捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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仕事

第9話

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「ちょっと、筋肉馬鹿!いい加減にしなさいよ。話が前に進まないじゃない。」

 未だに言い合いを続けているアリアネスとラシードに業を煮やしたトレスが声をかける。
 アリアネスはラシードの腕の中から逃げ出して、ミストレイアの後ろに隠れている。そして、そんなアリアネスを何とか取り戻そうとしていたラシードが「あぁ?」と不機嫌そうに振り向いた。

「なんだぁ、ロリ女。」

「あんた、アリアネス以外の女性にもう少し優しくできないわけ?」

「必要ねーだろ。」

「最低…。」

「とにかく!わたくしは騎士団はやめません!あなたに婚約破棄されてから目が覚めたのです。もっと清く正しく美しくあらねばならないと!そのためにはさらなる努力を重ね、国を、国民を守る必要があると。」

「俺と結婚するために騎士団長目指すんだろ?ならもう必要ない!妖精の諍いの件が片付いたら改めて婚約して結婚すればいいだけだ!」

「いやですわ!私はもうラシード様に振り回される女はやめたんです!騎士団に入ってわかったんです。私はただの世間知らずの貴族の娘だと。あなたの妻になるのであれば、もっと賢い女にならねばなりません!」  

「くそっ!やり方間違えた!なんでお前はいつも自分だけが頑張ろうとするんだ!」
 ラシードが椅子に乱暴に腰を下ろすと、自分の髪をガシガシとかき回す。そんなラシードを見ながら、アリアネスは高らかに宣言した。

「何も相談せずにすべてを決められたあなたをコテンパンに叩きのめして差し上げます!そのあとでも結婚は遅くありません!」

「あぁああああ!」 

 ラシードががっくりと肩を落とした。

「…こうなったアリアネスはあんたでも止められないと思うけど。」

 トレスが酒をあおりながら、にやにやと笑う。

「…うるせぇぞ、ロリ女。…アリアネス、本当にこのまま騎士団を続けるのか?第10支団であれば、マゴテリアとの戦争が始まっても戦線に出ることはないと思うが、人手不足で危険な任務を与えられる可能性もある。」

「望むところですわ。功績を残せば、支団の順位が上がって、あなたに挑戦する時期が早まります!」

「…お転婆め。そもそも俺が悪いってか。」 

 しかたねぇとラシードが深い深い溜息をつく。 

「むしろ、アリアネスには騎士団にいてもらった方が安全だと思うわ。すでにどこに敵が潜んでいるか分からないような状態だし。まわりに騎士がいる方が安心できるでしょ?」 

ミストレイアが提案する。

「そうね、アリアネス様がマゴテリアの手の者に捕まりでもすれば、ラシードが使い物にならなくるかもしれないもの。この国を守るためにも、早急に加護を受けたマゴテリアの騎士を探し出すことが重要ね。」

 ファニアが腰を上げ、帰り支度を始める。

「アリアネス様。あなたにはこの件が片付いてから改めてお詫びをしたいと思ってるの。それと、申し訳ないのだけれど、問題が解決するまでは、私もラシードもあなたに対して辛辣な態度をとらせていただくわ。妖精はどこで見ているか分からないの。元妖精王にあなたの存在がばれるとあなたに危険が及ぶわ。」

「この店はファニアの力が強いから、ほかの妖精は入ってこれないの。だからここであれ何をしても大丈夫よ。」

 いつのまにかトレスと酒を酌み交わしているミストレイアが説明する。

「アリアネス、あんまり危ないことはするな。頼むから俺のいないところでお転婆するなよ。」 

 いつの間にかアリアネスの近くまで来ていたラシードがアリアネスの右手をとり、膝まづいてその手に口づける。

「お離しになって!」

 顔を真っ赤にしたアリアネスが急いで手を引っ込める。 

「じゃあな、アリアネス。おい、セレーナ、アリアネスに怪我させたら承知しねーからな。」

「…もちろんです。ご心配なく。」

「セレーナ!」

 いつのまにか起きていたセレーナがソファから体を起こす。

「…ラシード様もあまりアリアネス様にご心配をかけないでいただきたい。」 

「はっ、減らず口を。じゃーな。」

「ごきげんよう。」

 ラシードとファニアが店を出ていく。アリアネスはほぉと息をはき、体の緊張をといた。

「…なんだか思っていた以上に複雑な状況なのね。」

「そうですね、まさか本物の妖精が出てくる事態になっているとは思いませんでした。」

 アリアネスがソファに腰掛けると、セレーナがそばに寄ってくる。

「妖精の諍いなんで、私たち人間の力が及ばない領域よ。アリアネス、あなたもあんまり首を突っ込んで無理をしないことよ。」 

 トレスに注意されたアリアネスは「…わかったわ。」と返事をした。
  


 歓楽街でトレスたちと別れたアリアネスはセレーナとともに、騎士団に戻った。夜中になってしまい、急いで自室に戻ろうとすると、騎士団の門の前に人影がある。 

「…こんな時間までどこに行っていた。」

 不機嫌そうに腕を組んで立っていたのはキウラだった。

「外出届は出しています。何も詮索される理由はないはずですが。」

 セレーナが答えるが、キウラはそれを無視し、アリアネスの前に立つ。 

「こんな夜遅くまでどこに行っていた?男漁りか?」 

「…協力者とともに、妖精についての情報を集めるとお話したはずですが?」

 アリアネスがキウラの目を見つめて言うと、キウラはちっと舌うちをして、視線を逸らす。

「協力者というのも本当にいるのか分からんな!さっさと部屋に帰って休め。」

「承知しました。」

 礼をして、キウラの横を通りすぎようとすると、キウラから待てと声をかけられる。 

「…何か?」

「第10支団に与えられていた妖精の加護の噂に関する調査は完了したと騎士団本部から通達があった。だから歓楽街に行く必要はもうない。今後、お前が歓楽街をふらついていることがあれば、男漁りに行っているということが明白だ。気を付けるんだな!」

 キウラはアリアネスを見ようともせず、自室に戻っていった。

「あの女、やけにお嬢様に突っかかりますね。」 

「そうね…。」

 アリアネスは暗闇に消えていくキウラの背中をしばらく眺めていた。
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