死にかけたらご褒美がありました

めろめろす

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第一章

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「ねぇ!ちょっと、千佳子!なんなのよ、あの人!なんなのよ、あのイケメン!!」
「説明するから落ち着いてね、舞。」

 不破さんが奥の部屋に消えていくと同時に、舞がカウンターの向こうから身を乗り出して尋ねてくる。まるで子供のように目を輝かせる舞の様子に小さくため息をついた後、目の前にある日本酒を喉に流し込んだ。

「あの人は、ちょっとした知り合いなの。仕事で大変なときに少し良くしてもらったのよ。」
「仕事で大変な時って?何かあったの?」
「いや、そんな大したことじゃないのよ。ただ、落ち込んでるときに励ましてもらったというか、色々してもらったというか。」
「いろいろねぇ……。その色々のところが聞きたかったりするんだけど。けどまぁ、今日はこのぐらいにしといてあげる!せっかく、千佳子がお店に来てくれたんだからね!」

 舞が可愛らしいウィンクをして、料理の準備にとりかかる。

(詳しい話、聞かれなくてよかった……。)

 もし追求されれば、電車に飛び込もうとしたいたことがバレてしまう。そんなことは舞に知られたくなかった。無駄に心配をかけたくないからだ。

「千佳子、ちょっとあっちのお客さんの相手してくるから、ちょっと一人で飲んでてね!はい、これ、鴨のロースト!」
「きゃあ、ありがとう!」

  テーブルの前に置かれた大好物を見てテンションが上がってしまう。舞に笑顔でお礼を言うと、お通しをいくつか乗せたお盆をもって微笑んでくれた。

「んんぅー!おいしい!すっごくおいしい!」

 脂が乗った鴨の肉を噛むと、旨味がじゅわぁとしみだしてくる。あまりの美味しさに一人で頬を押さえてしまった。美味しいお酒のあてもできて、ますます日本酒が進んでしまう。

「千佳子?鴨のローストどう?」
「おいひいです!最高でふ!」

 そのためか、舞の仕事が一段落した頃には、先程よりもお酒が回ってしまい、呂律も若干回らなくなってしまった。

「鴨がじゅわぁってするし、お酒も美味しいし、舞はかわいいし! もぉ、最高でございます!」
「……これはちょっと飲ませすぎてしまったな。美味しいおつまみを作りすぎたか。」

「すいませーん、注文お願いしまーす!」
「はーい!千佳子、そこで寝ててもいいからちょっとお酒飲むのストップして!あんまり飲みすぎると明日が大変だよ!」
「もうお仕事やってないから、明日のことなんて考えなくてもいいんですぅー!」
「はいはい、じゃあちょっと待ってて!」

 舞の呆れ顔を見た後、私はテーブルに突っ伏してしまったのだった。


新名side

「不破さん、さっきの人ってお知り合いか何かですか?」
「あぁ、まぁな。最近知り合ったんだ。」
「えぇー、さっきの女の人のことですか?まさか合コンとかで知り合った訳じゃないですよね、社長?」

 俺が社長に質問すると、若い女性社員が間髪入れずに尋ねていた。笑顔を浮かべてはいるが、その瞳には不安と少しの敵意が混ざっている。

「合コンなんかじゃないさ。ただの知り合いだ。」

 社員が笑ってビールを飲むと、女の子はほっとした表情で「そうですよねぇ!なんか社長が合コンするようなタイプの女の人じゃありませんでしたし!」

 きゃっと笑う女の子を見て、不破さんが「そんなに合コンなんかしてないぞ」と苦笑いする。そんな表情すらもかっこよくて、女の子だけじゃなく、男の俺ですらも見とれてしまうほどだ。

「ほら、その話はもういいから!また何か頼もうってあっちで話してたけどいかなくていいの?」
「あ!私も頼みます!ここのご飯すっごくおいしいし!」

 女の子はメニュー表を見ている集団の中へと戻っていった。

「すいません、社長。騒がしくしてしまって。」
「いいさ。飲み会なんて騒がしいもんさ。逆に社長なんかがいると盛り下がるだろ?ほら、これ。」
「え?いや、社長こんなにいただけません!」
「なんのために社長してると思ってるんだ。お前たちに還元するぐらいは稼がせてもらってる。受けとれ。」
「すいません……。」

 社長が差し出してきた万札数枚を、お辞儀をしてから受けとる。

「俺はそろそろ引き上げる。後は頼んだぞ、新名。」
「え!でもまだ!」
「俺がいない方が話も進むだろ?」

(いや、いなくなると逆に女の子たちからすごく怒られるんですが……。)

 そう思うものの、社長はすでにコートを着てしまっている。皆がメニューに夢中になっているうちに帰りたいのだろう。

(そういえば……。)

「さっきの女性のところですか?」

 気になってしまって尋ねてみる。すると、タバコに火を付けた社長がくるりと振り返った。

「可愛い女、待たせてるんでな。また会社で。」



「格好いいな、おい……。」


 後ろ手に手をふる社長を見て、ときめいてしまったのは絶対に秘密だ。
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