!おい、大丈夫か!」と慌てて駆け寄った。
倒れていたのは騎士団の団員2人だった。どちらも汗だくになってうつ伏せで地面に倒れこんでいる。
「何があった!?」
ルイと協力し、仰向けにしてやると、二人はぜーぜーと息を吐く。
「あいつら、ほんと、化け物だ!」
「なんなんだよ!なんで、あいつら、止まらぇんだ!?」
「何の話をしてるんだ、お前ら。」
ルイがいぶかしげな顔をして、二人を見ている一方、アルフォンソは食堂に向かう団員の集団を見つめる。最後尾を歩くアリアネスとセレーナがくるりとアルフォンソの方を見た後、にやりと怪しげな笑みを浮かべていたのだ。
「おいしい!とてもおいしいわ!」
「お嬢様、ゆっくり食べてください。」
訓練の後でお腹が減っているアリアネスは食堂でモリモリと朝ごはんを食べていた。テーブルマナーを気にしなくて良い食事は本当に楽しく、次から次に口にものを運んでしまう。
「あっ、あの!お隣よろしいでしょうか?」
そんな二人は遠巻きに見られ、他の団員から距離をとられていたのだが、声をかけてくる団員がいた。
「あら、ロヴェル。おはよう。」
「おはようございます、アリアネス様。」
「…。」
「セレーナさん、おはようございます!」
「…。」
「セレーナ。」
アリアネスが注意するが、セレーナはちらりとロヴェルに目を向けただけだった。
「いいわよ、ロヴェル。一緒に朝ごはんを食べましょう。」
「ありがとうございます!」
セレーナに無視され、肩を落としていたロヴェルが嬉しそうに笑う。
「そういえば、これからはどんなことをするのかしら?何も聞かされていないのだけど、ロヴェルは知っている?」
「えぇ、第10支団は朝に訓練をした後、夕方まで町の見回り。そして夜は歓楽街の警備になります。」
「歓楽街の警備?」
「はい、歓楽街では絶対に毎日何かしらの事件が起きますので、それに対応するためのものです。」
「それ以外の任務はないの?」
「ありません。第10支団に任されている仕事はこれだけです。」
ロヴェルが恥ずかしそうにはにかむ。
「まだまだ仕事は少ないですが、これから第10支団はどんどんのし上がるんです!一緒にがんばりましょうね、アリアネス様、セレーナさん。」
「あら、あなたなかなかやる気があるわね。」
食事を終えたアリアネスがお茶をすすりながら感心する。
「…口だけならなんとでも言えます。行きましょう、お嬢様。そろそろ町の見回りが始まります。」
すぐにでもロヴェルと離れたいセレーナがアリアネスを連れ出した。
「なんでお前がここにいる…!」
ふっーと猫のようにセレーナがロヴェルを威嚇する。
「それが町の見回りの小隊分けで一緒になっちゃったみたいですね。」
ロヴェルがぽりぽりと頭をかく。
「なんでここにいるかだと!それは私のセリフだ!」
セレーナと一緒に怒りをあらわにしているのはキウラだった。町の見回りで同じ小隊になったのはアリアネスとセレーナ、キウラとロヴェルだったのだ。
「ラーララー♪」
コツコツとヒールの音を響かせて金髪の女性が城の廊下を歩く。鼻歌を歌い、今にも踊りだしそうなほど上機嫌だ。美しい彼女は先日、ラシードに婚約者指名を受けたファニアだった。
波打つ金髪を緩く結い上げ、花びらと真珠で飾り付けている。ドレスは妖精のようにかわいらしいファニアに似合う純白で、たっぷりとフリルが使われている。そしてその腕の中には一匹の子猫を抱えていた。
にゃーと可愛らしく鳴く子猫に「もう少しだからねー。」と優しく声をかけたファニアは、重厚な扉の前で立ち止まった。
「ラシード様?いらっしゃいますかー?ラシード様?」
控えめにドアをノックするファニアに気づいたのか、内側から扉が開けられる。
「ファニア様。ようこそおいでくださいました。しかし、残念ながらラシード騎士団長は公務で外に出られております。」
「あら、そうなの。ほんとに残念だわ。かわいらしい猫ちゃんを拾ったからぜひラシード様にも見ていただきたいと思ったのに。」
「そうですか。ラシード様もファニア様がおいでくださって喜ばれると思います。もう少しで帰ってこられると思いますので、部屋で待っていただいてもかまいませんが。」
「うれしい!では少し待たせていただくわね。」
にっこりと笑うファニアのかわいらしさに騎士団長室付の青年騎士はぽーっと顔を赤く染める。応接用のソファにふわりとすわり、よしよしと子猫をなでるファニアと何か話したいと考えた騎士は、最近、城で話題になっていることについて取り上げることにした。
「ファニア様を婚約者に選ばれるなんてさすがラシード騎士団長ですね。わがままで性格の悪いアリアネス嬢と結婚などすれば、他国の騎士団に笑われるどころか、『女の色香に負けた愚かな騎士』なんて呼ばれてしまうところでした。」
猫に夢中だったファニアの肩がピクリと震える。
「アリアネス嬢は騎士団でも評判が悪いんです。今では、自分に楽をさせてくれる貴族の騎士を探すために騎士団入団を懇願されていると聞きます。伯爵令嬢ともあろうお方なのに、はしたないとは思いませんか?」
