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青い王子と雨の王冠
不思議な依頼②
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「これを預かるんですか?」
不思議な依頼にハフィは首を傾げる。
「そうだ。ただ預かるだけでいいんだよ。」
「そんな簡単なことでいいんですか?」
「いいんだよ。」
紳士がにっこりと笑った。
何だかとっても胡散臭いような気がする。ハフィは紳士をじーっと見つめてみるが、全く表情を崩さずにニコニコしている。
「えーっと、何で預からないといけないか聞いてもいいですか?」
このままでは埒があかないと思い、紳士に尋ねてみる。
「いやぁ、実は私が近々外国に行かないといけなくてね。でもこの王冠の持ち主がこれを取りに来る予定なんだ。とっても大切なものだから、信頼のおける人にお願いしたくてね。」
「お友達にお願いするとかは?」
信頼のおける人がいいというのであれば、それこそ家族や知人でもいいはずだ。
「実は私はこの国に住んでるわけではないだ。仕事で来ているだけでね。そしたらこの王冠の持ち主からすぐにこれを返してほしいと言われて、この国に来ていることを話したら取りにくるといって聞かないんだ。困り果ててしまってね。そしたら、魔法事務所で依頼を受けていると聞いてね。しっかりやってくれるという話を聞いたものだから。」
「えっと、それうちの事務所がですか?」
「うむ。そうだが?それとも何か問題でもあるのかなこの事務所は?」
「い!いえいえ、そんなことはありません!立派な事務所です!」
事務所の主人がよく行方不明なりますとは言えず、ハフィは何度も頷いて誤魔化した。
紳士になんとなく納得できる理由を言われ、ハフィは「そうなんですね。」と曖昧な返事をしてしまう。それを了承だと受け取ったのか、紳士がニコニコ顔のままで立ち上がろうとした。
「ちょ!待ってください!私は弟子なので、依頼を受けるかどうか決められないんです。お師匠さまが帰ってきたら話してみるので、その後に連絡させてもらってもいいですか?」
「うーむ、それじゃあ間に合わないんだ。実はこの後すぐにこの国を出る予定でね。…これだけ出すからお願いしたいんだ、頼むよ。」
「え、ちょっと!困ります!」
「受取人にはこの事務所のことは話してあるから大丈夫だ!ただ預かるだけだし、君のお師匠様もダメとは言わないさ!では、小さな魔女殿!」
「あ、ちょっと待って!本当に困ります!」
紳士は鞄からズッシリと重そうな皮袋を取り出してテーブルの上に置いた。ハフィがその中身を確認しているうちに、さっと立ち上がったと思うと、あっという間に紳士は事務所から出て行ってしまったのだ。
「うー、これどうしよう!ロミィさんに確認とらずに勝手に依頼受けちゃった
…。」
一番弟子としての初仕事がこの有り様とは本当に情けない。本来、弟子が勝手に依頼を受けるなどあってはならないのだ。
今すぐロミィに相談したいが、どこに行ったか分からないし連絡しようにも連絡手段がない。
「あー、どうしようどうしよう!」
いいアイディアが浮かばずに事務所の中をグルグルと回っていると、カランと入口の扉が開く音がする。先程の紳士が戻ってきてくれてのかと思い、ハフィが笑顔で顔を上げた。
「おい、お前の師匠はいるか?」
「うっ、オーラス…。」
ハフィの顔が嫌そうに歪む。そこにいたのは近くに魔法探偵事務所を構えている「ニィース・マキアマグア」の弟子となったオーラスだった。
「聞こえなかったのか?ロミィ様はいるかって聞いてるんだよ。」
オーラスが苛立たしげに繰り返す。
「お師匠様は出かけてていないです。えっと、何か御用ですか?」
「お前には用はない。」
「そんな言い方しなくても!」
ハフィが怒って目を吊り上げる。オーラスは、この国で一番有名で名だたる魔法使いが働いているニィースの魔法事務所に入ることができた。噂では卒業したばかりなのに、難しい依頼も難なくこなしているらしい。自分との違いを思い知らされて、ハフィは心の中で肩を落としていた。
