落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす

文字の大きさ
13 / 56
第一部

第13話

しおりを挟む
 瀬尾君が作ってくれた朝御飯を食べた後、シャワーを浴びさせてもらった。脱衣場には、自分が昨日着ていた服が洗濯されてきれいに畳まれて置かれていた。今度、瀬尾君にお礼として菓子折のひとつでも渡そうと心に決めて、服を身につけた。

 リビングに入ると、瀬尾君はすでに出かける支度を終わらせていた。オフホワイトのシャツにブラックジーンズ。シャツのポケットにはブランドもののサングラスが掛けられている。日本人には似合わない外国人向けのファッションなはずなのに、日本人離れした体格と顔立ちの瀬尾君はまるでモデルのようにきまっている。

「あぁ、ちょうど呼びに行こうと思っていたところでした。俺も準備が終わったのでそろそろでかけませんか?」

「うん、俺ももう大丈夫だから。あと、服洗濯してくれてありがとう。」

 ついででしたからと瀬尾君はなんてことはないというように笑う。その朗らかな笑顔が可愛らしい。

「この近くに有名な牧場があるんですよ。馬とか牛とか、山羊とか。乗馬体験もできるみたいです。それにそこの生乳で作ったソフトクリームが絶品だって遠方からでも買いに来るみたいです。ソーセージとか肉類も充実してるみたいですよ。」

 いいお土産が買えるといいですねと瀬尾君が話しながら玄関へと促してくれる。
 もしかしたら監禁されるかもなんて思っていたこの部屋。おそらくもう二度と来ることはないだろう。せめて目に焼き付けておこうと思い、一度だけ部屋を振り返った後、先に外へと向かった瀬尾君を追った。


  瀬尾君の車にまた乗せてもらって出発した。瀬尾君には言わなかったが、実は牧場は大好きなのだ。もともと動物が好きなので、一人で動物園や牧場に行ったことが何回もある。それに加えて牧場でソーセージなどを買うのも堪らなく好きのだ。毎回買いすぎてしまい、実家に持って帰っては「なんで毎回こんなに買うの!」と母親に怒られていた。
 本当は瀬尾君が牧場に行くと言った時点で小躍りしたいくらいにうれしかったが、これ以上醜態をさらすのは止めようとなんとか堪えたのだ。
 車に乗ってからはソワソワしながら外を眺めている。

「それで、今はどちらにお勤めなんですか?」

「へっ?」

 突然瀬尾君が尋ねてきたので、間抜けな返事をしてしまった。

「うちを辞められてからの話ですよ。今はどんなところで働かれているんですか?」

「あー、えーっと、だいたい似たような業界で…。」

 似たようなと言ったために瀬尾君が同業他社の会社を何社か挙げてきた。最初は正直に違うと答えていたが、ふと考えて、ここは適当に嘘をついておいた方がいいのではないかと思い付く。彼には自分がまだ同じ会社で働いていることは知られたくない。それに、今日彼と別れたらもう二度と会うつもりはない。


「へぇ、そんなところで働いてたんですか。さすがにそことは思いませんでした。」

「あはは。まぁ、色々あったからね。ところで、牧場ってあとどのくらいかな?」

 これ以上この話に突っ込まれるとボロが出てしまうのでら話題を変えることにした。少し急すぎたかなとも思ったが、彼はそれには気づかなかったようで「あと20分ぐらいですよ」と答えてくれた。

「…そんなに楽しみなんですか?」

「いや!そんなことない!そんなことないぞ!」

 まだかまだかと待っているのがバレてしまったのか、信号で止まった瀬尾君が口角を少しだけ上げてこちらを見てくる。晴天のためにサングラスを着けた瀬尾君に見つめられるのは心臓に悪い。

「…山口さん、可愛いですね。」

「ひゃっ!」

 瀬尾君の手が自分の頬をするりと撫でる。指の背で頬をスリスリと撫でられ、その気持ちよさにビクッと震えてしまう。

「あの、せお、くん…?」

「頬、赤くなってる。」

「っぁ!」

 いきなり車内が淫らな雰囲気へと様変わりした。瀬尾君の指が頬から首筋へとおりていく。鎖骨を一撫でしたと思えば、耳の裏をカリカリと擦っていく。大したことをされている訳ではないのに、身体が大きく跳ねる。

「ひいっ!!」

 そして、止めと言わんばかりに瀬尾君から濃厚なふぇろもんがあふれでてきた。身体全体を撫で回すように感じるほどの濃い香りが、身体を無理やり発情させてくる。

「やっ、やめて、瀬尾君!」

「ん?何がですか?俺は何もしてないですよ?」

「その、匂い!やだ、やめて!!」

「匂い?あぁ、フェロモンですか?でも山口さんはβなんだからフェロモンの影響はそれほど受けないでしょ?…ほら、こうやっても大丈夫でしょ?」

「いやぁ!!!」

 女性のような甲高い悲鳴をあげてしまった。身体の奥深いところから、ドロッと熱い何かが溢れてできた。今まで感じたこともない感覚に、思わず涙が滲んでくる。

「な、なにこれ?やだ、いやぁ!」

 意思に関係なく身体が瀬尾君に無理矢理発情させられる。自分でコントロールできず、暴走する自分自身が恐ろしくて堪らない。頭は嫌なのに、身体は欲を求めているのだ。
 なすすべもない自分が怖く、瀬尾君の手にすがり付く。

