32 / 92
嵐
第5話
しおりを挟む
アリアネスが連れてこられていたのは、首都から少し離れた街道沿いにある古びた小屋だった。アリアネスは助けに来てくれたラシード達とともに第10支団に戻った。
アリアネスもキウラもラシード達と話をしたかったが、それぞれラシードとアルフォンソから「体を休めろ!」と強く言われ、ベッドに入った。するとあっという間に眠気が襲ってきて、気づけば丸一日寝てしまっていた。
アリアネスがぱちりと目を開けると、ベッドサイドにはセレーナがいた。
「セレーナ…。」
「目を覚まされましたか、お嬢様。」
「えぇ。…心配をかけたわね。」
「私はお嬢様の心配などしておりません。むしろお嬢様がほかの誰かに迷惑をおかけしていないかを心配しておりました。」
ナイフで果物を向いているセレーナの手がかすかに震えているのをアリアネスは見逃さない。そして、セレーナの手から優しくナイフを奪い、その体を優しく抱きしめた。
「わたくしは大丈夫よセレーナ。ごめんなさい。もうあなたを心配させるようなことはしないわ。」
「…それは幸いです。」
アリアネスは自分の肩が濡れていくのを感じたが知らないふりをした。
「おぉ、目を覚ましたみたいだな。」
ちょうどセレーナが落ち着いてきたころにアリアネスの部屋がノックされ、ラシードが入ってきた。その後ろにファニア、アルフォンソ、キウラが続く。
「あら、キウラ小隊長も目を覚まされたのね。よかったわ。」
失礼にあたるかと思い、アリアネスはベッドから降りようとするがラシードに「そのままでいい」と止められた。
「アリアネス様。私がいながらあなたを連れ去られてしまったこと、心からおわびいたしますわ。」
ファニアが頭を下げる。
「ファニア様が気にすることではございません。わたくしの注意が足りなかったのです。まだまだ修行が足りない証拠ですわ。」
ファニアの頭を上げさせにっこりと笑うと、申し訳なさそうな顔をしていたファニアの顔が少しだけほころんだ。
「あなたは本当に高潔な魂をお持ちなのね…。」
「?」
ファニアが小さな声で何かをつぶやいたが、アリアネスには聞こえなかった。
「…アリアネス嬢。」
アルフォンソが声をかけてくる。その顔は何かを耐えるようにこわばっていた。
「あなたは私との約束通り、キウラを無事に連れ戻してくれた。いくら感謝してもし足りない!」
「あら!」
アルフォンソはすごい勢いでその場に土下座をした。
「支団長!」
キウラが驚愕の声を上げる。ラシードはひゅーとからかうように口笛を吹いた。
「感謝は受け取りますわ、支団長。」
アリアネスが言うと、アルフォンソは「感謝する」といってもう一度頭を下げ、立ち上がる。
「…アリアネス、私からもお礼を言わせてくれ。」
キウラも90度の角度で頭を下げた。
「私は騎士失格だ。自分の嫉妬心にかられ職務を忘れていた。そんなことだから妖精などに付け込まれるのだ。私もまだまだ修行が足りない!」
「はぁ…今日は謝罪大会か何かなの?」
続けて行われる謝罪に飽き飽きしたアリアネスがはぁと溜息をつく。
「もういいのよ。わたくしもあなたの頬をたたきましたから。お互い様ですわ。」
「さて、お互いの謝罪も終わったことだし、本題に入るか。」
ラシードがベッドサイドに腰掛ける。
「状況はお前たちが思っている以上に悪くなってる。…マゴテリアがオルドネアに宣戦布告してきた。」
「なっ!」
ラシードの言葉に部屋にいる全員が言葉を失う。
「バライカはマゴテリアの準備はできたと言っていましたが、まさかそこまで進んでいるとは。」
「バライカも本気のようね。」
ファニアがふぅーと長い息をはいた。
「そもそものお話なのだけど、聞いてもいいかしら?」
アリアネスがファニアに聞くと、ファニアは「何でもどうぞ」とうなずく。
「どうしてバライカは自分自身でオルドネアに攻めてこないの?実際に会ってみて彼のすさまじい力が分かったわ。あれほどの力があるのなら、わざわざ人に加護を与えて戦争をさせる必要などないと思うの。」
「その通りよ。でも妖精は強大な力を持つからこそ、絶対に破ることのできない制約があるの。妖精は直接人間に危害を加えることはできないのよ。」
「しかし、キウラ小隊長を操ったり、私もバライカに操られそうになりましたわ。」
「それはバライカにもマリアガーテにも加護を与えた人間がいるからです。その人間を介して、妖精は力をこの世界に具現化するのです。そして、力を振るうには、加護を与えた人間がある程度近くにいる必要があります。」
