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青い王子と雨の王冠

慈愛の雨④

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「ひゃっ!」

 ハフィの鼻にポツリと水滴が落ちてくる。上を見るとポツポツと雨が降り出しており、ハフィは鼻息荒く村雲に向き直る。

「村雲さん!雨です、雨が降ってます!すごいです!これが慈愛の雨なんですね!良かった、これで善雨さんも国民の皆さんも救われますね!」

 ハフィが村雲に駆け寄ろうとするが「待て!」とその腕を静間が握る。

「えっ!?なんで止めるんですか?」

「まだだ。まだ足りない。これは慈愛の雨じゃない。」

「え?」

 静間が悔しそうに歯ぎしりをする。ハフィは「そんな…。」と小さく呟いて静間につかみかかる。

「だって!雨が降ればいいって言ってたじゃないですか!今、ちゃんと雨が降ってます!」

「これは雨だ。」

「この国に必要なのはただの雨じゃなくて、全てを浄化する慈愛の雨だよ。…こんな雨では黒は消えないんだ。」

 静間の言葉をロミィが引き継ぐ。

「ぐぅ…、くそぉ。」

「村雲さん!?」

 立ったまま目をつむって祈りを捧げていた村雲が苦悶の声を上げて膝をつく。その呼吸は荒くなり、プルプルと体が震えている。明らかに体が悲鳴を上げていた。

「っ!村雲様、もうおやめください!これ以上祈りを続ければ二度とその足で歩けない体になってしまいます!」

 静間が怒鳴るように言うが、村雲は首を横に振った。

「嫌だ!僕は、僕は!絶対に兄さんを助ける!兄さんは、強くて優しくて!出来損ないと馬鹿にされていた僕にも優しくしてくれた!自分の方が寂しくて辛いはずなのに、僕のことを抱きしめてくれたんだ!そんな優しい人を!黒なんかに取られてたまるかぁ!!」

 ボロボロと涙を流しながら村雲が絶叫する。








「ハフィ。行っておいで。」

 静間に掴まれていた手をロミィが外してくれる。ハフィの背中を優しく押してロミィが耳元で優しく囁いた。


「前に言ったね。大事なのは自分を、自分の魔法を信じることだって。今度はもう一つ。大事な人を守りたいって強く思うんだ。絶対に自分が守るんだってね。」

「でも私は弱いです。強い攻撃魔法なんて使えない…。」

「攻撃魔法なんかいらないよ。守りたいっていう強い気持ちを君のとっておきの魔法に込めてごらん。きっとうまくいくさ。」

 ロミィはハフィの額にキスをして送り出す。

 「第二王子の手を握っておやり。君も一緒に慈愛の雨を降らせるんだ。1人でできないなら2人でやればいいのさ。どうだい、簡単だろ?」

 ロミィの力強い言葉がハフィに勇気をくれる。

「っ分かりました!お師匠様!一番弟子、行ってきます。」

 ハフィは元気に駆け出した。
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