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青い王子と雨の王冠

降雨の儀④

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「あっ!おい、お前!」

「ひゃ!」

 少し離れた場所にいるハフィと静間に気が付いた村雲が大股で歩み寄ってくる。

「静間!お前がいながら兄さんが捕らえられるとはどういうことだ!兄さんを絶対に守ると誓ったのではなかったのか!」

 村雲が静間の胸元を掴んで至近距離で睨みつける。静間は悔しそうな顔をして、小さな声で「申し訳ありません」と謝った。

「ま、待ってください!静間さんは善雨さんを助けようとして!」

 ハフィが口を挟むと、村雲がギンっと睨んでくる。ヒッと悲鳴をあげてハフィは固まってしまった。

「くそ、分かってるよ!兄さんが捕まったのは突然のことだ。事前の情報が出ても何もなかったから、静間が動けるはずもない!くそ!!!」

 村雲が廊下の壁を自分の拳で殴りつける。

「父様の仕業だ!今まで側近に政治を任せて自分は寝てばかりだったのにこんなことをするなんて!父様に直接話を聞かないと何が何だか僕にも分からない!」

「…あなたの仕業ではなかったのですか?」

 静間が村雲に尋ねると、村雲は凪いだ瞳で静間を見た。

「…お前が僕のことを嫌っているのは知ってるよ。それが兄さんのためになっていたから僕は何も気にしていなかったけどな。でも勘違いするなよ。兄さんのことを一番思っているのは僕だ!お前じゃないぞ!なんたって僕は兄さんと血が繋がってるんだからな!どうだ!羨ましいか!側近風情が僕に敵うと思うなよ!」

 高笑いを始める村雲を静間は目を丸くして見ていたが、どんどん黙っていられなくなったようで「お言葉ですが!」と話を遮る。

「誰よりも善雨様のおそばにいるのは俺です!それはつまり誰よりも善雨様のことを理解していると言うことに他ならない!村雲様はあまり善雨様とお話しされていないご様子。やはり俺の方が善雨様のことを理解しております!」

「なんだと!生意気なやつめ!兄さんのことはなぁ!」


「お二人とも落ち着いてください!」

 そんな2人を止めたのは睡蓮だった。2人の間に割って入ると、静間を村雲から引き離す。

「こんなところで言い争っている場合ではありません!先程情報が入って来ましたが、善雨様が本日、村雲様に先んじて降雨の儀を行うことが決まったと言うことです!」

「「なんだと!」」

 いがみ合っていた村雲と静間が同時に睡蓮を見る。

「どういうことだ睡蓮!」

 静間が睡蓮に詰め寄る。

「なんでも善雨様が王に懇願されたとのこと。王の前に引きずり出された際に『私を王にしたくない何者かの陰謀だ。降雨の儀を行い、成功させれば本物の王は誰かはっきりする』とおっしゃったらしい。それで牢に入る前に儀式を行うと。」

「そうか…。兄さんが降雨の儀を。王になられるんだな。」

 村雲がホッとしたよう息を吐いてその場に座り込む。

「兄さんが降雨の儀を成功させれば元老院のジジィたちも黙るはずだ。王冠が王を選ぶんだからな。」

 「王冠が王を…?」

 ハフィの疑問に静間が答える。

「降雨の儀は王冠を被って青い霧雨を降らす儀式だと教えただろ?霧雨を降らすことができるのは、王冠に王と認められたものだけだ。王冠が王と認めなければ青い雨は降らない。」


 「睡蓮、兄さんの降雨の儀は何時だ?」

「準備が出来次第、すぐに行うと。」

「なら兄さんの勇姿を見ないとな。お前ら、中庭に行くぞ。」

 ハフィたちは村雲とともに中庭へ向かった。





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