捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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マゴテリアへ

第17話

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「マリア…。」

 オネオンが小さく呟きながらマリアに近付く。マリアは黙ったまま、スカートを持ち上げて一礼した。

「えぇ、そうですオネオン様。」

 オネオンはそんなマリアをじっと見つめた後、忌々しそうに舌うちした。

「…お前とはもう離縁したはずだ。それをこんなところまで押しかけてどういうつもりだ!」

「…。」

 マリアはオネオンの言葉を黙って聞いているが、スカートをぎゅっと掴むその手がかすかに震えているのにアリアネスは気づいていた。

「まさかお金が欲しいのか。卑しい女め!」

 オネオンの言葉にビクッとマリアの体が大きく震える。見ていられなくなったアリアネスはマリアとオネオンの間に割って入った。

「…そのぐらいにされていた方がよろしいかと。」

 マリアの瞳から涙が盛り上がり、あと少しで零れ落ちそうになる前にアリアネスはオネオンを鋭い視線で睨み付けた。

「まさか、騎士団の副団長ともあろうお方がうら若き淑女に対してそのように汚らしい暴言を吐くとは!信じられませんわ!」

 アリアネスの言葉に顔を歪めたオネオンだっが、すぐに無表情に戻った。

「…あなた様には関係のないことでございます。これは私と妻の問題です。」

「あら、先ほど『もう離縁したはず』とおっしゃっていたではありませんか。あなたもマリア様にとっては他人に過ぎませんのよ。」

 おほほと笑うアリアネスを今度はオネオンが睨み付けた。

「…アリアネス様、そろそろ女王陛下の下にお連れいたします。」

 2人のやり取りを阻むようにリィル団長がアリアネスを促すが、アリアネスはその場から動かない。

「あら、リィル団長。もう少しだけ待っていただけませんか?」

「女王陛下をお待たせする訳には参りませんので。お早く。」

 リィルがにっこりと笑うが、今すぐにでもアリアネスたちをこの場から連れ出したいのか、さらに先を急かしてくる。          
 それでもアリアネスはこの場を去るわけにはいかない。せっかく見つけた副団長なのだ。彼をこの場で討たなければ戦争が始まってしまう。



(でも!まさか副団長がマリアさんの旦那様だったなんて!)


 表面上ではにこやかな笑顔を浮かべているアリアネスだったが、内心は非常に混乱していた。すぐにでも目の前にいる副団長を殺したいのだが、この男はマリアが愛する男なのだ。

「さぁ、アリアネス様。行きましょう。」

 リィルの言葉にアリアネスは返事をすることができない。セレーナもどのように行動すべきか考えあぐねているようだった。

(このままではせっかくのチャンスが!)

 アリアネスが冷や汗を流したその時。



「…私はオネオン様のことが大好きでした。」

 ずっと黙ってうつむいてたマリアが顔を上げて話し始めた。その顔は先ほどの泣きそうな表情ではなく、何かを決意したかのようなそれに変わっている。

「あなたが傭兵として村にやってきて、一目見た時から恋をしてしまったんです。」

「…。」 

 オネオンはマリアの言葉を黙って聞いていた。

「あなたはドジで冴えなくて、身寄りのない私にも優しくしてくれました。いつでも優しく笑って、村人のための雑用もこなしていて。本当に憧れの存在だったんです。そんなあなたが私を結婚相手に選んでくれた時は天にも昇るような思いでした。」

「…それは。」

「知っていました。あなたが私のことを愛していなかったということは。」

「なんだとッ…。」

 マリアの言葉を聞いたオネオンが驚愕の表情を見せる。マリアはにっこりと笑っていた。

「あなたは、私に隠れて誰かと頻繁に伝書鳩のやり取りをされていましたね。それに、寝言でいつもほかの女性の名前を呼ばれていましたね。」

「っ…!」

「…詰めの甘いやつめ!」

 顔を青くするオネオンを見て、リィルが舌うちをした。

「お嬢さん、そろそろいいかな。我々騎士団を忙しいのでね。あなたのような一般人に構っている暇はないのですよ。」

 リィルがマリアに近づいて、無理やりマリアを外に連れ出そうとする。

「っ!それでも私はあなたが好きでした!たとえまやかしでもあなたの優しさに触れられたから!だからあなたが本当に好きな人と一緒になれるように離婚届のサインをいただきにきたんです!」

 マリアの言葉を聞いたリィルが足を止める。

「それは本当ですか、お嬢さん?」

「…はい。おそらくオネオン様がマゴテリアには離縁申請を出されていて、それが受理されていると思います。でもオルドネアには離縁申請をするには直筆のサインが必要なんです。ですから現在、オネオン様はマゴテリアでは独身ですが、オルドネアでは妻帯者ということになります。…そんないびつな状態は副団長のあなたには良いことではない筈ですよね?」

「ほぉ、そうなのか。オネオン、さっさとサインしてお嬢さんに退場してもらえ。」

「…はっ。」

 リィルのあざけるような言葉に返事をしたオネオンはゆっくりとマリアに歩みよる。

「オネオン様…。っきゃ!」

 そしてマリアが手に持っていた離縁状をひったくると「ちょっと待っていろ」と言って建物の方へと戻って行った。

「さーて、そろそろ行きましょうかアリアネス様。」

 用は済んだと判断したのか、リィルがアリアネス達に歩み寄ってくる。

「…待ってちょうだい。マリア様はわたくしたちの友人なの。彼女が無事に騎士団を出るまでは見届けさせていただくわ。」

「女王様がお待ちなのですよ。」

「あら、わたくしたちはこの国の王族を見つけて連れ帰ったのよ。少しぐらい融通をきかせていただいてもよろしいのではなくて?」

「…立場をわきまえろよ、小娘。ここはお前たちの国ではなく敵国だ。今すぐにでも戦争が始まろうとしている状況を分かってるのか。」

 リィルが闘志をむき出しにして、アリアネスに迫ってくる。危険を察知したセレーナがアリアネスをかばおうとするが、アリアネスは視線でそれを止めた。
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