「お前に話したって分からないだろ?薬草学も魔法学も詠唱学も全部赤点だったんだから。」
「うぐぅ!」
黒いツヤツヤの髪に紫色の綺麗な瞳。整った冷たいほどの顔立ちに加え、学力も魔力も高いオーラス。
成績も悪くて、魔力も小さい。卒業後も、どの魔法使いも拾ってくれず、路頭に迷いそうになったところを、ロミィが拾ってくれた自分とは全く住む世界が違うのだ。
だからといって馬鹿にされるのを黙って受け入れる訳にはいかない。ハフィだって努力はしているのだ。魔力が小さくたってできることはあるし、勉強だって今も続けている。
「オーラスの馬鹿!お師匠様はいないんだから、もう用事がないなら帰ってよ!」
「言われなくても帰るさ!…ん?お客さんが来てたのか?」
テーブルの上に置いてあったお茶が残ったカップを見てオーラスが尋ねてくる。
「そうだよ!だから忙しいの!早く帰って!」
「でもロミィ様はいないんだろ?勝手に依頼をうけたのか?」
「う、受けてないよ!ただ話を聞いただけ!っあ!」
自分の失敗を言い当てられて動揺してしまい、ハフィは体をテーブルにぶつけてしまった。その瞬間、テーブルの上に置いていた革袋からたくさんの金貨がこぼれ落ちてきた。
「なんだよこれ!ハフィ、お前、この金欲しさに依頼を受けたのか!?」
「ち、違うよ!これはお客さんが勝手に!」
「ならすぐに返しに行けば良かっただろ!勝手に依頼を受けて、勝手にお金を受け取るなんて!お前クビになるかもしれないんだぞ!」
オーラスの言葉にサッと顔が青くなってしまった。そうだ。こんな勝手なことをしたら、ロミィから怒られて事務所をクビになってしまうかもしれない。
「勝手なことする弟子なんて、師匠はいらないんだ!」
ダメ押しのようにオーラスに言われ、ハフィはぽろっと涙をこぼす。それを見たオーラスはしまったというような顔をしたがもう遅い。
「帰って、帰ってよ!オーラスの馬鹿!ちゃんと自分でできるから!オーラスなんか邪魔だもん!」
「っ、勝手にしろ!」
オーラスは捨て台詞を吐いて事務所を出て行ってしまった。
不思議な依頼にハフィは首を傾げる。
「そうだ。ただ預かるだけでいいんだよ。」
「そんな簡単なことでいいんですか?」
「いいんだよ。」
紳士がにっこりと笑った。
何だかとっても胡散臭いような気がする。ハフィは紳士をじーっと見つめてみるが、全く表情を崩さずにニコニコしている。
「えーっと、何で預からないといけないか聞いてもいいですか?」
このままでは埒があかないと思い、紳士に尋ねてみる。
「いやぁ、実は私が近々外国に行かないといけなくてね。でもこの王冠の持ち主がこれを取りに来る予定なんだ。とっても大切なものだから、信頼のおける人にお願いしたくてね。」
「お友達にお願いするとかは?」
信頼のおける人がいいというのであれば、それこそ家族や知人でもいいはずだ。
「実は私はこの国に住んでるわけではないだ。仕事で来ているだけでね。そしたらこの王冠の持ち主からすぐにこれを返してほしいと言われて、この国に来ていることを話したら取りにくるといって聞かないんだ。困り果ててしまってね。そしたら、魔法事務所で依頼を受けていると聞いてね。しっかりやってくれるという話を聞いたものだから。」
「えっと、それうちの事務所がですか?」
「うむ。そうだが?それとも何か問題でもあるのかなこの事務所は?」
「い!いえいえ、そんなことはありません!立派な事務所です!」
事務所の主人がよく行方不明なりますとは言えず、ハフィは何度も頷いて誤魔化した。
紳士になんとなく納得できる理由を言われ、ハフィは「そうなんですね。」と曖昧な返事をしてしまう。それを了承だと受け取ったのか、紳士がニコニコ顔のままで立ち上がろうとした。
「ちょ!待ってください!私は弟子なので、依頼を受けるかどうか決められないんです。お師匠さまが帰ってきたら話してみるので、その後に連絡させてもらってもいいですか?」
「うーむ、それじゃあ間に合わないんだ。実はこの後すぐにこの国を出る予定でね。…これだけ出すからお願いしたいんだ、頼むよ。」
「え、ちょっと!困ります!」
「受取人にはこの事務所のことは話してあるから大丈夫だ!ただ預かるだけだし、君のお師匠様もダメとは言わないさ!では、小さな魔女殿!」
「あ、ちょっと待って!本当に困ります!」
紳士は鞄からズッシリと重そうな皮袋を取り出してテーブルの上に置いた。ハフィがその中身を確認しているうちに、さっと立ち上がったと思うと、あっという間に紳士は事務所から出て行ってしまったのだ。
「うー、これどうしよう!ロミィさんに確認とらずに勝手に依頼受けちゃった
…。」
一番弟子としての初仕事がこの有り様とは本当に情けない。本来、弟子が勝手に依頼を受けるなどあってはならないのだ。
今すぐロミィに相談したいが、どこに行ったか分からないし連絡しようにも連絡手段がない。
「あー、どうしようどうしよう!」
いいアイディアが浮かばずに事務所の中をグルグルと回っていると、カランと入口の扉が開く音がする。先程の紳士が戻ってきてくれてのかと思い、ハフィが笑顔で顔を上げた。
「おい、お前の師匠はいるか?」
「うっ、オーラス…。」
ハフィの顔が嫌そうに歪む。そこにいたのは近くに魔法探偵事務所を構えている「ニィース・マキアマグア」の弟子となったオーラスだった。
「聞こえなかったのか?ロミィ様はいるかって聞いてるんだよ。」
オーラスが苛立たしげに繰り返す。
「お師匠様は出かけてていないです。えっと、何か御用ですか?」
「お前には用はない。」
「そんな言い方しなくても!」
ハフィが怒って目を吊り上げる。オーラスは、この国で一番有名で名だたる魔法使いが働いているニィースの魔法事務所に入ることができた。噂では卒業したばかりなのに、難しい依頼も難なくこなしているらしい。自分との違いを思い知らされて、ハフィは心の中で肩を落としていた。
「お前に話したって分からないだろ?薬草学も魔法学も詠唱学も全部赤点だったんだから。」
「うぐぅ!」
黒いツヤツヤの髪に紫色の綺麗な瞳。整った冷たいほどの顔立ちに加え、学力も魔力も高いオーラス。
成績も悪くて、魔力も小さい。卒業後も、どの魔法使いも拾ってくれず、路頭に迷いそうになったところを、ロミィが拾ってくれた自分とは全く住む世界が違うのだ。
だからといって馬鹿にされるのを黙って受け入れる訳にはいかない。ハフィだって努力はしているのだ。魔力が小さくたってできることはあるし、勉強だって今も続けている。
「オーラスの馬鹿!お師匠様はいないんだから、もう用事がないなら帰ってよ!」
「言われなくても帰るさ!…ん?お客さんが来てたのか?」
テーブルの上に置いてあったお茶が残ったカップを見てオーラスが尋ねてくる。
「そうだよ!だから忙しいの!早く帰って!」
「でもロミィ様はいないんだろ?勝手に依頼をうけたのか?」
「う、受けてないよ!ただ話を聞いただけ!っあ!」
自分の失敗を言い当てられて動揺してしまい、ハフィは体をテーブルにぶつけてしまった。その瞬間、テーブルの上に置いていた革袋からたくさんの金貨がこぼれ落ちてきた。
「なんだよこれ!ハフィ、お前、この金欲しさに依頼を受けたのか!?」
「ち、違うよ!これはお客さんが勝手に!」
「ならすぐに返しに行けば良かっただろ!勝手に依頼を受けて、勝手にお金を受け取るなんて!お前クビになるかもしれないんだぞ!」
オーラスの言葉にサッと顔が青くなってしまった。そうだ。こんな勝手なことをしたら、ロミィから怒られて事務所をクビになってしまうかもしれない。
「勝手なことする弟子なんて、師匠はいらないんだ!」
ダメ押しのようにオーラスに言われ、ハフィはぽろっと涙をこぼす。それを見たオーラスはしまったというような顔をしたがもう遅い。
「帰って、帰ってよ!オーラスの馬鹿!ちゃんと自分でできるから!オーラスなんか邪魔だもん!」
「っ、勝手にしろ!」
オーラスは捨て台詞を吐いて事務所を出て行ってしまった。
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