捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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マゴテリアへ

第12話

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「あなたはそれでいいのですか。」

 アリアネスはラシードを抱き上げて、その頭を優しく撫でながらザガルードに問いかける。

「それでいいって?いったい何の話だい?僕には関係ないね。」
 
 馬鹿にするような表情でアリアネスを見るザガルードに、とうとうアリアネスの堪忍袋の尾が切れた。

「いい加減にしなさい!!!」

 アリアネスが鋭い声で叱責する。

「何を子供のようにむくれているのです!」

 ザガルードは不貞腐れたように返事をする。

「君には関係のないことだよ!」

「でしたら、どうしていつまでもここにとどまっているのです!あなたほどの実力があれば、すぐにでもこの場を立ち去ることができるはずですわ!それをしないのはあなたがこの話に興味を引かれている証拠です。」

「…。」

 ザガルードは黙り込む。

「都合が悪いことがあれば黙りこむ。まるで子供のようではありませんか。いや、子供そのものですわ!何も言い訳ができないのであれば、一生この場で黙り込んでいればよろしい!」

 そう言い切った後、アリアネスはパンと両手を打ち鳴らす。

「さぁ、みなさん出発しますわよ。こんな子供の癇癪に付き合っている暇はありません。すぐにでも王都に到着しなければ。ただでさえ日程が遅れています。」

「そうだな。先を急ごう。」

 ちらりとザガルードを見たキウラだったが、すぐに視線を外し、先行する。

「手遅れになっては全てが水の泡です。急ぎましょう、お嬢様。」

 セレーナもその後に続く。

「それではごきげんよう。どこの誰とも分からない卑しい盗賊のお坊ちゃま。」

アリアネスは下を向いたままのザガルードに対して優雅なお辞儀をした後、セレーナ達の後を追った。




「っ!待て!」

 先を急ごうと足を踏み出したアリアネスを切羽詰った声が引き留める。アリアネスがゆっくりと振り返ると、今にも泣きだしそうな顔をしたザガルードが顔を上げてこちらを見ていた。 

「何かご用かしら、盗賊さん?」

 アリアネスが満面の笑みで尋ねる。ザガルードは小さな声で呟くように話す。

「…姉を助けてくれ。」

「あら、わたくしのことを罵倒した卑しい盗賊のいうことなど聞く必要はない。そうでなくって、セレーナ。」

「その通りでございます、お嬢様。」

「それは!!」

 ザガルードが悔しそうな顔で反論しようとするが、アリアネスがそれを許さない。

「えぇ、そうよ。なぜわたくしがあなたのお姉さまを助けないといけないのかしら。だってお願いもされていなにのに。ねぇ、セレーナ。」

「その通りでございます、お嬢様。」

 おほほほと高笑いするアリアネスをロヴェルは恐ろしいものを見るような目で眺めている。

「…頼む。」

「ん?今何か聞こえたような気がしましたが、どうやら気のせいのようね。行きましょう、セレーナ。」

「はい、お嬢様。」

「っ!頼む!話を聞いてくれ!」

 ザガルードが大きな声を出して懇願する。するとアリアネスは先ほどの嘘くさい笑顔とは違う本物の笑みを浮かべる。

「最初から素直にそういえばよいのです。これだから意地っ張りな男性は困りますわ。」

 アリアネスが呆れたように溜息をつくと、ザガルードは苦虫をかみつぶしたような顔をした。

「おー、さすが俺の子猫ちゃんだ。俺もザガルダントの話を聞きたいところだが。…そろそろタイムオーバーみたいだな。」

 黙っていたラシードがアリアネスの腕の中からジャンプして地面に降り立つ。

「…いいか、アリアネス。そろそろアルフォンソの交渉では止められないところまで状況は悪化してる。できるだけ早く終わらせろ。…でないとお前の身も危ない。」

「分かりました。お任せください、わたくしは将来、あなたの妻になる女です。」

「…好きな女の心配ぐらいさせろ。それとザガルダントは好きなように使え。じゃあな。」 

 そう言って以前のように子猫の姿は掻き消えた。

「それじゃあ詳しい話を聞かせてもらいましょうか。」

 アリアネスはザガルードの前にしゃがみ、にっこりと笑った。



 しかし、一刻も早く王都に到着する必要があるので、ザガルードの話は先を進みながら聞くことになった。

「あなたが王族というのは本当のことで良かったのね。」

「…そうだよ。僕は確かにこのマゴテリアの王族の1人。今、国を治めているミリアンネ・ルパード・マゴテリアの弟だ。」

「どうして王族の人間が山賊なんかやってるんだ?」

 説明がややこしいので、力を使ってもうしばらく眠らせているマリアを抱えながら歩くロヴェルが尋ねる。

「…僕は捨てられたんだよ。姉にね。」

「え!」

 アリアネスが顔を向けても、ザガルードは無表情で淡々と話し続ける。

「7年前に、旅行中だった当時の王と王妃、つまり僕の両親は不慮の事故で死んだ。そして、他国に留学していた姉のミリアンネが王位を継ぐために急きょ帰国したんだ。その時、僕は10歳だった。」

「お前、まだ10代だったのか!」

 キウラが目を見開く。さすがのアリアネスも驚いていた。ザガルードはそのすらりと長く伸びた身長や落ち着いた雰囲気から、すっかり自分と同じぐらいか年上だと思っていたのだ。

「そうだよ。とにかく話を進めるよ。王位を継いで最初の頃は姉はこの国のために必死になって努力していたよ。そして幼い僕のことをよく気にかけてくれた。…でも数年してから姉はおかしくなったんだ。」

「おかしくなったとはどういうことなの?」

 突然立ち止まったザガルードにアリアネスが歩み寄る。

「聡明で思慮深かった姉はどんどん独善的になった。そして、とうとう誰の言うことも聞かなくなってしまった。」

「それは…独裁政治になったということか?」

「残念ながらその通りだ。」

 キウラの問いに、ザガルードは忌々しげに歯軋りした。
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