「その理屈であれば、バライカとマリアガーテが加護を与えた人間がオルドネアにいたということになります。」
セレーナが声を挟むと、ファニアがゆっくりとうなずいた。
「その通りです。マゴテリアに妖精の加護を受けた人間が現れたと吹聴していたのは、バライカから加護を与えられた人間本人だったのです。そしてその側近と思われる人間も。」
「俺の注意も足りてなかった。まさかそんな大物がうちに侵入していたとは思わなかった。」
ラシードがぼりぼりと自分の頭をかきむしる。
「その事実が分かった後、私も感知能力を最大にしてマゴテリアの者を探しましたが、すでに国を出た後でした。」
「そうでしたの…。」
ファニアが残念そうに眉を下げる。突然頭に詰め込まれた情報を整理しようと、アリアネスはベッドに倒れこもうとする。するとラシードがその背を支え、ゆっくりと体を横たわらせてくれた。
「バライカの加護を受けた人間を早々に探し出して討たなければ、妖精の力を使った大戦争にまで発展します。なので、早急にマゴテリアに侵入する必要があります。…ただ非常に危険を伴うことです。」
ファニアの言葉を聞いて部屋に重苦しい空気が流れる。アリアネスにもその任務がどれだけ難しいか分かる。妖精の加護を与えられた人間はおそろく、尋常ではないほどの強さを持つ人間のはずだ。その人間と渡り合うためにはある程度の手練れでないと難しい。しかしラシードは国を守るためにオルドネアを離れるわけにはいかない。ファニアも同様だ。
「…アリアネス。支団長から話は聞いている。私と小隊長の立場をかけて決闘したいらしいな。」
すると、突然キウラが話し始めた。
「おい、キウラ。今そういう話をしている場合じゃ。」
アルフォンソが止めようとするが、キウラは話すのをやめようとしない。
「今やらなければ、忙しくなってできなくなる。すぐにでも決闘したい。体調はどうだ?」
「…しっかり眠りましたので万全ですわ。」
「よし。なら修練場に来い。待っている。」
「おい、キウラ!」
アルフォンソが呼び止めるも、キウラは早足で部屋を出て行ってしまった。
「すまん、アリアネス嬢。あいつのことは気にしないでほしい。」
「いえ、かまいません。わたくしもすぐに修練場に向かいます。」
セレーナ、準備をとアリアネスが声をかけ、部屋にいるほかの人に着替えるので出て行ってほしい旨を伝える。
「ラシード団長も何か言ってください!」
アルフォンソがラシードに助けを求めるが、ラシードは黙って部屋を出ていくだけだった。
「来たか。」
騎士団の服装に着替えているキウラが同じ格好のアリアネスを迎える。
「決闘は模擬刀でお願いいたしますわ。」
「お前が得意な体術でいいんだぞ?」
「いえ、騎士として剣で勝負を。」
「…分かった。」
キウラとアリアネスが同時に模擬刀を鞘から抜く。
「本当にやるのか!?」
アルフォンソが未だに止めようとするも、セレーナに制される。
「私が見届け人となります。決闘を始めてください。」
アリアネスとキウラはセレーナの声を聞いて一気に走り出す。
「でやあ!」
キウラが体を低くしてアリアネスのみぞおちを狙って剣を突き刺す。それに気づいたアリアネスはスピードを緩めて、後ろにステップ。自身の剣でキウラのそれを叩き落とした。
「はぁ!」
そして剣を持つ手をすぐに持ち上げ、キウラの首を狙った一閃を繰り出す。キウラはそれをかわして、アリアネスの後ろに回り込んだ。
「後ろが甘い!」
キウラは模擬刀で強くアリアネスの背中を打った。
「うっ!」とうめいて、アリアネスが膝をつく。しかし、アリアネスはキウラが油断したところで、剣を自分の脇から後ろに突き刺した。見事にキウラの腹にめり込み、キウラが苦しそうな声で同じく膝をついた。
「この雌狐が!」
「おほほ!負けませんわ。」
「こっちのセリフだ!」
不敵に笑った二人は距離をとると、また高速で剣を交えたのだった。
「はぁ!」
「でりゃあ!」
アリアネスとキウラの打ち合いは小一時間続いていた。腕を組んで黙って二人の打ち合いを見ているラシードとは対照的にアルフォンソはキウラが攻撃を受けるたびに「うわ!」やら「ひぃ!」と短い悲鳴を上げている。
「…うるせえぞ、アルフォンソ。黙って見てられねーのか。」
「ラシード団長はアリアネス嬢が心配じゃないんですか!」
「心配してねーな。だってうちの子猫が勝つのは当たり前だからな。…ほら。」
