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青い王子と雨の王冠

降雨の儀②

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「し、静間さんどうしたんですか?」

 まだ日が昇って少したったぐらいだ。静間も善雨とともにずっと忙しいと言っていたので、まさか部屋に来るとは思っていなかったハフィは慌ててしまう。それに数日前のやり取りのことも頭にあって気まずくなり、ハフィは俯いてしまった。

「…元気か?」

「へっ?あ、はい。」

 静間がぼそっと呟くように話す。一瞬何を言われたか分からなかったが、自分の体調を気遣ってくれたということに気付き、ハフィは慌てて返事をする。

「元気です!ご飯もちゃんと食べてますし!…犯人の目星は全然ついてないんですけどね。」

 へらへらと笑うハフィを見て、静間はグッと顔をしかめた。そしてそのまま、何も言わずにカタカタと震え出す。

「え?し、静間さん!?どうしたんですか?」

 尋常ではない静間の様子に、ハフィはベッドから飛び降りると静間のそばに駆け寄った。静間は無言で俯き、体を震わせている。

「静間さん?どうかしたんですか?どこか体の調子が悪いとか?」

「っ違う!!」

「静間さん…。」

 ハフィは目を見開く。

 静間は両方の目から涙を流していたのだ。ハフィは強く握りしめられている静間の両手を優しく包み込んで、下から静間の顔を覗き込んだ。

「静間さん…大丈夫ですよ。大丈夫ですから落ち着いてください。私が力になりますから。」

「っぅぅ!」

 ボロッと静間の両目から大粒の涙がこぼれ落ち始める。ハフィはゆっくりと静間の手を引く。すると静間は大人しくハフィの誘導に従ってベッドに腰を下ろした。激しくしゃっくりを上げながら子供のように泣き続ける静間。少しでも気持ちが落ち着けばいいと、ハフィは猫じゃらしを取り出して呪文を唱えた。

「静間さん、大丈夫ですからね。フィンフィンハフィ・ルールルー。」

 ぽわっとハフィの体が光る。ハフィが優しく静間の背中をさすり続けていると、どんどん静間の呼吸がおちついてきた。


「っ、すまん!こんな無様な姿を!」

 荒々しく腕で涙を拭った静間が謝ってくるが、ハフィは笑顔で首を横に振った。

「大丈夫です。静間さん、辛い時や悲しい時は泣いてもいいんですよ。それは大人でも子供でも関係ないんです。」

「そう…か。そうだな。泣きたい時に泣くことがきっと必要だったんだな。」

 静間が独り言のようにポツリと呟く。

「落ち着きましたか?」

 ハフィの言葉に静間が無言で頷く。

「なら良かったです。…お茶でも飲みますか?この数日間で私、この国の茶葉のお茶をいれるのがうまくなったんですよ!」

 いそいそと茶器を用意するハフィの手を静間が掴んで止める。

「静間さん…?」





「善雨様が捕まったんだ。」

 静間の目にはまた涙が浮かんでいた。

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