「ははっ、大丈夫ですよ。ほら、もう青ですから。」

「あっ…。」

 あんなに濃かったフェロモンか一瞬で霧散する。それと同時に身体の主導権も戻ってきた。あんなに怯えていた恐ろしさもあっという間に消えてしまった。

「今のは…?」

「…きっと疲れてて性欲がたまってるのかもしれませんよ。俺もたまにありますから。」

「そ、そっか!ご、ごめんね!」

「いいですよ。さぁ、着きました。」

 やっと牧場についたようで、可愛らしい牛のキャラクターが描かれた看板を目印に駐車場にはいる。一気に楽しみな気持ちが戻ってきた自分は、あっという間に先ほどのことを忘れてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

α、β、Ωで結婚したら無敵だった

月田朋
BL
政府の少子化対策のためのお見合いシステム、「マッチングサービス」。α、β、Ωの男三人。 ビッグデータの解析結果によると、三人で結婚すれば相性はバッチリ!!だったら結婚してみよう。恋はその後すればいい。 【登場人物】 鳥飼誠(34歳)α 男性 井岡イオ(31歳)β 男性 淵 流助(21歳)Ω 男性 ※結婚後の姓は選択制の世界です。(彼らは別姓を選択しています)

君と運命になっていく

やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。 ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。 体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。 マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。

運命の君

沢渡奈々子
BL
【はじめに】このお話はBL(Boy's Love)です。他の投稿作品(NL)から来られた方はご注意くださいませ。【注意】 【オメガバース】設定捏造&造語あり注意。 ごくごく普通のベータである蒼は、ある日超美形のアルファ・鳴海から友達になってほしいと言われ快諾する。それからしばらくして、蒼はオメガと間違えられてアルファの小野塚に襲われるが……。

政略結婚制度に怒っています

河野彰
BL
「政略結婚法」が施行されて十余年。政治家や俳優、高額納税者などの著名人は三十歳までに結婚をしなければならないという法律だ。  主人公末永遥(すえながはるか)はごく一般家庭に育った地味なサラリーマンだったが、ある日一通の通知が政府から届く。それは、高額納税者である久堂清継(くどうきよつぐ)との婚姻が成立したという決定通知だった。  男同士で結婚!? と驚く遥。間違いかと思い、すぐに異議申し立てをしに市役所へ行ったが、そこで事実だと告げられてしまう。トボトボと帰路につく遥の前に清継が現れて……。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

宮本くんと事故チューした結果

たっぷりチョコ
BL
 女子に人気の宮本くんと事故チューしてしまった主人公の話。  読み切り。

必要だって言われたい

ちゃがし
BL
<42歳絆され子持ちコピーライター×30歳モテる一途な恋の初心者営業マン> 樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。 そんなしがない中年オヤジの俺にも、気にかけてくれる誰かというのはいるもので。 ひとまわり年下の後輩営業マン麝香要は、見た目がよく、仕事が出来、モテ盛りなのに、この5年間ずっと、俺のようなおっさんに毎年バレンタインチョコを渡してくれる。 それがこの5年間、ずっと俺の心の支えになっていた。 5年間変わらずに待ち続けてくれたから、今度は俺が少しずつその気持ちに答えていきたいと思う。 樽前 アタル(たるまえ あたる)42歳 広告代理店のコピーライター、通称タルさん。 妻を亡くしてからの10年間、高校生の一人息子、凛太郎とふたりで暮らしてきた。 息子が成人するまでは一番近くで見守りたいと願っているため、社内外の交流はほとんど断っている。 5年間、バレンタインの日にだけアプローチしてくる一回り年下の後輩営業マンが可愛いけれど、今はまだ息子が優先。 春からは息子が大学生となり、家を出ていく予定だ。 だからそれまでは、もうしばらく待っていてほしい。 麝香 要(じゃこう かなめ)30歳 広告代理店の営業マン。 見た目が良く仕事も出来るため、年齢=モテ期みたいな人生を送ってきた。 来るもの拒まず去る者追わずのスタンスなので経験人数は多いけれど、 タルさんに出会うまで、自分から人を好きになったことも、本気の恋もしたことがない。 そんな要が入社以来、ずっと片思いをしているタルさん。 1年間溜めに溜めた勇気を振り絞って、毎年バレンタインの日にだけアプローチをする。 この5年間、毎年食事に誘ってはみるけれど、シングルファザーのタルさんの第一優先は息子の凛太郎で、 要の誘いには1度も乗ってくれたことがない。 今年もダメもとで誘ってみると、なんと返事はOK。 舞い上がってしまってそれ以来、ポーカーフェイスが保てない。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

処理中です...