ラシードの言葉を聞いてアルフォンソが戦い続ける二人に視線をやるとアリアネスの剣が膝をつくキウラの首に添えられている。
「…まいった。」
ぜぇぜぇと息をはくキウラがアリアネスに降参の言葉を告げていた。
「…あなたの気持ちはよくわかりました。…わたくしの勝ちです。小隊長の座をいただきますわ。」
「アリアネス様の勝利!」
セレーナが宣言するとアリアネスがキウラに手を貸した。
「助かる。」
キウラがその手をとって立ちあがった。アリアネスは呆れたような表情でキウラを見る。
「決意は変わらないようですわね。」
「…知っていたか。そうだな。」
キウラがアリアネスに初めての笑顔を見せる。
「あなたはそれでいいの?」
「もちろんだ。私は騎士、この国のために働けるのはこれ以上ないほどの誉れだ。」
「あなたも頑固ね。」
「お互い様だ。」
キウラとアリアネスは顔を見合わせて笑いあう。
「おい、何を笑ってるんだ。キウラ、怪我はないか!」
勝敗が決したことに気づいたアルフォンソが急いでキウラに歩み寄り、確認する。
「はい、支団長。少し体が痛みますが大きな怪我はありません。緊急事態に勝手なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「それはいいが…。」
「それと1つお願いがございます。」
アルフォンソの言葉にかぶせてキウラが言う。
「なんだ?」
「どうか第10支団を退団することをお許しください。」
「は?なっ、なんだと!!」
アルフォンソがこれ以上ないというほど、その目を見開いた。
アリアネスもキウラもラシード達と話をしたかったが、それぞれラシードとアルフォンソから「体を休めろ!」と強く言われ、ベッドに入った。するとあっという間に眠気が襲ってきて、気づけば丸一日寝てしまっていた。
アリアネスがぱちりと目を開けると、ベッドサイドにはセレーナがいた。
「セレーナ…。」
「目を覚まされましたか、お嬢様。」
「えぇ。…心配をかけたわね。」
「私はお嬢様の心配などしておりません。むしろお嬢様がほかの誰かに迷惑をおかけしていないかを心配しておりました。」
ナイフで果物を向いているセレーナの手がかすかに震えているのをアリアネスは見逃さない。そして、セレーナの手から優しくナイフを奪い、その体を優しく抱きしめた。
「わたくしは大丈夫よセレーナ。ごめんなさい。もうあなたを心配させるようなことはしないわ。」
「…それは幸いです。」
アリアネスは自分の肩が濡れていくのを感じたが知らないふりをした。
「おぉ、目を覚ましたみたいだな。」
ちょうどセレーナが落ち着いてきたころにアリアネスの部屋がノックされ、ラシードが入ってきた。その後ろにファニア、アルフォンソ、キウラが続く。
「あら、キウラ小隊長も目を覚まされたのね。よかったわ。」
失礼にあたるかと思い、アリアネスはベッドから降りようとするがラシードに「そのままでいい」と止められた。
「アリアネス様。私がいながらあなたを連れ去られてしまったこと、心からおわびいたしますわ。」
ファニアが頭を下げる。
「ファニア様が気にすることではございません。わたくしの注意が足りなかったのです。まだまだ修行が足りない証拠ですわ。」
ファニアの頭を上げさせにっこりと笑うと、申し訳なさそうな顔をしていたファニアの顔が少しだけほころんだ。
「あなたは本当に高潔な魂をお持ちなのね…。」
「?」
ファニアが小さな声で何かをつぶやいたが、アリアネスには聞こえなかった。
「…アリアネス嬢。」
アルフォンソが声をかけてくる。その顔は何かを耐えるようにこわばっていた。
「あなたは私との約束通り、キウラを無事に連れ戻してくれた。いくら感謝してもし足りない!」
「あら!」
アルフォンソはすごい勢いでその場に土下座をした。
「支団長!」
キウラが驚愕の声を上げる。ラシードはひゅーとからかうように口笛を吹いた。
「感謝は受け取りますわ、支団長。」
アリアネスが言うと、アルフォンソは「感謝する」といってもう一度頭を下げ、立ち上がる。
「…アリアネス、私からもお礼を言わせてくれ。」
キウラも90度の角度で頭を下げた。
「私は騎士失格だ。自分の嫉妬心にかられ職務を忘れていた。そんなことだから妖精などに付け込まれるのだ。私もまだまだ修行が足りない!」
「はぁ…今日は謝罪大会か何かなの?」
続けて行われる謝罪に飽き飽きしたアリアネスがはぁと溜息をつく。