「…騎士団に、入ろうとされているの?」
小さな声でひとりごとのように尋ねるファニアに騎士が「はい!」と元気に答える。
「しかしどの騎士団からも断られているようです。あたり前ですよね、騎士団長のラシード様から嫌われている方なのですから、まともな騎士団なら門前払いが当たり前です。まぁ、野良犬集団なら別ですが。」
「野良犬集団?」
ファニアが首をかしげる。
「えぇ、騎士団の中でも身分の低い平民が入団することのできる騎士団がありまして。本来、騎士は貴族でなければ入団できないのですが、国民の希望が強くて新しくつくった部隊なんです。」
「そうなの、そんな騎士団があるなんてわたくし聞いたことがなかったわ。」
「ファニア様がご存じないのも当たり前です。この騎士団は騎士になりたい平民の欲望を満たすためのお飾り部隊なんです。だから大きな任務は任されず、仕事といえば歓楽街の見回りぐらいです。だから入団している平民たちも自分たちが上にのぼれないと分かってきてるんですよ。品性なく野蛮で野良犬集団と呼ばれているんですよ。」
青年がくすくすと笑いながら説明するのをファニアは黙って聞いている。
「そんな野良犬集団なら、アリアネス嬢のことも入団させてもらえるかもしれませんね。」
「ありがとう。ラシード様はまだ帰ってこられないみたいだから、わたくしまた出直しますわ。失礼いたします。」
突然立ち上がったファニアに青年騎士は慌てる。
「え!あっ、あの!」
「ごきげんよう。」
優雅な礼をするファニアにつられ、騎士も「ごきげんよう」と返事をした。
片手で子猫を抱え、後ろ手で扉を閉めたファニアは子猫に向かって「ふふふ」と笑顔を向ける。
「とってもいいこと聞いてしまったわ。」
ファニアはにこにこと笑い、また鼻歌を歌いながら元来た道を戻った。
アリアネスside
水汲み場にあった桶を使って、アリアネスは頭から水をかぶる。いつもなら「はしたない」と注意するセレーナも一緒に頭から水をかぶっていた。
「「…ふぅ。」」
そして二人同時に息を吐く。
「頭が冷えたわ。これ以上あの方々の言葉を聞いていたら、1週間は立ち上がれないように指導をして差し上げるところでした。」
「私も同感です、お嬢様。まさかここまで柄が悪い集団だとは思っていませんでした。このまま放置すれば、騎士団としての昇格は夢のまた夢です。」
「そうね…。」
ふるりと首を振って頭の水滴を落とすアリアネスが考え込む。
この国、オルドネア帝国には騎士団の戦力と品性を高めるための昇格制度がある。武勲などを立て、その功績が認められた騎士団はより上の騎士団へと上がることができる。もっとも位が高いのは第1支団で、アリアネスが所属する第10支団は最底辺だ。しかも、5年前の第10支団設立以来、一度も10番目から昇格したことがない。
「第1支団にならなければ、騎士団長に挑むことはできませんからね。」
セレーナもふうと溜息をつく。
第1支団まで昇格した騎士団の団員のうち、その団の支団長が選んだ3人が騎士団長に挑むことができる。そして、勝利すれば騎士団長の座を譲りうけることができるのだ。そして、騎士団長に就任すれば、国王がたった一つだけだが、どんな願いでもかなえてくれる。
「本当なら話し合いで穏便にことを進めたいところだけど、そんな悠長なことを言っている暇なないみたいね。」
アリアネスの瞳がきらりと輝く。
「セレーナ。次の剣技訓練で見せつけるわよ。」
「かしこまりました、お嬢様。」
セレーナはうやうやしくアリアネスに頭を下げた。
「それでは剣技訓練を始める!」
アルフォンソが事前に決めていた剣技訓練の組み合わせを発表する。アリアネスの相手は偶然にも、先ほど声をかけてきた騎士だった。
「おやおや、お嬢さんがお相手か。ならそのきれいな肌を傷つけないように手加減してやらないとな。伯爵家に何言われるかわからない!」
ほかの騎士とけらけらと笑う騎士に、アリアネスはにっこり笑いかけると、自分が持っている木刀を投げた。
「なんだ?重すぎるから持ってくださいってか?」
「あなた、わたくしの木刀が軽いとおっしゃっていたから、あなたのものと変えてさしあげるわ。」
「は?」
「その変わり、わたくしがあなたが使っている重い木刀を使ってあげるわ。」
「何言ってるんだ、お前?頭おかしいのか?」
「はやく木刀をよこしてちょうだい。それとも無駄話をしてキウラ様にたたかれるのが趣味なのかしら?」
「ちっ!」
訓練が始まったにも関わらず、話続けるアリアネスに依然として厳しい目を向けているキウラの方を見て、騎士が舌うちする。
「お嬢ちゃんへのお仕置きのとばっちりまで受けたくないからな。ほらよ、せいぜい俺の木刀持ってへっぴり腰で頑張るんだな。」
騎士はわざとアリアネスの少し前に木刀を投げ、拾わせる。そして、アリアネスがよこした木刀を拾い上げた。
(…俺の木刀と同じやつだ。)
騎士が拾い上げた木刀は自分のものと全く同じ重さのものだったが、それなら1時間も素振りをできた理由がわからなくなる。
(どうせ、水を飲みにいった時にすり替えたんだろ。)
「手加減してやるよ、お嬢ちゃん。」
「光栄だわ。」
「アル、そろそろ朝の訓練の時間が終了だ。」
「わかった。訓練やめ!」
ルイに言われたアルフォンソが訓練終了の号令を行うと、「疲れたー」「飯だ!」などの声があちこちから聞こえ、ひとりひとり修練場から人がいなくなる。
「俺たちも朝飯にするか。」
「そうだな。」
ルイとアルフォンソも食堂に向かおうとすると、修練場の奥に何かが倒れている。
「ん?なんだ?」
気になったアルフォンソが近づいていくと「っ!おい、大丈夫か!」と慌てて駆け寄った。
倒れていたのは騎士団の団員2人だった。どちらも汗だくになってうつ伏せで地面に倒れこんでいる。
「何があった!?」
ルイと協力し、仰向けにしてやると、二人はぜーぜーと息を吐く。
「あいつら、ほんと、化け物だ!」
「なんなんだよ!なんで、あいつら、止まらぇんだ!?」
「何の話をしてるんだ、お前ら。」
ルイがいぶかしげな顔をして、二人を見ている一方、アルフォンソは食堂に向かう団員の集団を見つめる。最後尾を歩くアリアネスとセレーナがくるりとアルフォンソの方を見た後、にやりと怪しげな笑みを浮かべていたのだ。
「おいしい!とてもおいしいわ!」
「お嬢様、ゆっくり食べてください。」
訓練の後でお腹が減っているアリアネスは食堂でモリモリと朝ごはんを食べていた。テーブルマナーを気にしなくて良い食事は本当に楽しく、次から次に口にものを運んでしまう。
「あっ、あの!お隣よろしいでしょうか?」
そんな二人は遠巻きに見られ、他の団員から距離をとられていたのだが、声をかけてくる団員がいた。
「あら、ロヴェル。おはよう。」
「おはようございます、アリアネス様。」
「…。」
「セレーナさん、おはようございます!」
「…。」
「セレーナ。」
アリアネスが注意するが、セレーナはちらりとロヴェルに目を向けただけだった。
「いいわよ、ロヴェル。一緒に朝ごはんを食べましょう。」
「ありがとうございます!」
セレーナに無視され、肩を落としていたロヴェルが嬉しそうに笑う。
「そういえば、これからはどんなことをするのかしら?何も聞かされていないのだけど、ロヴェルは知っている?」
「えぇ、第10支団は朝に訓練をした後、夕方まで町の見回り。そして夜は歓楽街の警備になります。」
「歓楽街の警備?」
「はい、歓楽街では絶対に毎日何かしらの事件が起きますので、それに対応するためのものです。」
「それ以外の任務はないの?」
「ありません。第10支団に任されている仕事はこれだけです。」
ロヴェルが恥ずかしそうにはにかむ。
「まだまだ仕事は少ないですが、これから第10支団はどんどんのし上がるんです!一緒にがんばりましょうね、アリアネス様、セレーナさん。」
「あら、あなたなかなかやる気があるわね。」
食事を終えたアリアネスがお茶をすすりながら感心する。
「…口だけならなんとでも言えます。行きましょう、お嬢様。そろそろ町の見回りが始まります。」
すぐにでもロヴェルと離れたいセレーナがアリアネスを連れ出した。
「なんでお前がここにいる…!」
ふっーと猫のようにセレーナがロヴェルを威嚇する。
「それが町の見回りの小隊分けで一緒になっちゃったみたいですね。」
ロヴェルがぽりぽりと頭をかく。
「なんでここにいるかだと!それは私のセリフだ!」
セレーナと一緒に怒りをあらわにしているのはキウラだった。町の見回りで同じ小隊になったのはアリアネスとセレーナ、キウラとロヴェルだったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない
春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」
それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。
「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」
父親から強い口調で詰られたエルリカ。
普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。
けれどエルリカは違った。
「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」
そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。
以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。
ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。
おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる