捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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仕事

第6話

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 空が茜色に染まる頃、約束通りトレスは騎士団にやってきた。しかもなんだかとてもワクワクしているようで、今まで見たことがないほどに目を輝かせている。

 「それじゃあ行くわよ!」

「あなた、本当に来たのね…。」

 アリアネスが若干呆れ顔で言うと、トレスが「当たり前でしょ!」と噛みついてくる。

「妖精に関わることならどこにでも行くわ!妖精狂いを舐めないでちょうだい!」 

 トレスがえっへんと胸を張ると、アリアネスがええそうねと言って笑った。

 キウラには知り合いの力を借りて情報収集をする旨は伝えてある。「金でも使って情報屋でも雇ったのか?お貴族様のしそうなことだ!」と言って馬鹿にされたが、時間もないので曖昧に笑って濁しておいた。

「それじゃあそろそろ行きましょう。今日こそは妖精の情報を掴むのよ!」

 アリアネスが歩き出そうとした時。



「へぇー、妖精か。随分と面白そうなことしてんじゃねーか。」  


「「へ?」」

アリアネスとトレスが声のした方を振り返る。騎士団の壁に寄りかかってにやにやと笑っているのはラシードだった。

「らっ、ラシード様!!!」

 顔を真っ赤にしたアリアネスがずざーっと後ろにのけぞる。

「なんでこんなところにいらっしゃるのですか、ラシード様。」

セレーナが冷静な顔をしながらも内心焦りながら尋ねた。

「あぁ?別に俺がどこにいようと俺の勝手だろうが。っていっても、まぁ、ファニアの頼みで来たんだけどな。」

「ファニア様の?」

 ラシードの口から出たファニアという言葉にアリアネスは思わず俯いてしまう。

「この前、ファニアがアリアネスに世話になったって言っててな。随分と困った任務を任されているみたいだから手伝ってやってほしいって。ほんとに優しいやつだ。」

「…それで手伝ってくださるというのですか?」

 アリアネスが尋ねると「ファニアの頼みなら断れねーからな。」と笑う。

「…いやよ!こんな野蛮な最低男を連れて行くなんて!」

 何も言えなくなってしまったアリアネスに変わって大声で怒鳴ったのは、先ほどまで黙っていたトレスだった。

「さっさと帰ってちょうだい、この馬鹿男!女の子の集団の中に入ろうだなんて下心しかないの分かってんだからね、この変態!」

「んだと、このロリ女。」

「誰がロリ女よ!私は正真正銘20歳よ!」

「だからロリ女って言ってんだよ。その見た目で20歳って犯罪だろ!」

「黙りなさい、この筋肉馬鹿!」

「誰が筋肉馬鹿だ!!」

 トレスとぎゃーぎゃーと言い合うラシードをアリアネスは曖昧な笑みを浮かべて見守る。そんなアリアネスをセレーナが悲痛な表情で見守っていた。



「…あなた少し離れて歩けないの?いやむしろ帰って。」 

「うるせえガキだな。その二つ付いた耳引っこ抜くぞ。」

「耳じゃないわ!髪よ!」


「…あのうるさい集団はどうにかならないんでしょうか。」

 言い合いをしながら歩くラシードとトレスを見てセレーナが溜息を吐く。

「私ではどうしようもありません。」

 リフォールグが呆れ顔で肩をすくめた。。そして、アリアネスはさらにその後ろを歩いている。

「ファニア様のためにっておっしゃってたわ…。」

 ファニアの頼みなら何でも聞くのか。

 自分をの時は会いたいといってもなかなか会ってくれなかった。ほかの女性と仲睦まじくしているとも聞いた。でも今はファニア様一筋でほかの女性とも会っていないらしい。

「どうして…。」

 自分の何が悪かったのか。ラシードに好かれるにはどうすればよかったのか。
思考がぐるぐるとまわり、気持ち悪くなってきた。

「アリアネス!ついたわ、ここよ!」

 そんなアリアネスにトレスが声をかける。そこには地下に続く階段があった。階段の横に「妖精の隠れ家」と書かれた看板がある。どうやら酒場のようだった。

 しかし、その看板を見たラシードが突然不機嫌になる。

「…ここはロリ女が入っていいような店じゃないぜ。甘い酒が飲みたいのならほかの店をあたるんだな。」
 
 ラシードの言葉にトレスは顔を赤くして反論する。

「うるさいわね!怖いならあんた一人で帰りなさい!アリアネス、おそらくマゴテリアの間者の情報はここで手に入るはずよ。」 

「どうしてわかるの?」

 アリアネスが聞くと「この店は妖精の末裔と言われる人が店主なのよ。真偽のほどは分からないけれど妖精に関する情報であれば、どんなものでも手に入るの。ただ、入るのに少し条件が必要なのよ。」

 だから私がきたのとトレスがいい、行くわよとセレーナたちを引き連れて階段を下りて行った。アリアネスも行こうと一歩足を踏み出すが、ぐいっと手を引かれ暗がりに連れ込まれてしまった。


「なっ、何をするのラシード様!」

 気付けばラシードの大きな体に抱きしめられていた。

「…黙ってろ。」 

「ん!」

 ラシードはアリアネスの首元に顔をうずめ、すーっとアリアネスの香りをかぐ。

「はぁ…落ち着く。」

「なっ何を!」

 アリアネスが真っ赤になってじたばたと暴れるが、ラシードは全く意に介さない。

「髪…なんで切った?」

「ひゃ!」

 ラシードが耳元で囁く。

「なんで切っちまうかな…。まぁ短いのも似合ってるがな。でも長い髪を結んだ時に見えるうなじが色っぽかったんだぜ?」

「なっ!なっ!」

 ラシードの自分に対する今までにない甘い態度に、アリアネスはまともに言葉を発することもできない。

(しっ、しっかりしなさい、アリアネス!これは私を油断させる罠よ!)

「…罠とかじゃねーから。まぁ、泣かせたのは悪いと思ってんだぜこれでも。」

 ラシードがアリアネスから体を離し、混乱して俯いてしまったアリアネスの顔をくいっと上に向かせる。

「…ほんとに。面倒なこと全部放り投げて、お前を抱えて逃げたいんだぞ、俺は。」

「え?」

 ラシードの真意がわからず、アリアネスが首をかしげる。

「でも、お前が泣くだろうからな。ほんとに、俺って一途だよな。」

 アリアネスの頬の、ラシードは自分の頬を寄せてすりすりと擦り付ける。

「…頼むから危ないことして俺を心配させるなよ、子猫ちゃん。それと、あんまり俺のこと嫌いになるなよ。」

 最後にアリアネスの頬に軽いキスをすると、ラシードはぽんとアリアネスの頭をなでて歓楽街の町に消えて行った。

(どっどっどういうことなの!?)

 その場にへたり込んでしまったアリアネスはトレスが「何してるの!」と迎えに来てくれるまで真っ赤な顔でその場にへたり込んでしまっていたのだった。
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