「もういいのよ。わたくしもあなたの頬をたたきましたから。お互い様ですわ。」
「さて、お互いの謝罪も終わったことだし、本題に入るか。」
ラシードがベッドサイドに腰掛ける。
「状況はお前たちが思っている以上に悪くなってる。…マゴテリアがオルドネアに宣戦布告してきた。」
「なっ!」
ラシードの言葉に部屋にいる全員が言葉を失う。
「バライカはマゴテリアの準備はできたと言っていましたが、まさかそこまで進んでいるとは。」
「バライカも本気のようね。」
ファニアがふぅーと長い息をはいた。
「そもそものお話なのだけど、聞いてもいいかしら?」
アリアネスがファニアに聞くと、ファニアは「何でもどうぞ」とうなずく。
「どうしてバライカは自分自身でオルドネアに攻めてこないの?実際に会ってみて彼のすさまじい力が分かったわ。あれほどの力があるのなら、わざわざ人に加護を与えて戦争をさせる必要などないと思うの。」
「その通りよ。でも妖精は強大な力を持つからこそ、絶対に破ることのできない制約があるの。妖精は直接人間に危害を加えることはできないのよ。」
「しかし、キウラ小隊長を操ったり、私もバライカに操られそうになりましたわ。」
「それはバライカにもマリアガーテにも加護を与えた人間がいるからです。その人間を介して、妖精は力をこの世界に具現化するのです。そして、力を振るうには、加護を与えた人間がある程度近くにいる必要があります。」
「その理屈であれば、バライカとマリアガーテが加護を与えた人間がオルドネアにいたということになります。」
セレーナが声を挟むと、ファニアがゆっくりとうなずいた。
「その通りです。マゴテリアに妖精の加護を受けた人間が現れたと吹聴していたのは、バライカから加護を与えられた人間本人だったのです。そしてその側近と思われる人間も。」
「俺の注意も足りてなかった。まさかそんな大物がうちに侵入していたとは思わなかった。」
ラシードがぼりぼりと自分の頭をかきむしる。
「その事実が分かった後、私も感知能力を最大にしてマゴテリアの者を探しましたが、すでに国を出た後でした。」
「そうでしたの…。」
ファニアが残念そうに眉を下げる。突然頭に詰め込まれた情報を整理しようと、アリアネスはベッドに倒れこもうとする。するとラシードがその背を支え、ゆっくりと体を横たわらせてくれた。
「バライカの加護を受けた人間を早々に探し出して討たなければ、妖精の力を使った大戦争にまで発展します。なので、早急にマゴテリアに侵入する必要があります。…ただ非常に危険を伴うことです。」
ファニアの言葉を聞いて部屋に重苦しい空気が流れる。アリアネスにもその任務がどれだけ難しいか分かる。妖精の加護を与えられた人間はおそろく、尋常ではないほどの強さを持つ人間のはずだ。その人間と渡り合うためにはある程度の手練れでないと難しい。しかしラシードは国を守るためにオルドネアを離れるわけにはいかない。ファニアも同様だ。
「…アリアネス。支団長から話は聞いている。私と小隊長の立場をかけて決闘したいらしいな。」
すると、突然キウラが話し始めた。
「おい、キウラ。今そういう話をしている場合じゃ。」
アルフォンソが止めようとするが、キウラは話すのをやめようとしない。
「今やらなければ、忙しくなってできなくなる。すぐにでも決闘したい。体調はどうだ?」
「…しっかり眠りましたので万全ですわ。」
「よし。なら修練場に来い。待っている。」
「おい、キウラ!」
アルフォンソが呼び止めるも、キウラは早足で部屋を出て行ってしまった。
「すまん、アリアネス嬢。あいつのことは気にしないでほしい。」
「いえ、かまいません。わたくしもすぐに修練場に向かいます。」
セレーナ、準備をとアリアネスが声をかけ、部屋にいるほかの人に着替えるので出て行ってほしい旨を伝える。
「ラシード団長も何か言ってください!」
アルフォンソがラシードに助けを求めるが、ラシードは黙って部屋を出ていくだけだった。
「来たか。」
騎士団の服装に着替えているキウラが同じ格好のアリアネスを迎える。
「決闘は模擬刀でお願いいたしますわ。」
「お前が得意な体術でいいんだぞ?」
「いえ、騎士として剣で勝負を。」
「…分かった。」
キウラとアリアネスが同時に模擬刀を鞘から抜く。
「本当にやるのか!?」
アルフォンソが未だに止めようとするも、セレーナに制される。
