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落ちこぼれの魔法事務所

ゼンリューの家で①

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「甘いものは好きか?東洋のお菓子で羊羹っていうもんがあってな。美味しいぞ?あ、それよりも洋菓子の方がいいか?この前、ドワーフの奴らが持ってきたクッキーが確か棚の中にあったはずだ。」

「…。」

「どうした?他のものがいいのか?言ってくれれば欲しいものを買ってくる。それとも他のものを買って来させるか?待ってろ、今ドワーフの若い衆を呼び出す。」

「いえーーー!あるもので結構ですー!」

 ゼンリューの言葉に黙り込んでいたハフィは立ち上がりかけたゼンリューの腕を引っ張って引き留めた。ゼンリューは「そうか」と頷いてまたその場に座ったが、何だか残念そうにも見える。

「あ、あの。私、そろそろ帰らないと。」

「何を言ってる?今来たばっかりじゃないか。俺を元気付けに来てくれたんだろ?ならもう少し付き合ってくれ。」

「うぅ…分かりました。」

 ズイズイと近寄られて、至近距離で凄まれるとハフィは何も言えなくなる。そして何より顔が良い。頬を赤く染めてハフィは自分の顔を隠すように俯いた。

「どうして俯くんだ?顔をよく見せてくれ。」

「ひぇ!」

 ゼンリューがハフィの頬に手を優しく当てて顔を上げさせる。ハフィの顔を見たゼンリューは無表情のはずなのに、目元が少しだけ優しく細められたような気がする。

「…どうしてだろうな。もう何に対しても興味がなくなって、何をするにもやる気が出なかったはずなのに、お嬢ちゃんがそばにいてくれるだけで前の情熱が少し戻ってきたように感じる。お嬢ちゃんがいるだけで心が温まるような気がするんだよ。」

「はひ!な、なら良かったです。」

「…なぁ、よかったらしばらく俺の家で暮らさないか?生活するためのお金は全部俺が出す。お嬢ちゃんにはなんの不自由もさせねぇ。だから!」


「なーに100歳以上も年下の女の子口説いてるんだ、このクソ爺ィ!!」

「ひょえー!」

 突然部屋の扉が勢いよく開かれる。扉の向こうにいたのは先に帰ったはずのムーランだった。

「戻ってきてくれたんですね、ムーランさん!!」

 ハフィが半泣きで言うと、ムーランが笑ってハフィの頭を撫でてくれる。

「いつまでたってもハフィが付いて来ないから心配になってな。迷子にでもなってるのかと思って引き返してみても全然見つからねーし、もしかしてと思って爺さんの家に戻ってみたら、こんなことになってるしな!まさか爺さんに口説かれてるとは思わねーだろ!」

 ムーランがハフィの脇の下に両手を入れて持ち上げると、自分の後ろに隠す。

「おい爺さん、引きこもってると思ったらとんでもなく年下の女の子にプロポーズか?頭でもおかしくなっちまったのか?」

 ムーランの言葉を聞いてもゼンリューは全く意に解さない。ただひたすらにハフィを見つめ続けている。
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