落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす

文字の大きさ
52 / 56
第二部

第16話

「飛鳥商事でのインターンシップは本当に素晴らしかったです。でも、その次に行った企業が最悪でした…。」

 泣きじゃくる小鳥遊君をなんとか落ち着かせると、少しずつ話してくれるようになった。小鳥遊くんの右隣に自分が座り、左には三目君。そしてテーブルを挟んで四宮部長と瀬尾君が座っている。

「その会社でも飛鳥商事の時と同じような仕事の仕方をしてました。その時にいろんなことを教えてくれた先輩がいて…。仕事終わりに飲みにも連れて行ってもらって、本当に尊敬してたんです。でも、ある日…。」

 泣き止んだはずの小鳥遊くんの瞳が再び緩む。手が少し震えているのに気づいて優しく握ってあげた。すると小鳥遊君は顔を上げて少し微笑んでくれる。

「…仕事終わりに飲んで、そのままホテルに連れ込まれそうになったんです。」

「っ!」

 三目君が息を呑む。同じΩである三目君にも同じような経験があるのだろう。

「もちろん、必死に抵抗しました。そんなつもりじゃないって。そしたら激しく罵倒されました。『Ωがまともに仕事なんかできるもんか』って…。『あんな風に懐かれるようについてこられた、誘ってるって勘違いされてもおかしくないって。…Ωはαに媚びて仕事してればいい』って!!」

 「小鳥遊!」

 ブルブルと震える小鳥遊君の体を三目君が強く抱きしめる。

「僕、怖くなって…!僕の仕事を褒めてくれた人たちもみんな同じように思ってるんじゃないかって!Ωは媚びて笑ってりゃあいいんだって!」

「そんなことない!そんなことないんだ、小鳥遊!」

 三目君が少し鼻声になっているような気がする。もしかしたら泣いているのかもしれない。そして自分も体が震えている。泣いているからではない。湧き上がってくる怒りからだ。

「それから!前みたいなことできなくなっちゃって!Ωなこと,全面に出して媚びてヘラヘラしてることしかできなくなっちゃって!…そしたらホテルに連れ込もうとした先輩、何事もなかったみたいに僕に告白してきたんですよ。可愛くてずっと好きだったって…!好きだから僕に拒否されてあんなこと言ってしまったって。自分はαだから、僕に仕事辞めて家庭に入れって。…好きならなんでもしていいんですか?αなら!何しても許されんですか!!!!」

「もういい!小鳥遊!もういいよ!」

「うわあーーーーーー!」

 2人のΩが慟哭している。四宮部長と瀬尾君はいたたまれない顔で2人を見つめていた。



「…小鳥遊君。その先輩ってどこの会社のなんてやつ?」

 抱き合いながら泣きじゃくっている2人の輪に無理やり入って尋ねる。

「え?あ、えと。」

「大丈夫。二度と社会復帰できないように俺が叩きのめしてくるから。俺は最近ジムに通ってるから筋肉ついてきたんだ。αにも負けないよ?そいつ営業なら俺が完膚なきまでに叩きのめしてあげる。だから!」


「んふふ!山口さんってバカですよね?」

「んな!」

 最初惚けた顔をしていた小鳥遊君は何がおかしいのか、クスクスと笑い出す。

「俺は本気だぞ!仕事も辞めたし、何だってできるんだ!」

「その先輩はちゃんと処罰されたから大丈夫ですよ。ふふっ、本当におかしな人ですね。βがαに立ち向かおうなんて。」

「αとかΩとかいう前に俺は男だよ。男として大切な人を守りたいって思ってる。」

「その大切な人に僕が入るんですか?あんなに酷いこと言ったのに?」

「酷いことだったかな?正論ではあったけど。」

「ふふふ!あはは!」  

 小鳥遊君がケラケラと笑い始めた。

「なんのためにこんなに容姿に気を使ったと思ってるんですか?Ωの容姿を使って契約をとるのもそうですけど、あんなダサ男が自分ってバレたくなかった。…尊敬する営業マンのあなたに、インターンシップのときに褒めてくれたあなたに、こんな無様な仕事をしてるってバレたくなかった。それが最初からバレてるんだもん!」

 腹を抱えて笑い出す小鳥遊君。

「人がいいのが幸尚さんの魅力なんだよ。」

 三目君がにっこりと笑う。すると小鳥遊君が目尻に溜まった涙を拭って頷いた。

「あー、久しぶりにこんなに笑いましたよ。…多大な迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。責任をとって僕は…。」

「駄目だよ、小鳥遊君。…人生逃げてもいい時はもちろんある。でもね、今はそうじゃない。…部内での君の評判ははっきり言って悪い。それを覆すような仕事ぶりを見せてくれよ。俺の古巣でね。」

「山口さん…。」

 小鳥遊君の瞳がかすかに潤む。


「愚直な仕事ぶりを楽しみにしてるよ。」


 そういうと、小鳥遊君はインターンシップの時のような大声で「はい!!!」と返事をしてくれたのだった。




感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る−

社菘
BL
息子を産んで3年。 瀕死の状態で見つかったエリアスは、それ以前の記憶をすっかり失っていた。 自分の名前も覚えていなかったが唯一所持品のハンカチに刺繍されていた名前を名乗り、森の中にひっそりと存在する地図上から消された村で医師として働く人間と竜の混血種。 ある日、診療所に運ばれてきた重病人との出会いがエリアスの止まっていた時を動かすことになる。 「――お前が俺の元から逃げたからだ、エリアス!」 「本当に、本当になにも覚えていないんだっ!」 「ととさま、かかさまをいじめちゃメッ!」 破滅を歩む純白竜の皇帝《Domアルファ》× 記憶がない混血竜《Subオメガ》 「俺の皇后……」 ――前の俺?それとも、今の俺? 俺は一体、何者なのだろうか? ※オメガバース、ドムサブユニバース特殊設定あり(かなり好き勝手に詳細設定をしています) ※本作では第二性→オメガバース、第三性(稀)→ドムサブユニバース、二つをまとめてSubオメガ、などの総称にしています ※作中のセリフで「〈〉」この中のセリフはコマンドになります。読みやすいよう、コマンドは英語表記ではなく、本作では言葉として表記しています ※性的な描写がある話数に*をつけています ✧毎日7時40分+17時40分に更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】優しい嘘と優しい涙

Lillyx48
BL
同期の仲良い3人。 ゆっくり進んでいく関係と壊れない関係。

Ωの庭園

にん
BL
森 悠人(もり ゆうと)二十三歳。 第二性は、Ω(オメガ)。 施設の前に捨てられ、 孤独と共に生きてきた青年。 十八歳から、 Ω専用の風俗で働くしか、 生きる道はなかった。 それでも悠人は、 心の中にひとつの場所を思い描いている。 誰にも傷つけられない、 静かな庭園を。 これは、 そんな青年の物語。

【完結】君が笑うから、俺は諦められない

Lillyx48
BL
職場の先輩と後輩の恋のお話

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々
BL
なんと!HOTランキングに載せていただいておりました!!(12/18現在23位)ありがとうございます~!!*******超大手企業で働くエリート営業マンの相良響(28)。ある取引先の会社との食事会で出会った、自分の好みドンピシャの可愛い男の子(22)に心を奪われる。上手いこといつものように落として可愛がってやろうと思っていたのに…………序盤で大失態をしてしまい、相手に怯えられ、嫌われる寸前に。どうにか謝りまくって友人関係を続けることには成功するものの、それ以来ビビり倒して全然押せなくなってしまった……!*******百戦錬磨の超イケメンモテ男が純粋で鈍感な男の子にメロメロになって翻弄され悶えまくる話が書きたくて書きました。いろんな胸キュンシーンを詰め込んでいく……つもりではありますが、ラブラブになるまでにはちょっと時間がかかります。※80000字ぐらいの予定でとりあえず短編としていましたが、後日談を含めると100000字超えそうなので長編に変更いたします。すみません。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

そうだ課長、俺と結婚してください

藤吉めぐみ
BL
運命の番を信じるアルファ×運命なんか信じないアルファスペックのオメガ 社内、社外問わずモテるアルファの匡史は、一見遊んでいるように見えるが、運命の番を信じ、その相手に自分を見つけて欲しいという理由から、目立つように心がけ、色々な出会いの場にも顔を出している。 そんな匡史の働く職場に課長として赴任してきた池上。彼もアルファで、匡史よりもスペックが高いとすぐに噂になり、自分の存在が霞むことに不安を覚える匡史。 気に入らないという理由で池上に近づくが、なぜか池上から香りを感じて惹かれてしまい―― 運命の番を信じるアルファと運命なんか信じないアルファ嫌いのオメガのオフィスラブです。