「私が見届け人となります。決闘を始めてください。」
アリアネスとキウラはセレーナの声を聞いて一気に走り出す。
「でやあ!」
キウラが体を低くしてアリアネスのみぞおちを狙って剣を突き刺す。それに気づいたアリアネスはスピードを緩めて、後ろにステップ。自身の剣でキウラのそれを叩き落とした。
「はぁ!」
そして剣を持つ手をすぐに持ち上げ、キウラの首を狙った一閃を繰り出す。キウラはそれをかわして、アリアネスの後ろに回り込んだ。
「後ろが甘い!」
キウラは模擬刀で強くアリアネスの背中を打った。
「うっ!」とうめいて、アリアネスが膝をつく。しかし、アリアネスはキウラが油断したところで、剣を自分の脇から後ろに突き刺した。見事にキウラの腹にめり込み、キウラが苦しそうな声で同じく膝をついた。
「この雌狐が!」
「おほほ!負けませんわ。」
「こっちのセリフだ!」
不敵に笑った二人は距離をとると、また高速で剣を交えたのだった。
「はぁ!」
「でりゃあ!」
アリアネスとキウラの打ち合いは小一時間続いていた。腕を組んで黙って二人の打ち合いを見ているラシードとは対照的にアルフォンソはキウラが攻撃を受けるたびに「うわ!」やら「ひぃ!」と短い悲鳴を上げている。
「…うるせえぞ、アルフォンソ。黙って見てられねーのか。」
「ラシード団長はアリアネス嬢が心配じゃないんですか!」
「心配してねーな。だってうちの子猫が勝つのは当たり前だからな。…ほら。」
ラシードの言葉を聞いてアルフォンソが戦い続ける二人に視線をやるとアリアネスの剣が膝をつくキウラの首に添えられている。
「…まいった。」
ぜぇぜぇと息をはくキウラがアリアネスに降参の言葉を告げていた。
「…あなたの気持ちはよくわかりました。…わたくしの勝ちです。小隊長の座をいただきますわ。」
「アリアネス様の勝利!」
セレーナが宣言するとアリアネスがキウラに手を貸した。
「助かる。」
キウラがその手をとって立ちあがった。アリアネスは呆れたような表情でキウラを見る。
「決意は変わらないようですわね。」
「…知っていたか。そうだな。」
キウラがアリアネスに初めての笑顔を見せる。
「あなたはそれでいいの?」
「もちろんだ。私は騎士、この国のために働けるのはこれ以上ないほどの誉れだ。」
「あなたも頑固ね。」
「お互い様だ。」
キウラとアリアネスは顔を見合わせて笑いあう。
「おい、何を笑ってるんだ。キウラ、怪我はないか!」
勝敗が決したことに気づいたアルフォンソが急いでキウラに歩み寄り、確認する。
「はい、支団長。少し体が痛みますが大きな怪我はありません。緊急事態に勝手なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「それはいいが…。」
「それと1つお願いがございます。」
アルフォンソの言葉にかぶせてキウラが言う。
「なんだ?」
「どうか第10支団を退団することをお許しください。」
「は?なっ、なんだと!!」
アルフォンソがこれ以上ないというほど、その目を見開いた。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない
春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」
それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。
「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」
父親から強い口調で詰られたエルリカ。
普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。
けれどエルリカは違った。
「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」
そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。
以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。
ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。
おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる